TPP大筋合意後も国内配慮の姿勢を堅持

(マレーシア)

クアラルンプール事務所

2015年10月14日

 10月5日に大筋合意した環太平洋パートナーシップ(TPP)について、マレーシア政府は市場拡大のメリットとともに、国益につながる政府調達や国営企業などの分野で例外扱いが認められた成果を強調した。さらに、合意と署名は別問題との立場から、TPPに反対する関係者に配慮する姿勢を示した。

<主要国営企業はほとんど例外適用か>

 国際貿易産業省(MITI)は、TPPの市場アクセスの分野でマレーシアは、他の自由貿易協定(FTA)同様、ほぼ全ての輸入品に対する関税を撤廃するとした。一方、市場アクセス分野の進展はマレーシアの輸出業者(特に電気・電子、化学製品、パーム油製品、ゴム製品、繊維、自動車部品)の競争力強化に資すると評価している。

 

 ムスタパMITI相は、マレーシアが懸念していた政府調達、国営企業、(マレー系と先住民族を多方面で優遇する)ブミプトラ問題に配慮した内容となったと表明した。具体的には、マレーシアが要望していた自由化までの長い移行期間と例外的待遇が認められた、と述べた。さらに、医薬品の保護について、マレーシアは国民が安価な医薬品を入手できる権利を否定する内容には同意できないとする一方、革新的な新薬を生産する医薬品会社に必要なインセンティブを付与することには前向きだとしている。

 

 国営投資会社カザナ・ナショナルは106日、10年前に策定された国営企業改革プログラムを経て、利益を生み出せる構造になっており、TPPへの準備はできていることを明らかにした。また、ムスタパMITI相は国営企業について、マレーシア経済に大きな影響力を持つカザナ・ナショナルや国営石油大手ペトロナスとの協議で、大筋合意の内容を提示する予定だ、と述べた。一方、ロイターは107日、この2社には協定の適用がほとんど免除される、との同相のコメントを報道している。

 

<署名から発効までには2年を見込む>

 政府はTPPがマレーシアの特定分野では自由化が要求されないとし、署名にも確約を与えていない。同相は今回大筋合意がされたが、実際に署名するか否かは別問題とし、今後は協定全文を国民に周知し、議会にも提出した上で、署名を決定するプロセスをたどる、とした。マレーシアはTPPに反対の関係者に配慮するために、交渉当初から憲法や国益を害する協定には署名しないスタンスを維持してきた。

 

 政府は協議内容の詳細を1ヵ月以内に公表し、MITI相がTPPによる費用対効果を2ヵ月以内に分析し、結果を国会に提出する予定だ。MITIはマレーシアが署名を決めたとしても、発効までは法整備などの国内手続きから2年を要すると踏んでいる。なお、ナジブ首相は、TPPに関する交渉をMITI相に委任した。

 

<市場やビジネス界はTPP大筋合意を評価>

 マレーシアの市場関係者、識者やビジネス界は、今回のTPP大筋合意をおおむね歓迎している。為替市場では、これまで売られ続けてきたリンギが大筋合意の5日以降は反発している。ムスタパMITI相は、TPPがリンギの回復に寄与していると評した。背景には、TPPにより、これまでマレーシア企業がFTAを締結していなかった米国、カナダ、メキシコ、ペルーへの市場に容易にアクセスできることになる点などがある。

 

 シンクタンクのマレーシア民主主義・経済研究所(IDEAS)は、歴史的な合意と評価した上で、署名に当たってはナジブ首相が短期的な政治的人気取りを考慮するのではなく、長期的にマレーシアにとって最良の選択肢は何かということを勘案して行動する必要がある、とした(国営ベルナマ通信106日)。

 

 MITITPPの署名に慎重姿勢を示すが、経済界から懸念の声も上がっている。例えば、イスラム消費者協会(PPIM)は、国外企業の進出が地元企業のビジネスにマイナスの影響を及ぼすことに警戒感を示した(「ニュー・ストレーツ・タイムズ」紙107日)。知的財産の分野では、最先端のバイオ医薬品を開発した製薬会社に独占的な販売を認める「データ保護期間」は、実質的に8年間とすることで決着したが、マレーシア医療協会(MMA)は、国内の状況を踏まえれば、新薬のデータ保護期間は5年以上に設定すべきではない、と合意内容に不満を呈した。

 

 TPPについては、これまでも国内では先進国主導のFTAゆえに反対の声は強かった。だが、ムスタパMITI相は、今回の大筋合意が他の大型通商交渉が進展する上での呼び水となることに期待を寄せている。具体的には、2015年のASEAN議長国であるマレーシアが力を入れる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉加速の機会になるとみている。

 

(新田浩之)

(マレーシア)

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