大統領退陣を要求するデモが激化
(エクアドル)
ボゴタ事務所
2015年07月30日
ラファエル・コレア大統領の退陣を要求する全国的なデモが激化している。大統領が6月に、税制改革法案を提出したのを機に、その手法が強権的だとして反発が広がっており、8月6~13日にも大規模なデモが計画されている。混乱が長引けば、進出日系企業への影響も懸念される。
<貧困層を中心に支持され在任9年目>
コレア大統領は1963年生まれの経済学者で、低所得層の絶大な支持を得て2006年の大統領選挙で初当選した。就任後2年で憲法改正を実現し、大統領の再選を禁止した条文を撤廃した。2009年と2013年にも勝利し、既に在任9年目となる。新自由主義経済政策に異を唱え、ポピュリズム政策により大衆的人気を獲得。莫大な石油収入を福祉予算に回し、低所得層への住居建築や教育予算などに充てた。
現政権以前のエクアドルではクーデタによる政情不安が絶えず、国民の政治・政治家不信は根深かった。非先住民でありながら先住民のケチュア語を話し、貧困家庭の出身であることを強調しながら理想を語るコレア大統領の出現は、人口1,578万人(2013年国家統計調査局)の6割を占める貧困層を中心に国民に歓迎された。また、コレア大統領はベネズエラのチャベス元大統領の盟友として知られ、南米の左派政権トップとしても注目を集めた。
コレア大統領の実施した政策は、必ずしも万人に支持されるものではない。報道機関への介入強化、司法改革、大統領の権限強化法は、国際社会で独裁への懸念を生んだ。2007年から2013年まで保護貿易を中心とする「大きな政府」を掲げ、開放的な通商政策とは距離を置いた。2014年以降は原油価格の下落など国際経済情勢の変化を受け、「生産マトリックス」(産業構造を指すとみられる)の改革を宣言、石油依存経済からの脱却を目指し、新たな産業育成に向けかじを切った。しかし、公的債務の増加や大統領の強権的手法に対し、国民の不満が蓄積されてきた。
<税制改革の手法が強権的だと反発広がる>
2015年6月、コレア政権は死亡した人の財産額が3万5,400ドル以上ある場合の新相続税と不動産取引税を中心とする一連の税制改革法案を提出した。新相続税は、直系・非直系遺族に分割相続された価額に応じて2.5%から最高47.5%が課され、不動産取引税は不動産の売却によって生じた利益に対して課される。大統領は「人口約2%の富裕層にしか影響しない」と述べ(経済紙「エル・エスペクタドール」6月7日)、税収は富の再分配政策として低所得層へ還元されると説明したものの、その手法が強権的だとして野党政治家や中間所得層はじめあらゆる層から反発の声が上がった。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じ、税制改革への反対は瞬く間に大統領への不信任となり、全国的な抗議活動につながった。
6月16日、コレア大統領は税制改革法案の「一時的」な延期を表明した。「求めているのは叫びではなく、対話だ」と、あくまで建設的な対応のための措置であることを強調したのは、7月5~8日のローマ法王のエクアドル訪問を意識してのことだろう。
<首都や最大都市の市長らもデモに参加>
全国的反政府デモは6月25日、7月2日に展開されたほか、8月6~13日にも予定されている。デモを主導する労働者統一戦線(FUT)のパブロ・セラーノ代表は「これまで政府が実行した全ての間違った政策に対する抗議」(経済紙「エル・ウニベルソ」7月13日)と述べる一方、コレア大統領はこうした動きを「明白な違法行為」(同紙7月16日)としており、溝は埋まりそうにない。一連の抗議デモには首都キト市のマウリシオ・ロダ市長、エクアドル最大の都市であるグアヤキル市のハイメ・ネボット市長も参加しており、「エクアドルはコレアの国ではなく、エクアドル人民の国だ」と、大統領退陣を求めて気勢を上げた(「BBC Mundo」電子版6月26日)。
こうした混乱が長引けば日系企業への影響も懸念され、一刻も早い沈静化が待たれる。
(安心院茉里)
(エクアドル)
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