欧州中銀、ギリシャへの緊急流動性支援拡大は見送り-ドイツの政府・産業界は引き続き厳しい見方-

(ユーロ圏、ドイツ、ギリシャ)

デュッセルドルフ事務所

2015年07月09日

 欧州中央銀行(ECB)は7月6日、ギリシャ国民投票の結果を受けて対応を協議し、ギリシャからの緊急流動性支援(ELA)融資枠拡大の要請を退け、現状の融資枠に据え置くと発表した。欧州の経済大国ドイツでは引き続き、連邦政府をはじめギリシャ支援への厳しい姿勢を変えていない。

<ギリシャ国債の担保評価額を調整>

 ECB76日、ギリシャに対する緊急流動性支援(ELA)融資枠について現状の水準を維持すると発表ELAとは、資金繰りが厳しい銀行に対して各国の中央銀行が、担保の下で融資をする救済措置。ドイツの「シュピーゲル」誌(電子版76日)によると、ギリシャにおけるELAの枠はおよそ890億ユーロで、2月時点と比べ既に約1.5倍まで融資枠は引き上がっている。

 

 資金繰りが苦しく、休業を余儀なくされるギリシャの民間銀行の支援のため、ギリシャ銀行(中央銀行)は融資枠拡大をECBに求めていたが、ECBはこの要望を退けた。同時に、民間銀行がギリシャ銀行から融資を受けるための担保となるギリシャ国債の担保評価額を調整するとも発表した。評価額を下方修正させる見通しで、ギリシャに対して厳しい姿勢を打ち出した格好だ。ECBはユーロ圏の物価を安定させるために、実施可能なあらゆる措置を取る覚悟があるとも繰り返し強調している。78月にかけてECBが保有するギリシャ国債が償還(返済)期限を迎えるが、返済が滞れば、ECBとしてもギリシャ支援が困難となる。

 

<ドイツ政府の厳しい姿勢変わらず>

 ギリシャ債務問題で厳しい立場に立つドイツでは、あらためてギリシャに譲歩を求める声が出ている。

 

 シュテッフェン・ザイバート連邦政府広報室長はギリシャの国民投票の結果を受け76日、「新しい支援プログラムの交渉に入るための余地は現在ない。次のステップはギリシャ政府の提案次第だ」と政府の立場を明確にした。連邦財務省のマルティン・イェーガー広報室長も同日、「ギリシャの債務を減免することは考えられない。ドイツの立場は変わっていない」と述べた。ボルフガング・ショイブレ財務相は629日のインタビューで、ドイツ政府は今後もギリシャを支援するが、「ユーロの保全と安定、欧州通貨および欧州統一への信頼を守るために何でもする」と強調している。

 

<ドイツ経済への影響は限定的>

 国民投票の結果がドイツ経済に及ぼす影響は限定的とみられる。2014年のギリシャとの貿易額は668,030万ユーロで、輸出先として38位、輸入先としては47位となっている。

 

 ドイツ産業連盟(BDI)のウルリッヒ・グリロ会長は629日発表のプレスリリースで、「ドイツの対ギリシャ貿易額は比較的小規模なので、ギリシャがユーロ圏から離脱した場合でも、ドイツ経済への直接的な影響は限定的だろう。しかし、ユーロ圏各国、金融市場および欧州の景気予測に与える間接的な影響は推測しにくい」と述べている。

 

<補完通貨の導入勧める専門家も>

 ミュンヘンにあるifo経済研究所のハンス・ウェルナー・ジン所長は、「ギリシャ政府もギリシャの銀行も支払い能力を失った。このようの状況下でECBはギリシャに対しELAの実施を認めるべきではない」と述べ、「さらなる救済策の交渉が成果をもたらすとは思えない。ギリシャは早急にドラクマを補完通貨として導入すべき」との見解を示した(ifoウェブサイト76日)。

 

 ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッツシャー所長は、「ELAを継続することはできない。今後数週間で、ギリシャ銀行の業務システムが完全に崩壊することを予想する。ギリシャにとってユーロ圏離脱(「GREXIT」)は最も悪いオプションだが、可能性が高まっている」とECBの支援の限界を指摘した〔「ハンデルスブラット」紙(電子版76日)〕。

 

 ケルン経済研究所(IWケルン)のミハエル・ヒューター所長は、「ECBELAを拡大しない限り、補完通貨の導入は避けられそうにない。だが、これは必ずしもユーロ圏からの離脱を意味しない」と述べ、ギリシャに対して次の金融支援を実施する場合、ギリシャにとって実現可能な長期的支援策を解決法として提示すべきだ、としている。(IWケルンウェブサイト76日)。

 

(ゼバスティアン・シュミット、福井崇泰)

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