雇用契約と就業規則が経営者を守る-カンボジア労務基礎セミナー(2)-

(カンボジア)

プノンペン事務所

2015年10月15日

 「カンボジア労務基礎セミナー」報告の2回目は、雇用契約について。同国では原則、外国人労働者数の雇用に上限があり、労働許可の取り締まりは強化されている。また、現地雇用契約は有期契約と無期契約に分かれ、雇用契約自体は口頭でも有効だが、書面での契約を取り交わすことが望ましい。

<外国人の労働許可取り締まりを強化>

 ジェトロの労務・法務専任委託コーディネーター田宮彩子氏は、カンボジアの雇用契約について以下のとおり講演した。

 

 外国人労働者の雇用は法令上、カンボジア人労働者全体の10%以下(事務職員3%、専門労働者6%、非専門労働者1%)に抑える必要がある。ただし、事業の遂行に欠かせない専門知識を有している労働者については、労働職業訓練省で特別許可を得れば10%を超えても雇用は可能で、その許可は比較的容易に取得できる。

 

 労働職業訓練省は外国人労働者の労働許可(ワークパミット)の取り締まりを強化しており、原則としてEビザ(ビジネス用)、Kビザ(クメール海外永住者用)で入国した全ての外国人が労働許可申請の対象になるとの見解を示しているが、省令や通達で明文化はされていない。つまり、短期出張であってもこれらのビザで入国する者は労働許可が必要だが、労働許可の取得には通常1ヵ月以上要する。このため、各社で申請の必要性を個別に判断しているのが実態だ。

 

<有期契約と無期契約に分かれる雇用契約>

 雇用契約は口頭でも有効だが、役所から雇用契約書の提出を求められることや労働問題が起きた際の重要な判断要素となるため、書面での契約を勧める。

 

○有期契約(労働法67条)

 有期契約を満たす要件は、「書面による契約」「契約期間の開始と終了を明記」「契約期間が2年以内」の3つだ。この3要件を全て満たす限り何度でも契約更新可能だが、労働仲裁評議会は通算2年超で自動的に無期契約の扱いとなるとの仲裁判断を示している。期間満了の場合、正当な事由不要で契約を終了できる。ただし、6ヵ月を超える契約は、雇用者側から契約者へ法令で定められた事前期間内に更新の有無について通知することが求められる。事前通知をしない場合は、同条件で雇用が更新されたと見なされる(労働法73条)。有期契約の終了時には退職金(Severance Pay)の支給が必要で、その金額は雇用契約期間中に支払われた「賃金および手当」の合計(税抜き)の5%となっている(73条)。「賃金および手当」とは、基本賃金のほかに時間外手当や賞与などを含む。契約期間満了前の解雇可能な要件は表1のとおり。

 ただし、契約期間満了前の解雇の場合も勤務期間に応じた退職金の支給・残有給休暇の補償(買い取り)が必要で、理由なく雇用者が有期契約を早期に終了させた場合、契約終了までに得られる金額に等しい補償が求められる。

 

○無期契約(労働法74条~)

 無期契約は、有期契約以外の全ての雇用契約のことだ。雇用者と労働者双方とも法令で定められた事前通知期間内に通知をすれば、一方の意思により契約を終了できる。雇用者側には原則として正当な解雇理由が必要となる。雇用者側が事前通知期間内に通知しない場合は、労働者に対して通知期間の賃金と手当を補償しなければならない。また、解雇の場合は、労働者の重大な違反のケースを除き、正当な事由の有無を問わず解雇補償(Indemnity for Dismissal、労働法89条)として勤務期間に応じた日数分の平均日給を支払う必要がある(表2参照)。

 カンボジアでは、ワーカーの多くが有期契約の契約更新のたびに退職金をもらえると認識しているため、通算で2年を超えて有期契約を結んでいるケースが散見される。雇用者側も有期契約であれば雇用調整をしやすいとの思惑もある。しかし、退職金は雇用契約が終了する際に支払われるべきもので、契約更新のたびに支払う必要はないほか、定期的に発生するため賞与と見なされる可能性もあり、税務リスクが発生することにも留意する必要がある。また、通算2年を超える契約は無期契約と扱われ、解雇の正当性が争われた場合は解雇できないという事態も発生し得る。それでも、勤続期間が2年を超える有期契約を締結するのであれば、労働監督官の立ち会いの下で雇用者と労働者間で合意書を作成し、署名するなどの方法を勧めるが、それでも無期契約と判断されるリスクがあることを認識しておく必要がある。

 

<懲戒事由を明記し紛争への備えに>

 労働法では、労働者の重大な違反行為(窃盗、横領、職場での暴力行為、会社の信用を低下させるような行為、職場内での政治的なデモなど)も定義されている(83条)。同法に基づく違反行為は、即時解雇が可能となる。それ以外は、「懲戒は不正行為の程度にふさわしくなければならない」とされ(27条)、懲戒事由とそれに対する懲罰の適切さが問題となる。懲戒行為に関する裁判や仲裁は就業規則によるので、法令に基づく以外の懲戒事由とその懲罰内容を就業規則に明記し、労働職業訓練省に登録することは労使紛争への備えとして重要だ。

 

 なお、ジェトロ・プノンペン事務所では、田宮氏が作成した就業規則・雇用契約書のサンプルを提供している。

 

俣野有美)

(カンボジア)

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