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日額の最低賃金、3,600チャットに決定-縫製業界などは不満を表明-

(ミャンマー)

途上国ビジネス開発課、ヤンゴン事務所

2015年09月07日

 最低賃金策定に関わる国家委員会は8月28日、全国一律かつ全業種を対象とする最低賃金の日額を3,600チャット(約335円、1チャット=約0.093円)に決定する通達を発表し、9月1日から適用を開始した。2013年3月に制定された最低賃金法および同年7月の施工細則の決定から2年以上を経てようやく決定された。今回の金額については労働者側も一定の評価をしており、政権側としても11月の総選挙に向けて功績をアピールできる好材料となる。一方、縫製業など多くの従業員を抱える一部の事業者は、今回の決定額が高過ぎると不満を表明しており、既に複数の工場では従業員削減に着手し始めた。

<零細企業や家族経営の事業は対象外に>

 今回の発表(No.2/2015828日付)で、日額(8時間労働)は3,600チャット、時間給は450チャットに決定され、15人未満の零細企業あるいはそれに類似する家族経営の事業は対象外となる。既に同額以上が支給されている場合、労働者はその権利を継続することができ、同額未満の場合、事業者は同水準まで引き上げなければならない。

 

SEZ内の最低賃金決定にも影響か>

 今回の金額決定に伴い、同法の細則により、労働者の本採用以前の技術研修期間(3ヵ月)においては同額の50%以上、技術研修期間終了後の試用期間(3ヵ月)では75%を支払うことになる。なお、経済特区(SEZ)内の最低賃金については、最低賃金法第9条に定められているとおり、SEZ管理委員会が投資事業別に最低賃金額を決定の上、管区あるいは州の最低賃金策定に関わる委員会と協議し、国家委員会(注)に提出後、閣議決定を経ることとなる。今回の決定額がそのままSEZに適用されることはないが、実際の金額策定では重要な参考値になると考えられる。

 

 最低賃金法では、国家委員会は賃金を決定する少なくとも60日前に、新聞や官報などに金額を周知する必要があると定められている。周知された金額に反対する者は、2週間以内に異議申し立てをしなければならないとされている。これらに従い、国家委員会は630日の国営新聞に最低賃金策定に関わる提案額の通達(No.1/2015629日付)を掲載した。

 

 複数の現地民間新聞によると、同通達に対する異議申し立て期限の713日までに反対意見書180通以上が提出され、最も多かったのが縫製業(160通以上)だったとされている。これらの異議申し立てに対し、83日まで金額決定に関わる各管区や州レベルの委員会による協議が行われ、その後818日の国家委員会で全会一致により決定されたとされる。

 

<労働者寄りの決定、諸手当含めれば経営を圧迫との声>

 これまで、縫製業の事業者は日額2,500チャットが限界と主張してきたが、労働者側は日額4,000チャットを訴えてきた。今回の日額3,600チャットは労働者寄りの決定となったといえる。2014年時点での双方の要求額は事業者が2,000チャット、労働者側が5,6007,000チャットだった。ジェトロが20156月にヒアリングした際は、「熟練労働者への日額3,600チャットの支払いは可能だが、非熟練労働者へは不可能。また、労働者側が要求する3,600チャットは基本給で、さらに諸手当を支払うことを求めているため、同額が決定されると経営を圧迫する。諸手当を含めての3,600チャットであれば、対応は可能」(地場縫製業)といったコメントがあった。

 

 事業者側は「最低賃金の決定は労働・雇用・社会保障省(以下、労働省)だけの問題ではない。事業者に対する政府の優遇策や貿易制度の緩和など、政府全体で取り組まなければならない」と訴えてきた。そのため、今回の金額決定については、地場の縫製業界にとり不満が残るかたちとなったが、受け入れざるを得なかったもようだ。現地民間新聞の報道によると、中国、韓国などの縫製業の一部の外国資本が629日付の通達文が出された時点で、「同額が決定されれば撤退する」とした発言を紹介した。労働者側はこの発言に対し「撤退しても構わない」など強気の姿勢だったが、今のところ撤退を表明した外国企業はまだないようだ。

 

ETIと米国やカナダの業界団体は支持>

 世界的に有名なアパレルメーカーであるギャップ(GAP)やヘネス・アンド・マウリッツ(HM)などの企業とNPO、労働者などで構成されているエシカル・トレーディング・イニシアチブ(ETI)は715日時点で、日額3,600チャットを支持することを発表したほか、現地の国営英字新聞「グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマー」(826日)は、米アパレル・履物協会(AAFA)、全米小売業協会(NRF)、米国履物流通小売業界(FDRA)、カナダ小売業協会(RCC)、米国ファッション産業協会も、3,600チャットを支持する旨の共同書簡を労働相に提出したことを報じた。日額3,600チャットとなれば、外国からの直接投資が後退すると、縫製業界が懸念を訴えてきただけに、米国を中心とする複数の団体からこうしたコメントが出されたことを、ミャンマーの縫製業界は複雑な思いで受け止めたものと思われる。

 

<地場の縫製大手は従業員の半数を削減へ>

 離職率が高く熟練労働者の確保が難しいミャンマーの縫製業界にとり、今回決定された日額3,600チャットは将来的な工場経営に大きな影響を及ぼすことが予想される。ある地場の縫製大手企業は、約600人いる従業員のうち、半数以上を削減する準備に着手しているとされる。テインセイン政権は国民の雇用創出に注力し、11月の総選挙でその功績を訴えると予測されるが、今後2ヵ月の間にこれら労働者の失業が続けば、選挙戦にも少なからず影響を及ぼすことが考えられる。

 

(注)国家委員会は、政府(閣僚級)や産業別労働者・事業者(縫製業界を含む)などで構成される。

 

(クントゥーレイン、浜口聡)

(ミャンマー)

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