廃炉・除染分野の研究開発協力に期待-ロンドンで「日英原子力研究開発協力シンポジウム」開催-

(英国、日本)

ロンドン事務所

2015年10月16日

 ジェトロは9月10~11日、在英日本大使館などとの共催で「日英原子力研究開発協力シンポジウム」をロンドンで開催した。日英の民生用原子力分野における共同研究の進捗が報告され、英国で原子力発電所の新設計画に参画する日立製作所が同社の改良型沸騰水型原子炉(ABWR)について説明した。今後、日本では福島第1原発などの廃炉・除染分野で、英国では原子力発電所の新設などで、両国の技術協力が期待されている。

<政府間の「対話」や研究者の交流が加速>

 日英両国は、20124月のキャメロン英国首相の訪日時に発表した共同声明「世界の繁栄と安全保障を先導する戦略的パートナーシップ」の付属文書「日英民生用原子力協力の枠組み」に基づき、民生用原子力分野における協力関係を強化している。政府間の「日英原子力年次対話」が2012年から3回開催されているほか、原子力政策や安全・規制、廃炉・除染のほか、研究開発などの協力分野でも両国の研究者の交流が加速している。

 

 こうした中、ジェトロ・ロンドン事務所は91011日に、在英日本大使館などとの共催で日英原子力研究開発協力シンポジウムを開催した。シンポジウムでは、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元・副理事長(現理事長)が、福島第1原発の廃炉・除染作業の課題や今後の見通しについて説明した。廃炉・除染分野で活用が期待される研究分野として、原子炉内にある燃料デブリ(注)などを特定、調査するロボット技術や、汚染水の処理対策技術などを挙げ、廃炉事業に関する豊富な経験を持つ英国企業や大学・研究機関などに日本の廃炉事業での技術協力を呼び掛けた。

 

2分野の共同研究開発の現状を紹介>

 文部科学省研究開発局核不拡散科学技術推進室の山村司室長は、日英原子力共同研究ファンドをはじめとした日英の共同研究開発の現状について説明した。日英原子力共同研究ファンドは、2013年の第2回日英原子力年次対話を受けて2014年から開始されたプログラムで、初年度は設計時の想定を超える過酷事故(シビアアクシデント)への対応と環境安全性の2分野の案件が採択されている。今回のシンポジウムではこの2件の研究開発事例について紹介があり、東京大学の岡本孝司教授とインペリアルカレッジのクリストファー・ペイン教授が、シビアアクシデント時における流体計測による溶融反応の数値解析の進捗について、日本原子力研究開発機構(JAEA)の大貫敏彦上級研究主席が、汚染水や汚染土壌の除染物質開発に関するバーミンガム大学との共同研究の進捗について、それぞれ説明した。

 

 また、産業界と大学・研究機関との連携に関しては、英国での原子力発電所新設計画に参画する日立製作所が英国の大学との連携について、東芝傘下のウェスチングハウスが英国立原子力研究所(NNL)との連携について説明した。さらに、JAEA廃炉国際共同研究センター(CLADS)の木村貴海センター長代理が同センターの取り組みついて説明し、日英協力のさらなる推進を呼び掛けた。

 

 その後、今後の日英協力の方向性について、講演者と参加者との熱心なディスカッションが行われた。日英原子力年次対話の英国側議長を務めるロビン・グライムス外務省科学技術顧問が、本シンポジウムでの議論を2015年秋に予定されている第4回対話につなげていきたいと述べ、京都大学の小西哲之教授が日本原子力学会を代表して、両国の原子力関係者のさらなる交流・協力への期待を述べて締めくくった。

 

<日立製作所は英国での人材育成に注力>

 シンポジウム2日目には、日立製作所が「ABWRセミナー」と題して、同社が製造するABWRのシステムなどについて説明を行った。日立製作所は2012年に英国の原子力発電事業開発会社ホライズン・ニュークリアパワーを買収、ABWRの建設を計画している。同社は、英国での原子力発電所建設における人材育成の観点から、インペリアルカレッジなどと共同でABWRに関するセミナーを年に数回開催している。

 

 シンポジウムには日英の大学・研究機関のほか、日本のメーカーやエネルギー関連企業、英国の廃炉関連企業を中心に、2日間で延べ200人以上が参加。日英の原子力分野における産学官の連携を図る交流が行われた。

(注)原子炉燃料が溶融し、原子炉構造材や制御棒とともに冷えて固まった堆積物。

 

(岡部文人)

(英国、日本)

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