EU、ベトナムとのFTAに大筋合意

(EU、ベトナム)

ブリュッセル事務所

2015年08月11日

 欧州委員会は8月4日、EUとベトナムとの自由貿易協定(FTA)が大筋合意したと発表した。同協定により、最終的に99%以上の品目で関税が撤廃される。自由化の水準の高さに加え、サービス分野の規制緩和や政府調達の透明性確保、地理的表示(GI)制度の導入など高いレベルの合意に欧州委は満足感を示し、今後、EUが結ぶ途上国とのFTAのモデルになると評価した。

<自由化率が99%を超える野心的なFTA

 欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は84日、ベトナムのブー・フイ・ホアン商工相との電話協議で、201210月から交渉を続けてきたFTAが大筋合意に至ったと発表した。

 

 記者会見でマルムストロム委員は同協定について、「この均衡の取れた協定が、アジアで最も勢いのある国の1つとの貿易を活性化する。今後EUが途上国と結ぶFTAのモデルになる」と絶賛した。また、欧州委は、同協定について「EUが途上国と合意したFTAとして、野心的かつ対称的な自由化率を達成する初めてのもの」であるとの認識も示した。EUASEAN加盟国と結んだFTAとしては、シンガポール(最終合意:20139月)に次いで2番目となる。

 

 2014年の双方の貿易動向をみると、EUのベトナムからの輸入が221億ユーロ、EUからベトナムへの輸出が62億ユーロと、EU側の輸入超過状態が続いている。EUのベトナムからの輸入では、通信機、電子機器、履物、繊維・衣料、コーヒー、コメ、水産品、家具が主要品目で、逆にEUからベトナムへの輸出では、電気機器、航空機、自動車、医薬品などが占めている。

 

 欧州委の発表によると、一部品目を除き、ベトナム側は同協定発効と同時にEUからベトナムへの輸出実績がある品目のうち関税が課されている品目の65%について自由化し、その他の品目についても10年間かけて関税を段階的に撤廃する一方、EU側は7年間かけて関税を段階的に撤廃する。ベトナム側に若干の時間的猶予を認める格好となったものの、EUがこれまで途上国と締結したFTAで達成したことのない、同等な自由化水準を実現したとしている。欧州委が示したベトナム側関税自由化の具体例は以下のとおり(文中「X年後に無税」と記載したものについて、原文は「will be liberalized after X years」となっている。関税を段階的に引き下げ、X年目に無税となることを意味すると解される)。

 

・機械類・機器:EUからベトナムへの輸出実績がある品目のほぼ全てについて同協定発効と同時に関税撤廃(一部残存品目も5年後に撤廃)

150cc超の自動二輪車:7年後に無税

・四輪車(下記以外):10年後に無税

・大型エンジン搭載の四輪車(ガソリン車:3000cc超、ディーゼル車:2500cc超):9年後に無税

・自動車部品:7年後に無税

・医薬品:EUからベトナムへの輸出実績がある品目の約半数は同協定発効と同時に関税撤廃(一部残存品目も7年後に無税)

・織物:EUからベトナムへの輸出実績がある品目について同協定発効と同時に関税撤廃

・化学品:EUからベトナムへの輸出実績がある品目の70%近い品目について同協定発効と同時に関税撤廃(一部残存品目は3年、5年もしくは7年後に無税)

・ワイン、スピリッツ:7年後に無税

・冷凍豚肉:7年後に無税

・鶏肉:10年後に無税

・乳製品:5年後に無税

 

 これに対して、ベトナム産品の対EU輸出についての言及は少なく、下記のEUにとっての「センシティブ品目」についてのみ、関税撤廃の具体的な内容を紹介。

 

・繊維・衣料および履物:最長7年間での関税撤廃

・センシティブ品目に該当する農水産品:関税撤廃対象外。一部農水産品については、ベトナムに対し特恵的に関税割当枠を提供。

 

 なお、マルムストロム委員は記者会見で、「同協定により99%を超える品目が自由化される」ことを明らかにしている。さらに同協定は、双方の輸入関税を撤廃するだけでなく、ベトナム側に存在した輸出関税の撤廃も実現するという。

 

<サービス・投資分野でもEUの求める水準をクリア>

 また、同協定にはEU側が強く求めるサービス・投資分野の自由化も盛り込まれている。ベトナムは、金融、通信、運輸、郵便・配送などの主要なサービス分野の自由化にも応じた上、投資分野でもEUに対して参入障壁撤廃に合意した。例えば、EUの食品・飲料加工事業者に対する規制の緩和・撤廃を認めた。

 

 公共調達分野では、双方はWTOの「政府調達に関する協定(GPA)」(19961月発効)に準拠する方針を受け入れることで合意。調達プロセスの透明性についても、EUが他の先進国とのFTAと同等の水準を確保できるとしている。この結果、EU企業は、ベトナムのa.社会基盤整備事業(道路や港湾など)関係を含む政府機関、b.電力・鉄道事業者など主要な国有企業、c.34の公共医療機関、d.ハノイ、ホーチミンの2都市の行政府がそれぞれ行う公共入札への参入が可能となる。

 

 このほか、EUが世界に広めようとしている地理的表示(GI)制度についても、フランスのシャンパン、イタリアのパルミジャーノ・レッジャーノ(チーズ)、英国のスコッチウイスキーなどEUの代表的な農産品と同様に、ベトナム側にとっても、モクチャウ産の緑茶や、バンメトート産のコーヒーなどの高品位商品を例としてEUへの輸出促進につながる枠組み構築に貢献できる、と指摘した。

 

 今後の見通しとしては、協定のテキストを確定する技術的な協議に数ヵ月かかると欧州委はみているが、201512月までには完了するとしている。また、これに続いて、EU理事会(閣僚理事会)、欧州議会での承認手続きが控えている。

 

(前田篤穂)

(EU、ベトナム)

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