イラン核協議で最終合意、段階的に制裁解除へ

(イラン)

テヘラン事務所

2015年07月16日

 イランのザリフ外相とEUのモゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は7月14日、共同記者会見でイランと国連安全保障理事会常任理事国にドイツを加えた6ヵ国(P5+1)が「共同包括行動計画(JCPOA)」の最終文書に合意したと発表し、イランと西側諸国との約12年に及ぶ核協議が終了した。今後は国連安全保障理事会およびイラン国会や米国議会による承認と、国際原子力機関(IAEA)による核施設の査察に焦点が移る。

<最終文書にはイランとP51双方の主張を反映>

 共同声明では、「誰ひとりとして合意が容易であるとは考えておらず、歴史的決断は決して簡単なものではなかった。しかし、希望と決断により、あらゆる困難を乗り越えた」とした。また、「全ての関係者の建設的な尽力および交渉チームの貢献により、10年を超える論争を解決することができた」として、関係者やIAEAへの謝意が示された。

 

 公表されたJCPOAは、本文および5つの付属文書から構成され、金融・経済制裁の解除に向けて段階的なアプローチを取ることとなっており、今後、イラン国会と米国議会、国連安全保障理事会で承認されることとなる。同文書には、イランとP51それぞれの譲歩と主張が取り入れられている。イランが主張していた、発電など平和的利用を目的する核の部分的な保持が認められた一方、イランはいかなる状況においても軍事目的での核の開発、導入を行わないことを再確認している。

 

<段階的ながら全ての制裁解除の権利を獲得>

 制裁解除については今後、合意内容に対するイランの履行を確認できた場合には、核開発に関連する国連安保理決議、多国間、単独国による全ての制裁が解除される。P51は、制裁の代わりに差別的な規制を課すことも避けるとしている。今後は、JCPOA履行のための委員会が設置され、付属文書に従って監査が実行される。IAEAJCPOAに基づき、イランの核開発を監視、検証してからの解除となるため、解除まで段階を踏むことになり、イラン側がこれまで主張していた「最終合意後の、即時の全面的な制裁解除」からは譲歩したといえるが、最終的に全ての制裁が解除される権利を勝ち取ったともいえる。

 

 ウラン濃縮活動については、イランは10年間でIR1遠心分離機を段階的に削減し、同期間にナタンツにおいて合計5,060基までのIR1遠心分離機で濃縮する能力を維持することが認められた。また、濃縮ウランを蓄積しない方法による濃縮活動のための研究開発の継続も可能となった。一方、フォルドーではウラン濃縮やそのための研究開発は認められず、原子物理技術センターへの転換が決まった。さらに、アラック重水炉は設計変更が決まり、プルトニウムの生産は禁止された。

 

 制裁解除に向けては、これまでは最終合意に至った場合でも、米国議会による反対が懸念材料とされてきた。イランは、議会の動きはそれぞれの国の内政問題だと位置付けていたが、JCPOAでは、米政権は大統領および議会が一致して行動し、制裁の再導入を控える意向が明記された。またP51は、制裁解除に関して効果を確実にするため十分な管理措置と規制措置を講じ、解除された制裁の詳細に関する声明を公表することとなり、イランとしては制裁解除の面では大きな成果を得た内容になっている。今回の声明では、具体的な数字や倫理的規定がかなり盛り込まれていることも特徴といえる。

 

<ローハニ大統領が国民にテレビ演説>

 イランのローハニ大統領は14日、イランとP51の核協議の最終声明が読み上げられた後、テレビを通じて国民に演説を行った。その中で、「交渉はギブ・アンド・テークだ。われわれは、誰かが何かを無料でもらうような慈善ではなく、交渉を求めた。われわれは国益に基づき、適正なギブ・アンド・テークを望んだ」として、イランの努力をあらためて示した。

 

 ハメネイ最高指導者は最終合意の発表後、ローハニ大統領や閣僚との会議において、イランの核交渉チームに謝意を表明した。そして、シーア派の初代イマームであるアリーが示した4つの使命である「税の徴収および政府による国民の権利の順守」「国民と国土の保護」「社会の救済への導き」「国土の発展および建設のための努力」を示し、アリーの指針を思い起こさせた。

 

<地元メディアも大きく報道>

 イラン国内では国民の核協議への関心が高く、このところ現地メディアは連日、紙面を大きく割いて交渉の模様や政府の見解を掲載していた。

 

 715日付の地元英字紙「フィナンシャル・トリビューン」は、「歴史的合意(Historic Deal)」と題して、「イランとP51は、12年に及ぶイランの核問題に関する論争を解決するため、20ヵ月を超える交渉を行った結果、14日に歴史的合意に達した」と報じた。また「合意に基づき、米国、EUおよび国連による制裁は解除され、その代わりとしてイランの核開発計画は一時的に制限を受けることになる」と報じた。

 

 地元英字紙「イランデイリー」も同様に、「ついに最終合意(Historic deal at last)」と題して、イランとP51の最終合意を大きく報道している。

 

 また、715日付の地元英字紙「テヘラン・タイムズ」は、地元有力者へのインタビュー記事を掲載している。改革派に近いカルバシチ元テヘラン市長は「今回の合意は1988年のイラン・イラク戦争の休戦協定より大きな戦略的重要性がある」と指摘し、「合意はイランと世界双方にとって新たな機会であり、世界はイランという、地域の平和と安全を回復させるための新たなパートナーを見つけることができる」と述べた。

 

<ビジネス関係者は最終合意を歓迎>

 最終合意の報道後、ジェトロ・テヘラン事務所が周囲のイラン市民に聞いたところ、「ファクトシートをみないと、イランにとってプラスかどうか分からない」という慎重な意見から、「イラン国会と米国議会はそれぞれ内容を確認し、前に進むだろう」という楽観的、肯定的な意見もあった。ビジネスパーソンからは「合意によって制裁が解除され、金融問題も解決し、ビジネスに良い影響があるだろう」とする期待も示された。

 

(豊永嘉隆)

 

 

(イラン)

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