シリアなどからの難民がブダペストの駅に滞留-ハンガリー国鉄、西欧行き列車の運行を停止-
(ハンガリー)
ブダペスト事務所
2015年09月04日
シリアなどからの難民が、隣接するセルビア経由でハンガリーに大量に越境入国している。最終目的地のドイツなどを目指す多くの難民が、ブダペストの国際列車発着駅に滞留してきたことから、ハンガリー国鉄(MAV)は9月3日朝、西欧行き国際列車の運行を停止した。西欧との移動の際には最新情報を入手して、余裕を持った行動が望まれる。
<難民の流入数は14万人、2014年の3倍強に>
シリアやアフガニスタンなどからの難民のハンガリーへの流入が止まらない。ハンガリーは、欧州26ヵ国が加盟し域内の移動が自由にできるシェンゲン領域の東南端に位置している。トルコやギリシャ、マケドニアから移動してきた難民は、シェンゲン域外のセルビアからハンガリーに流入している。警察当局によると、8月25日現在、当局が把握している不法入国者数は14万人と、4万人だった2014年の3倍強に達し、そのほぼ全てがセルビア経由だ。
ハンガリー入国後、鉄道を利用してドイツや北欧など欧州の豊かな国を目指す人々は、南東欧と西欧を結ぶ幹線鉄道のハブであるブダペストに移動し、ウィーンやミュンヘンなど西欧の都市とを結ぶ主要駅である東(ケレティ)駅に集まっている。なお、東駅では、市当局が難民に対応するためトランジットゾーンを設け、飲料水やトイレなど施設の提供を行ってきた。
<有刺鉄線かいくぐり不法入国続く>
政府は、EU諸国などからの「人道上の問題」との批判を押し切り、難民流入が集中するセルビアとの国境沿い175キロに有刺鉄線を張り巡らせた。また、それに並行させるように高さ4メートルのフェンスの建設を急いでおり、10月までに完成させたいとしている。
しかし、実際は有刺鉄線をかいくぐるなどして、不法入国は続いており、国境での入国・難民申請は困難な状況となっている。政府は国内4ヵ所に難民施設を設け、難民申請手続きを行っているが、数ヵ月を要する手続きの迅速化を図る一方、難民施設の受け入れ能力が十分でないことから、セルビア国境に追加施設の設置を検討している。
EUのルールでは、難民申請は最初に入国したEU加盟国で行うことになっている。東駅で滞留する難民の中には未申請の者も多く含まれているとみられ、西欧に向かう国際列車に殺到したことから、9月1日朝以降、警察当局が東駅への入構を厳しく制限したが、ドイツ行き列車の切符を購入した難民から抗議の声が上がり、断続的に緊迫した状況が発生していた。
<ビジネスへの影響は限定的も注意が必要>
市民生活やビジネスへの影響は限定的だ。東駅周辺で交通規制などがみられたが、現在のところ、難民が市内にあふれることはなく、ブダペスト市内での商業活動や交通機関への影響は特にみられない。しかし、9月3日朝、警察当局が難民の東駅構内への立ち入りを認めるのと時を同じくして、MAVは安全上の理由から、西欧向け国際列車の運行を停止することを発表した。このためオーストリアなどへ向かう場合、ハンガリー国内の途中の駅で別の列車に乗り換える必要がある。鉄道でオーストリアなどへ向かう場合は注意が必要だ。
自動車での移動については、オーストリア国境で一時、検問のため数十キロの渋滞が発生したが、現在は解消されているもよう。ジェトロ・ブダペスト事務所が9月3日までに当地日系製造業に確認したところ、生産活動に支障は出ていないようだが、地元経済紙では、物流関係企業の話として配送の遅延などの悪影響を懸念する声が紹介されている。鉄道同様に、自動車での移動でも余裕を持った行動が望まれる。
(バラジ・ラウラ、本田雅英)
(ハンガリー)
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