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雇用制度のポイント押さえ訴訟リスクを軽減-弁護士招き、ニューヨーク州雇用法セミナー-

(米国)

ニューヨーク事務所

2015年08月26日

 ジェトロ・ニューヨーク事務所は7月30日、中小企業をはじめとする在米日系企業を対象に、ニューヨーク州雇用法についてのセミナーを開催した。ニューヨーク州の雇用は、米国の伝統的な雇用の原則である「任意雇用の原則」に基づく。ただし、任意雇用の原則にはさまざまな例外が存在しており、訴訟リスクを減らすために雇用者が注意すべき事項は多い。RBLパートナーズのボアズ麗奈代表弁護士による講演内容を紹介する。

<任意雇用の原則に基づくが例外も>

 ニューヨーク州の雇用は、雇用主と従業員双方の任意の意志に基づく雇用(AtWill Employment)が原則だ。この任意雇用の原則は米国の伝統的な雇用原則で、モンタナ州以外の州の雇用規則のベースだ。この原則では、雇用主はいつでも従業員を解雇でき、給与や職務内容、勤務地などの雇用状況も雇用主の意志で自由に変更できる。一方、従業員は事前の通知なしにいつでも退職することができる。ただし、任意雇用の原則には幾つかの例外がある。以下に該当すると、従業員から不服を申し立てられる危険が生じるため、注意を必要とする。

 

○正当な理由がない差別的な対応の禁止(人種、性別、年齢、宗教など)

○従業員への報復の禁止(従業員による告発行為などに対する)

○雇用契約や労働組合契約に反する場合

 

<質問事項が差別に当たらないか注意>

 採用においては、写真の添付や性別、年齢などについて記載を応募者に求めないようにすべきだ。これらは日本の応募書式では当たり前のように求めるが、米国では差別と受け取られるリスクがある。面接の際の質問においても、差別的な質問事項は禁止されている。例えば、居住地や通勤時間などについて質問することも、差別的扱いと捉えられかねられない。

 

 採用されなかった従業員であっても、雇用差別を受けたとして訴訟をする権利があるので、採用時点においても十分な注意が必要だ。

 

 採用に関してよくある質問として、日本語のテストを従業員に課すことの可否があるが、日本語が職務を果たす上で必要であることを証明できれば問題はない。

 

 ニューヨーク州では就業規則の作成は義務付けられていないが、雇用主と従業員の権利、責任について明確にしておくため、会社の規則を記述した雇用ハンドブックを作成することが望ましい。「就業規則を知らなかった」といった従業員による責任逃れを防ぐため、作成したハンドブックは勤務開始日に従業員へ渡して受領のサインをさせることを勧める。ただし例外を除いて、ハンドブックそのものには法的拘束力はないので、常に法律内容に基づくことが大切だ。

 

<解雇時に別離契約を締結することでリスク軽減>

 従業員の解雇は、訴訟に結び付く大きな要因になり得るので、特に注意が必要だ。解雇を伝える際には、会社側の人間を2人以上同席させ、解雇処分の理由を明確に伝えるべきだ。また、解雇時点で未払いの給与などを小切手で支払えるよう準備しておくことが望ましい。

 

 解雇時に締結する別離契約は、ニューヨーク州では法律上義務付けられていないが、重要な書類となるので締結することが望ましい。別離契約の目的は、解雇後の会社に対する訴訟放棄や、機密事項の漏えい禁止を引き続き守らせることにあり、退職金などと引き換えに契約を結ぶ。

 

 ただし、別離契約を作成する場合においても、法律で義務付けられている文言と矛盾する内容を含む別離契約は無効となるので、注意が必要だ。

 

 採用から解雇までにおいて重要なのは、一貫した規則や制度を導入し、運用することだ。運用の記録は書面で残すことで、訴訟を受けた際の重要な証拠となる。

 

<ニューヨーク州の最低賃金は9.00ドルに引き上げ>

 20141231日~20151230日のニューヨーク州の最低賃金(時給)は8.75ドルだが、20151231日から9.00ドルに引き上げられる。最低賃金の適用には幾つかの例外があり、近親者や17歳未満の未成年者、専門職向けの就労ビザであるH1Bビザ就労者、チップ制の労働者などは対象外であるか、もしくは別の基準に従う必要がある。

 

 不法就労者に対しても最低賃金の支払い義務があり、雇用主が支払い義務を怠っていた場合は、不法就労者の立場にあっても雇用主を訴える権利を持つ(注)。

 

 週40時間以上を超える労働者に対しては、通常の給料の1.5倍の残業手当を支払う必要がある。ただし、役員や管理職といった「エグゼンプト」に分類される従業員は、残業手当の支払いから免除される。従業員がエグゼンプトに該当するかの判断は、職務内容や業務体制などに応じて事例ごとの判断となるため、必要時には専門家に相談することを勧める。

 

<ニューヨーク市では病気休暇の提供が義務>

 一般的に多くの米国企業は、有給休暇、有給の祝日、有給の病気休暇、医療給付、退職給付といった福利厚生制度を従業員に提供している。このうち病気休暇の提供は、201441日から有給病気休暇法(Paid Sick Leave Law)が施行されたことで、ニューヨーク市の雇用主に義務付けられたものだ。法律の詳細はニューヨーク市ウェブサイトで確認できるが、ポイントは以下のとおり。

 

○従業員が5人以上の雇用主は年間最高40時間の有給病気休暇を従業員に提供しなくてはならない。

○従業員が5人未満の雇用主は年間最高40時間の無給病気休暇を従業員に提供しなくてはならない。

○家庭内労働者(家政婦やベビーシッターなど)を雇う場合、雇用主は年間2日間の有給病気休暇を家庭内労働者に提供しなくてはならない。

○適用対象となる従業員、家庭内労働者は年間80時間以上の労働を提供すること。ただし家庭内労働者は1年以上の勤務経験を有すること。

 

 この法律は、自己または家族の治療および介護に適用され、雇用主は従業員に対して勤務開始日に、病気休暇について通知しなくてはならない。201441日に有給病気休暇法が施行される以前から勤務していた従業員については、病気休暇についての通知期限は201451日までだった。

 

<連邦法でも医療のための無給休暇の提供が義務に>

 連邦の家族医療休暇法(FMLA)では、50人以上の従業員(年間労働時間が合計20週を超える)を雇う雇用主は、従業員に最長12週間までの無給休暇を与えることが求められている。対象となるのは以下のケースだ。

 

○従業員の出産・育児

○従業員自身の深刻な健康状態の治療

○深刻な健康状態にある近親者(配偶者、子供、親)の介護

 

 従業員がFMLAに適格となるためには、(1)その雇用主に少なくとも12ヵ月にわたり雇用されていること、(2)休暇開始日の直近12ヵ月間において、就労時間が1,250時間以上に達していることが条件となる。

 

 ニューヨーク州における一般的な労務管理の詳細については、ジェトロ「米における事業進出マニュアル~ビザ・労務~」を参照のこと。

 

(注)不法就労者の雇用は法律違反だが、ここでのケースは不法就労者を既に雇用している場合を想定している。

 

(小川優太)

(米国)

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