FDAが食品安全強化法の主要規則2本を発表

(米国)

シカゴ事務所

2015年09月30日

 食品医薬品局(FDA)は9月10日、米国食品安全強化法(FSMA)の主要規則のうち食品製造業者などに影響の大きい、ヒト向け食品、および動物向け食品の危害の予防管理に関する最終規則をそれぞれ発表した。規則は輸入食品も対象で、原則として2016年9月19日から適用されるため、米国市場向けに食品を出荷している食品製造業者は、施行に向けて対応が必要となる。

<パブリックコメントを反映した内容に>

 米国食品安全強化法(FSMA)は2011年に成立し、規則の策定権限がFDAに付与された。20131月、食品製造業者に危害の予防を義務付ける規則案が発表され、パブリックコメントに付された。20149月には同案の一部を修正するかたちで2回目のパブリックコメントに付され、今回の最終規則の発表に至った。

 

 今回の発表は、利害関係者から出されたコメント、およびそれに対するFDAの回答が資料の大半を占めている。

 

 今後は施行に向けて、国内外の企業に対する制度周知や、各企業に配置を求める「危害の予防管理を行う責任者(Qualified IndividualQI)」向けの教育資料の策定作業などに重点が置かれていくと予想される。

 

<原則として2016919日から適用>

 最終化規則の主な内容は以下のとおり。

 

1)規則の適用時期

 危害の予防管理に関する規則は、原則2016919日から適用されるが、零細企業(親会社や関連会社を連結させた会社全体の食品売上高が100万ドル未満の企業)に関しては適用開始が2018917日以降となる。零細企業は2年に1度、FDAのウェブサイトや電子メールにより、零細企業であることなどの証明を求められる。

 

2)適用対象となる食品の範囲

 同規則は、原則として米国で消費するFDA所管の食品全てに適用される。従って、米国内で製造された食品のみならず、米国外からの輸入品に関しても適用されるため、日系食品製造・保管・包装業者も規則への対応が必要となる。

 

3)食品安全計画の策定

 具体的に食品製造業者が行うべきものとして、食品安全計画(Food Safety Plan)の策定と、その後の危害管理および計画の遂行状況のモニタリングなどがある。食品安全計画の策定に当たっては、まずは危害の特定を行った後、管理すべき危害かどうかの危害評価を行う。特定すべき危害としては、既に知られている、あるいは合理的に予見可能な、病原菌などの生物的危害、化学的危害(放射性物質の残留なども含む)、異物混入などの物質的危害などが挙げられている。また、意図せずに発生する危害に加え、経済的理由で異物を混入するような意図的に起こり得る危害も、特定すべき危害に入るとしている。

 

 また、特定された危害に関し、発生した場合の危害の深刻度や発生する見込みを分析し、何が管理すべき危害であるかを決定することが求められている。その際、危害分析および重要管理点(HACCP)における重要管理点(CCP)だけでなく、事業者がほかに管理した方が良いと判断する危害も含むとしている。

 

 また、レトルト食品(調理済み食品)に関しては、調理・包装後に、病原菌などの発生の抑制などを行うための工程が危害管理の対象となっており、サルモネラやリステリア・モノサイトゲネスなどが、危害管理すべき病原菌として例示されている。

 

4)危害管理およびモニタリングなど

 食品製造業者は、QIを設置し、科学的・技術的観点から計画の妥当性を確認することが求められている。QIに関しては、危害の予防管理に関する業務に一定の経験を有する者であるか、あるいは、FDAが認めるトレーニングカリキュラムを受講している者に限る、とされる。このトレーニング内容については現在、FDAが官民共同で策定作業を行っているといわれている。

 

 計画の運用状況の検証も別途必要とされ、人体の健康などに重大な被害をもたらす場合は監査を実施することとなる。それ以外の検証方法や頻度については各社に裁量を持たせている。

 

 また、今回の規則はサプライチェーン管理という新しい概念を導入し、原材料調達を行っている場合は、原材料の調達元のリスク管理状況も確認することを求めている。

 

 適切に食品安全計画の運用がなされていなかったり、新たに危害を管理する必要が生じたりした場合には、是正措置を的確に講じることが求められる。また、モニタリング結果については、適切な時間や温度管理記録の保存が求められる。

 

5)その他留意点

 規則全文やガイダンス文書に関して、FDAは今のところ英語以外への翻訳は予定していない。ただし、零細企業向けのガイダンス文書の発行を現在予定しており、これに関しては他言語への翻訳も検討している。

 

 民間非営利団体の世界食品安全イニシアチブ(GFSI)の認証取得企業について、FDAは民間のGFSIの取得と、FSMAの順守はあくまでも別であり、GFSIを取得しているからといってFDAの検査が免除されることはないとしている。ただし、例えば各社のリスク管理の中で、GFSIで管理が求められているリスクの内容がFSMAでカバーすべきリスクの内容と同じであることが証明できれば、GFSIの枠組みの中でのリスク評価をもって、FSMAのリスク評価に代替できるとしている。

 

 同規則は「農場(farm)」の定義を明確化している。農場と同一の所有者(複数の生産者で所有している場合や、協同組合が農場を所有している場合も含む)が、収穫された作物のカット、洗浄、包装などを行う施設も農場と定義され、基本的に同規則の適用は受けず、10月末に最終化予定の(野菜や果実などに対する)生産安全基準の適用を受けることになる(FSMA105条)。また、収穫された農作物を利用してFDAの定める低リスク行為に該当する簡易加工を行う場合は、同規則の食品安全計画の策定や、同規則に基づくリスク管理を行う必要がなくなる。ただし、どういう場合が低リスク行為に該当するかは、個別に状況が異なるため、ケース・バイ・ケースでの確認が必要となる。

 

<外国供給業者向けの規則も最終化へ>

 10月末には、対米輸出品を扱う卸業者に最も影響を与える、外国供給業者検証プログラムの規則最終化も予定されている(FSMA301条)。FSMAの規則は幅広く内容も多岐にわたっているため、米国への輸出食品を扱う各業者においては、各規則の適用期限までに順次できるところから対応を進め、順守できる体制を整備する必要がある。

 

(伊藤大介)

 

(米国)

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