ユーロ圏首脳会議、ギリシャ支援の継続で合意-改革の実行性に疑問、国内法制化が条件-

(EU、ユーロ圏、ギリシャ)

ブリュッセル事務所、ミラノ事務所

2015年07月14日

 ユーロ圏首脳会議が7月12~13日にブリュッセルで臨時開催され、ギリシャの財政改革案(EUを中心とする債権団に7月8日付で提出)について17時間に及ぶ協議の末、ギリシャ金融支援の継続に合意した。改革案は7月10日のギリシャ議会で承認されているが、その実行性には疑問があるとして、ギリシャが法制化することを支援の条件とした。

17時間に及ぶマラソン協議>

 ユーロ圏首脳会議が712日、ブリュッセルで臨時開催され、ギリシャが金融支援の再開を求めて提出した財政改革案について協議し、13日朝になって支援の継続について合意した。会議後の記者会見には、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長、欧州委員会のジャン・クロード・ユンケル委員長、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のイェルーン・ダイセルブルーム議長(オランダ・財務相)の3者が並んだが、一様に疲れ切った表情だった。EU史上前代未聞の17時間に及ぶマラソン協議となったことが、この問題の根深さをあらためて浮き彫りにした。

 

 当初は、ユーロ圏財務相会合が711に開かれ、ギリシャ政府提出の財政改革案について協議し、12日のEU首脳会議で今後の対応を最終決定する見通しだった。しかし、11日のユーロ圏財務相会合は予定時間を大幅に超え、最終的に「協議延長を決めた。(ギリシャの財政改革案の)信頼性を明日(712日)午前11時からあらためて協議する」との議長声明が出たのは日付が変わってからだった。同会合は712日に休日返上で協議を行ったが結論を出せず、同日夕刻に緊急開催されたユーロ圏首脳会議での政治判断に委ねる格好となった。ギリシャのアレクシス・ツィプラス首相は同会議に臨む前、「妥協の用意はある。われわれはEU統合を望むEU市民に対して分裂を回避する責任がある。全ての関係者が望めば、今夜、合意できる」と語ったが、ドイツを中心とするユーロ圏の債権国には、その実行力に対する懐疑的な見方も根強かった。

 

<期限が迫るギリシャ国内の法制化>

 ギリシャの改革実行力に対する懐疑的な視点は、ユーロ圏首脳会議の声明文(712日付)にも色濃く投影された。ギリシャに対する中長期の支援総額を820億~860億ユーロと試算。さらに緊急の資金需要として、欧州中央銀行(ECB)に対する国債償還期日である720日までに70億ユーロ、8月中旬までに50億ユーロの追加支援が必要としたものの、欧州安定メカニズム(ESM)に基づく新たな支援の着実な履行は「改革の実行(コミットメント)を伴うものでなければならない」「全てはギリシャの『当事者意識』にかかっている」とくぎを刺した。

 

 ユーロ圏首脳会議が声明文で、期日を定めた具体的なコミットメントを求めた法制化事案は以下のとおり。

 

715日までに法制化を要する事案

a.付加価値税(VAT)システムの統一(軽減税率の極小化など)と、税収増加のための課税標準の拡大(税制優遇の撤廃など)

b.総合的な年金改革を通じた持続可能な年金制度

c.ギリシャ統計局(ELSTAT)の法的な独立性確保

d.「経済通貨同盟の安定・協調・ガバナンスに関する条約」の条項の完全な履行(財政収支目標が達成できない場合の財政支出の自動削減策の導入など)

 

722日までに法制化を要する事案

e.新たな「民事訴訟法」の採用(裁判手続きの円滑化・コスト削減のため)

f.欧州委の支援の下、EUの「銀行再生・破綻処理指令(BRRD)」の国内法化

 

 声明文では特にad4点について、ギリシャ議会による法制化、国際債権団およびユーログループの承認を伴わなければ、金融支援交渉は再開できないと明言している。

 

<ツィプラス首相は改革に着手と強調>

 他方、ギリシャのツィプラス首相は713日付の国内向け声明の中で、ユーロ圏首脳会議の結果について、「合意内容の実施は簡単ではない。議会承認が必要な上、不況を引き起こしかねない政策も含まれる。だが、楽観している。われわれは350億ユーロの成長パッケージ(注)を勝ち取ったからだ。今後3年間の、市場の信頼を回復する資金を手にしたのだ。投資家は、ギリシャのユーロ圏からの離脱〔グレグジット(Grexit)〕の不安が過去のものになったことを知るだろう」とした上で、「私はコミットメントを守りたい。このためにはさらに激しく、この国の既得権益と戦う必要がある。ギリシャには抜本的な改革が必要だ。国民に優しく、この国を今の状態におとしめたオリガルヒ(財閥勢力)に厳しいものだ。明日から改革に着手する」と強調している。

 

 ギリシャの主要紙「カシメリニ」(電子版713日)は「ブリュッセルで『マラソン』を走り切ったツィプラスを、次に待つのはアテネの『短距離(スプリント)』だ」として、同首相が窮地に陥っていると見立てた。

 

(注)ユーロ圏首脳会議の声明文によると、「(今後35年間)ギリシャにおける経済成長・雇用創出を支援するため、欧州委はギリシャ政府と連携して、350億ユーロ規模のEUプログラムの実施(予算拠出)を検討する。中小企業対策を含め、経済・投資の活性化を図る」となっている。

 

(前田篤穂、山内正史)

(EU、ユーロ圏、ギリシャ)

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