中東・アフリカの治安は悪化、ビジネスリスク対策が不可欠-ジェトロが「安全対策セミナー」開催(1)-

(中東、アフリカ)

中東アフリカ課

2015年09月16日

 ジェトロは8月29日にミュンヘンで、中東・アフリカ地域の最新の治安情勢やビジネスリスクを紹介する「安全対策セミナー」を開催した。その内容を2回に分けて報告する。前編は中東・アフリカ地域の情勢全般について。

<トルコ開催に続き国外2度目>

 ジェトロの「中東・アフリカ安全対策セミナー~専門家が語る中東・アフリカ最新情勢とビジネスリスク」は、経済産業省の新興国補助金事業として、20148月のトルコ開催(2014年9月5日記照)に続き、国外では2度目の開催。日系企業を中心に67人が参加した。

 

 今回の講師は4人で、前回と同じく国際開発センターのエネルギー・環境室の畑中美樹研究顧問が中東・アフリカ諸国の動向を分析し、日本エネルギー経済研究所中東研究センターの吉岡明子主任研究員がイラクと「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」の動向を分析した。加えて、ジェトロ・イスタンブール事務所で中東情勢をウオッチしている橋本諭所員と、西側諸国との核協議の最終合意で注目されているイランの専門家として、アジア経済研究所の鈴木均海外調査員(在ロンドン)が登壇した。

 

<高い交通事故の危険性>

 前回と同様、セミナーは中東地域の日系企業の駐在員が多数集まる中東協力センター主催「中東協力現地会議」に合わせて開催した。ジェトロの宮本聡副理事長のあいさつに続き、橋本所員が「中東地域におけるビジネスリスク」について解説した。要点は以下のとおり。

 

1)中東ビジネスでの主なリスクとしては、テロ・誘拐、交通事故、感染症、情報関連リスクがある。特に交通事故の危険性が高いので要注意。

22014年は全世界でテロ件数(特に誘拐・人質事件)が大きく増加しており、中東ではイラク、アフガニスタン、シリアなどが発生件数の上位を占めた。

3)(イスタンブール所員の立場から)最近のトルコ情勢は、クルディスタン労働党(PKK)によるテロの発生や、ISISへの活発な軍事活動の開始など、政治・治安面で不安定になりつつある。

ISISのテロ拡大などリスクはさまざま>

 次いで登壇した畑中講師の専門は中東経済論だが、今回は「中東・アフリカ地域の政治・治安情勢とビジネスリスク」と題し、アフリカ諸国の最新情勢までを含めて解説した。

 

 最初に、最近の中東・アフリカ地域のビジネスリスクの特徴として、ISISのテロ拡大やクルド勢力の台頭、内戦の継続などによる治安悪化、イランの台頭による緊張の高まり、権力闘争や汚職・腐敗の取り締まり強化による内政の不安定化、原油の低価格が続いていることによる社会不安や補助金削減の発生、中国経済の異変が与えるリスク、などの視点を挙げた。

 

 まず、中東地域について以下のように情勢を解説した。

 

1)サウジアラビア

 かつては国境沿いや東部州に限定されていたが、首都リヤドで警官襲撃事件が起きるなど最近はテロのリスクが全土に拡大し、上昇している。連動して隣国のクウェートでも自爆テロが発生し、バーレーンでも爆発物持ち込みなどのリスクが高まっている。

 

2)イエメン

 サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)が地上軍を同国に派遣したことにより、ハディ暫定大統領を支持する「人民抵抗委員会」が4州を制圧し、フーシ派の勢力を押し戻すなど、戦闘が続いている。

 

3UAE

 財政健全化のため、国内販売用のガソリン、軽油の補助金撤廃を発表した。長期化する原油価格下落に対する補助金削減の動きと、それに対する反発が顕在化しつつある。

 

4)トルコ

 これまでは消極的だったISISPKKへの空爆を開始したことで、これら勢力によるテロが懸念されている。政治では与党・公正発展党(AKP)による連立交渉が不調に終わり、111日に再び総選挙が行われることとなった。

 

5)シリア

 アサド大統領が7月に兵員不足で苦戦していることを認め、アサド支持勢力の劣勢が顕著になっているが、激しい内戦が続いている。

 

<モロッコは相対的に安定>

 次いで、アフリカ諸国については北アフリカ、西アフリカ、東アフリカの3地域に分けて、以下のように解説した。

 

1)北アフリカ

 リビアでは、国連リビア支援ミッションによる和平交渉もまとまらず、東西政府が対立する混乱状況が続く。ISISと地元武装組織との戦闘も激化している。

 

 チュニジアは、3月の博物館襲撃事件や6月のリゾート地スースの襲撃事件を受けて、「反テロ法」を可決。非常事態宣言も83日から2ヵ月間延長した。

 

 アルジェリアでは、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」が軍兵士を殺害する事件が発生。ISISが活動拡大を計画中とも伝えられる中、過熱するアラブ人と北アフリカに広く住むベルベル人の抗争にも要注意だ。

 

 モロッコは、ISISに関連するとみられる戦闘員を事前に察知して逮捕するなどしており、相対的には安定している。

 

2)西アフリカ

 マリでは、武装勢力が人質を取ってホテルに立てこもる事件など、イスラム過激派によるテロが多発している。ボコ・ハラムが引き続き活動中で、ナイジェリア北東部や近隣国のチャド、カメルーンで立て続けに爆破攻撃を行っている。

 

3)東アフリカ

 ソマリアを拠点に活動するイスラム過激派アル・シャバーブが東アフリカでの活動強化を表明し、ソマリアに加え隣国ケニアでも爆破テロを行っている。

 

 畑中講師は、全般的に中東・アフリカ地域の治安情勢は悪化の傾向にあり、今後も現地ではビジネスリスク対策が不可欠との見方を示した。

 

(米倉大輔)

(中東、アフリカ)

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