国内取引における自国通貨の使用を義務化

(インドネシア)

アジア大洋州課

2015年07月07日

 インドネシア中央銀行は7月1日から、国内の現金および非現金の取引を自国通貨(ルピア)建てにすることを義務付けた。ルピアの為替レート安定を目的とした措置だが、米ドル建て取引が慣習になっていた多くの業界で影響を受けるものとみられ、業界団体・企業から反発の声が出ている。ただし、例外措置として6月30日以前の外貨建て契約に基づく支払いや、外国人駐在員の給与(現地採用を除く)は、7月以降も外貨の使用が認められた。また、エネルギー分野の一部取引についても引き続き外貨建て取引ができることになった。

<中銀が日系企業向け説明会を開催>

 中銀が625日に日系企業向けに行った説明会(注1)では、2015331日付中央銀行令第173PBI2015号(注2)、およびその実施細則である61日付中央銀行回状第1711DKSP号(注3)に基づき、国内の現金および非現金取引におけるルピア使用義務の適用範囲と例外規定について説明があった。

 

 まず、国内における現金取引は、331日以降、ルピア以外の外貨建てで取引を行った場合やルピア現金の受け取りを拒否した場合は、刑事罰〔1年以下の懲役または2億ルピア(約200万円、1ルピア=約0.01円)以下の罰金〕の対象とされた。ただし、両替商が行う外貨両替は対象から除外される。

 

 次に送金、クレジットカードによる支払いを含む非現金取引については、71日以降の国内取引は原則的にルピアの使用を義務とした。違反した場合は、書面による注意、取引額の1%または10億ルピア以下の罰金、支払い取引の停止の順に罰則が科される。ただし、経過措置として630日以前の外貨建ての契約がある場合は、71日以降も契約終了まで外貨を使用可能とした。71日以降に契約を更新する場合、更新日以降はルピアを使用しなければならない。

 

<外国人派遣駐在員の給与は外貨建てが可能>

 例外規定にはまず外国との貿易取引があり、物品の輸出入、インターネットやコールセンターを経由して行われるサービス貿易、および国外消費が含まれる。例えば、外国にある本社から派遣されてインドネシアで働く「専門家」の給与はサービス貿易の一環とし、ルピア使用義務の対象外とした。中銀は「専門家」の定義を「本社が派遣するプロフェッショナル」と説明し、具体的にどのような役職を専門家と見なすかは派遣元の判断を尊重するとした。他方、インドネシア国内で採用された外国人の給与は、630日以前に締結した外貨建て雇用契約に基づかない限り、ルピア使用を義務付けた。

 

 このほか、国家予算による特定取引や国境を越える贈与、外貨預金、外国に所在する銀行からの融資などの国際的な資金調達活動、政府事業活動などは引き続き外貨建て支払いが認められる。また、個別に中銀に申請し承認が得られた場合は、戦略的なインフラプロジェクトをはじめとして例外措置が適用される。

 

<保税工場間取引は貿易取引と見なされず>

 この措置に対する国内の業界団体・企業による反発の声が伝えられている。「ジャカルタ・ポスト」紙によると、製薬大手のカルベ・ファルマは、原料購入の支払いをルピア建てに切り替えることによりコストが0.51%増加するとし、さらに利率の高いルピア建てでの事業資金借り入れにより56%のコスト増加につながるとみている。「インベスター・デイリー」紙によると、インドネシア石炭協会(APBI)では会員企業の8割がドル建てで取引を行っており、石炭市況が低迷する中、ルピア使用の義務化で事業者にさらなる負担を強いることに懸念を表明している。「ビスニス・インドネシア」紙は、港湾のコンテナ取扱料金がルピア建てになることで、実質的な値上げとなり、コストが増加するという、インドネシア輸出業者連合(GPEI)の見解を報道している。

 

 保税工場に立地する日系企業からは、保税工場間の支払い取引をルピア建てに切り替えることで為替リスクが発生する上、経理処理が複雑になるという声が出ている。保税工場間の取引は外国との貿易取引に含まれず、ルピア使用が義務付けられる。こうした輸出指向型企業では、米ドル建てで輸入材料を調達し、生産した商材を輸出もしくは国内の他の保税工場へドル建てで販売することが多く、主要通貨を米ドルとしていることが多い。

 

<エネルギー分野には例外措置も>

 一方、中銀はエネルギー分野の一部取引について例外措置を講じた。中銀とエネルギー鉱物資源省(ESDM)は71日、業界の特性上、準備期間が必要だとして、エネルギー分野の一部取引についてルピア使用義務を延期あるいは免除することを発表した。レンタルオフィスやインドネシア人従業員の給与支払いなどでは、最長6ヵ月間の猶予期間を設けた。次に、燃料購入やローカルエージェントを通じた輸入、現行の長期契約や多通貨契約などは、準備期間が必要な取引と見なし、期間を指定せず猶予した。最後に、外国人従業員の給与、掘削サービス、船舶賃料などは、さまざまな要因からルピア使用義務が困難な取引とした。中銀令第173PBI2015号、同回状第1711DKSP号では、ルピア使用義務により事業活動に大きな影響を及ぼす場合、個別の申請を受けて中銀が審査、承認し、ルピア使用義務の例外措置を取ることができるとされている。ESDM6月末、中銀に対してエネルギー分野の一部取引における例外措置を求めて申請書を提出していた。今後、中銀とESDMは、ルピア使用義務化に関するタスクフォースを設置し、エネルギー分野の事業実施に悪影響が出ないよう、さらなる対応策を議論する予定という。

 

(注1)当日配布資料をジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC)のウェブサイトより参照可能。

(注22015331日付インドネシア中央銀行令第173PBI2015号(原文

(注3201561日付インドネシア中央銀行回状第1711DKSP号〔原文仮訳(JJCウェブサイト〕。

○同回状に関する質問応答集〔原文仮訳(JJCウェブサイト〕。

○同回状に関する質問応答集(追加)(原文

 

(山城武伸)

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