EPA締結を受けて民間の経済交流拡大を図る-日本・モンゴルビジネス交流会を東京で開催-

(モンゴル、日本)

中国北アジア課

2015年07月24日

 ジェトロとモンゴル政府は6月29日、「日本・モンゴルビジネス交流会」を東京で開催した。同交流会にはドンドグドルジ・エルデネバト産業相をはじめとするモンゴル政府関係者や72人のビジネス関係者が参加した。また、日本側も企業代表者ら約270人が参加した。エルデネバト氏は、2015年2月に締結された日本・モンゴル経済連携協定(EPA)が両国の経済協力の新たな1ページとなるとし、モンゴルの産業を発展させるために日本が持っている最先端の技術を利用したいと述べ、民間の経済交流拡大を呼び掛けた。ビジネス交流会の概要を報告する。

<モンゴル側は最先端の日本の技術の導入を希望>

 このビジネス交流会は、第7回日本・モンゴル官民合同協議会(注)に併せて開催された。重工業、軽工業、鉱業、農業、貿易投資、金融など多岐にわたる業種のモンゴル企業や団体計50社から、総勢72人のビジネス関係者が参加した。冒頭あいさつでジェトロの吉村宗一理事は、20152月に日本・モンゴルのEPAが締結された良好な環境の中で、経済産業省とモンゴル産業省が今回、覚書を締結したことを紹介し、日本とモンゴルの双方向の貿易・投資を促進するためにジェトロが一層役割を果たす、と述べた。

 

 続いて登壇したエルデネバト産業相は、日本企業から200人以上の代表者が参加したことについて、モンゴルでビジネスを行うことへの関心が高まっているとした。また、2月に締結されたEPAが両国の経済協力の新たな1ページとなり、EPAによって両国は相互補完・相互利益を実現できる、と述べた。モンゴルは豊富な地下資源と環境に優しい農業資源を有しており、これらを基盤として軽工業や重工業を発展させていくが、その際に日本が持つ最先端の技術を利用したい、と語った。さらに、産業省と経済産業省が覚書を締結したように政府間の協力が進展していることを紹介し、民間同士の関係発展にも期待したい、とした。

 

<モンゴルの産業政策や投資優遇策などを紹介>

 産業省のニャムフー事務次官は「産業発展」と題して、モンゴル経済の概況や、日本との貿易・投資の状況などについて、以下のように述べた。

 

 2014年のモンゴルのGDPに占める工業部門のシェアは30.2%、製造業は10.6%で、工業部門の総生産高は前年比17.1%増の122,000億トゥグルク(約7,564億円、1トゥグルク=約0.062円)。貿易総額は1101,000万ドルで、貿易収支は53,790万ドルの黒字となっている。

 

 2015619日に「工業に関する国家政策」がモンゴル議会で承認された。同政策の内容は以下のとおり。

 

○石油再精製、石炭化学プラント、コークス化学プラント、銅の精錬、冶金(やきん)、金属プラント、機械や設備の製造や、ウール・カシミヤ・革の処理・加工、最終財の生産を促進することにより、国内供給を増やし、輸出指向型の製造業を育成する。

○「農業技術パーク」を設立し、国際基準に合う環境に優しい製品を開発する。

○以下の産業でクラスターを育成する。

 a.肉、b.ウール・カシミヤ、c.スナジグミ、d.皮革、e.織物、f.旅行、g.鉱業サービス、h.IT、ハイテクノロジー、イノベーション

○以下の業種において産業パークを建設する。

 a.農業・鉱業部門、b.機械および設備

○産業パークに対して以下に関するインセンティブを付与する。

 a.所得税、b.不動産税、c.土地代

 

 また、次のような投資優遇策もある。

 

○製造業、加工処理、産業設備に使う機械や設備の輸入に課される輸入税を免除する。

○従業員の訓練費用を課税所得から控除できる。

○投資家は簡素化された登記や入国手続きを享受できる。

○開発プロジェクトに用いる場合、外国投資家に対し4060年間の土地の賃借を認める。

○投資家が永住許可証やマルチビザ(査証)を取得する際の手続きを簡素化する。

 

 なお現在、ウランバートル市の国際会議場、危険廃棄物の処理プラント、ツール川の貯水槽、ごみ焼却発電施設といったPPP(官民連携)プロジェクトを入札案件として募集している。

 

 ニャムフー次官は、日本とモンゴルの貿易・投資の関係について次のように紹介した。

 

 モンゴルと日本の貿易額は、モンゴルの貿易総額の3.6%を占めている。2014年のモンゴルから日本への輸出は2,450万ドル(輸出総額の0.4%)、日本からの輸入は36,780万ドル(輸入総額の7.0%)で、主要輸出品目は銅鉱石(52.7%)、羊毛織物(6.2%)など、主要輸入品目は輸送機械(66.6%)などだ。

 

 日本の対モンゴル投資を主な業種別でみると、貿易・調達サービスが49%。軽工業が14%、銀行・金融サービスが9%、旅行業が6%、エンジニアリング・建設・建設機械の生産が6%となっている。日本の対モンゴル投資の累計は2693万ドルにとどまるが、今後EPAが発効すれば大きく変わると確信している。

 

EPA締結により一層互恵的な関係を目指す>

 モンゴル・日本経済委員会のバータルサイハン代表は、日本・モンゴル官民合同協議会の成功に感謝するとし、以下のように述べた。

 

 モンゴルと日本の経済関係はモンゴルが市場経済化した当初は援助中心だったが、現在では互恵的なパートナーとして経済協力を進めている。日本からモンゴルへの投資をみると、自動車産業などが参入しているが、中国や韓国の投資額に比べ少ない。品質、技術ともに世界最高水準の日本に投資してもらい、オーガニックでクリーンな資源を高付加価値化したい。EPAは大きな一歩だが、実行が大事であり、情報共有など官民の協力が求められる。

 

 また、モンゴル商工会議所のオユンチメグ会頭は、今回の交流会がEPA締結後初めての大規模なイベントとなったことを指摘し、モンゴルにとって初のEPAが両国の経済交流、貿易、投資を促進し、モンゴルにとって多くの利益をもたらすことを期待する、とした。また同会頭は、モンゴルには鉱物資源以外にも農産品が豊富にあるが、技術やノウハウが不足していると指摘し、モンゴルにあるエコロジカルでグリーンな資源を活用し、日本にも輸出できるような付加価値の高い製品を生産できれば、互恵的な関係をつくれる、とした。

 

 モンゴル・日本ビジネス協議会のハスバートル会長は、日本とのEPAが新たな貿易・投資環境をつくり出す、と期待を示した。また、産業人材育成が重要だとして、日本企業に対し、日本語ができ日本式の経営も理解しているモンゴルの若い人材を雇用してほしい、と要望した。同会長は、EPAには人材育成、研修生、技能実習生に関する章もあり、大きな可能性を持っている、と述べた。

 

(注)日本とモンゴル双方の政府、民間の代表者が参加する官民合同の協議会。官民で、貿易・投資、鉱物資源開発などの2国間協力、促進について協議する。日本とモンゴルで毎年交互に開催される。

 

(小宮昇平)

(モンゴル、日本)

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