欧州委、通関システム効率化を具体化する法令を採択-関税負担拡大の可能性-

(EU)

ブリュッセル事務所

2015年07月31日

 欧州委員会は7月28日、EU通関システムの効率化運用を実現するため、2013年10月発効の「欧州連合関税法典(UCC)」を具体化する委託法令を採択した。EUは、この電子通関システムにより、EU加盟国の通関当局間の情報共有や不正取引対策の強化を進める。一方、今回の委託法令草案によると、EU域外産品に対する関税評価基準の厳格化も求めている。企業の関税負担が拡大することも指摘される。

<電子システムを通じ、通関当局の「ヨコ連携」が可能に>

 欧州委は、EU域外との貿易に利用される通関システムの効率化を目的に整備を進めてきた「欧州連合関税法典(Union Customs CodeUCC)」の細則を定めた委託法令(注)を採択したと発表した。UCCは現行の「欧州共同体関税法典(CCC)」に置き換わる新たな関税基本法で、「21世紀の通関システムのルール」とも呼ばれる。ただ、UCCはあくまで総則規定であるため、それを具体化する細則が必要とされていた。

 

 今回、欧州委が採択した委託法令には、

EU加盟国の通関当局を連携する情報システムの構築により、当局間の情報交換の円滑化と、そのためのEU共通のデータ要件の整備

○(将来的に)各通関当局による決定や承認事項をEU加盟国全体で共有

○不正貿易やテロ行為、違法取引などの対策強化のためのリスク管理の徹底

EU域内の事業者間の貿易取引の公平性確保のためのルール明確化

などが盛り込まれている。

 

 欧州委のピエール・モスコビシ委員(経済金融問題・税制・関税担当)も「現代的でコスト効率性の高い通関システムは貿易を活性化し、経済成長にも貢献する。また、EU市民の安全・治安対策、そしてEU加盟国の利益の点でも重要だ」と指摘した。

 

 なお、同委託法令は今後、欧州議会およびEU理事会(閣僚理事会)での審議に付されるが、両者は2ヵ月以内に異議を表明する権限が認められている。この期間は、申し立てにより、さらに2ヵ月の延長も可能だが、当該期間にいずれかから異議表明がなければ、同委託法令は所定の手続きを経て法的に効力を持つことになる。欧州委は20165月の適用開始を目指している。

 

<関税評価は「ラストセール」基準を明示>

 今回の委託法令で、「現代的でコスト効率性を重視した通関システム」の導入が期待されるが、EU域外の貿易事業者の視点で見た場合、果たしてメリットがあるのか、疑問の声も聞かれる。特に問題視されているのが、EU域外から輸入される域外産品に課される関税の課税対象額の評価基準が明示されたことで、一部企業は関税の評価基準の変更を迫られる可能性が指摘されている。

 

 具体的には、欧州委が20153月に公開した「UCC委託法令・草案」(第3章:通関目的の財貨の価値)の中で、「(関税評価のための)財貨の取引価額はEU通関に到着した直前の販売を基準に評価される」と明記されたことが問題とされる。企業の貿易取引には、さまざまなサプライチェーンがある。「工場出荷」に始まり、「卸売り倉庫出門」「国外向け販売店渡し」「船積み」などの段階に応じた取引価額が存在。各取引で中間マージンが上乗せされるため、理論上はサプライチェーンの前段階(ファーストセール)の価額が低い傾向にある。これまでは、EU域内での関税評価のための取引価額の解釈は比較的緩やかで、通関当局のスタンスにもよるが、実態的に「ファーストセールス」段階での申告価額での関税評価に応じる事例も一部(特に「港湾立国」と呼ばれる国で顕著とされる)にあった。

 

 ところが、今回の「UCC委託法令・草案」は「EU通関の直前取引(ラストセール)の価額」を関税評価基準に適用しようとしている。これがEUの関税評価基準として確立した場合、「ファーストセールス基準」は禁止されることを意味し、こうした実務を援用してきた企業は関税評価基準の変更を迫られ、「ラストセール」と「ファーストセール」の間に存在する中間マージン相当の関税負担が拡大する可能性が高い。

 

 なお同草案は、今回の委託法令の発効以前に成立した有効な契約が存在する場合に限って、ラストセール基準適用の猶予期間を認めており、該当事例については2017年末までは例外的に適用しない、という条項も設けている。今後の欧州議会およびEU理事会での審議結果が注目される。

 

(注)委託法令:欧州委(行政)が委託された権限に基づいて採択する法行為(非立法行為)。欧州議会(立法)を通じて制定される指令・規則・決定など(立法行為)と異なるため、この名称で表現される。原語は「Delegated ActDA」。リスボン条約(200912月発効)に基づき、法令の「本質ではない」技術的な要素に限り、欧州議会が欧州委に対する委託の形態で、細則を定める権限を認めている。

 

(前田篤穂)

(EU)

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