コスト増につながるVATと源泉徴収税-「カンボジア税務基礎」セミナー(3)-

(カンボジア)

プノンペン事務所

2015年07月31日

 「カンボジア税務基礎セミナー」概要報告の最終回は、コスト増につながる可能性が高い付加価値税(VAT)と源泉徴収税について。

<非登録事業者からのVAT請求も>

 これまでと同様に「実態課税方式」を前提に説明する。カンボジアのVAT税率は原則10%(輸出は0%)で、月次(翌月20日まで)で申告納税する必要がある。受け取りVATが支払いVATより多い場合はその差額を納税する。逆に、支払いVATが受け取りVATより多い場合は、差額を翌月以降に繰り越すとともに、要件を満たせば還付申請することもできる。10%課税、0%課税、非課税の取り扱いは取引ごとに異なるので注意を要する。日本と異なりインボイス方式なので、VATの支払いは法令で定められたVATインボイスに基づき行われなければならない。カンボジアではVATの納税義務があるのにVAT登録を行っていない事業者が多い(VAT非登録事業者と取引すること自体は違法行為ではない)。非登録事業者からVATを請求される事例もあり、そのような場合はVATを支払っても相殺・還付が認められずコスト負担になる可能性が高い。また、非登録事業者からサービスの提供を受ける場合には、源泉徴収税(15%)の対象となるため留意が必要だ。

 

<非課税を想定した取引に追徴のケースも>

 源泉徴収税については、非課税だと想定していた取引に追徴課税される事例が多いので注意を要する。課税対象取引では、支払者は代金から源泉徴収税を差し引いてサプライヤーに支払い、税務署に源泉徴収税を納税する。しかし、サプライヤーの中には代金から源泉徴収税を差し引くことを拒んだり、源泉徴収税のマイナス分を見込んでもともとの取引額を値上げしたりする事業者も多い。

 

 居住者への支払い(国内取引)に関する源泉徴収税は、サービス料、ロイヤルティー、支払利息、預金利息、リース料が対象となる。サービス料への支払いに対しては税率15%が課されるが、VAT登録会社へのサービス料の支払いでVATインボイスが発行されている場合は源泉徴収税が免除となる。一方、ロイヤルティー(税率15%)、リース料(税率10%)などについては、VATインボイスが発行されても免税にはならない。

 

 非居住者への支払い(海外取引)に対する源泉徴収税は、利息、配当金、ロイヤルティー、動産・不動産のリース料、マネジメントフィーおよび技術サービス料については税率14%が課税される。実務上、税務署は「マネジメントフィーおよび技術サービス料」をサービス取引全般あるいは物品購入に対する支払い以外の全ての支払いに対して適用する傾向があり注意を要する。

 

 セミナーで講演した田村陽一氏(KPMGカンボジア公認会計士)は「紹介したことはごく一部だが、適切な知識がなければ思わぬところで税務リスク・税務コストが生じる恐れがある」と述べ、カンボジアに限ったことではないが、進出先の税制を理解することは税務リスク・コストの軽減のために重要だ、と指摘した。

 

俣野有美)

(カンボジア)

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