税務調査に際しては事前の社内体制整備が肝要-「税務の最新状況と税務調査対策」セミナー-

(ベトナム)

ハノイ事務所

2015年07月08日

 ジェトロ・ハノイ事務所とベトナム日本商工会(JBAV)は6月11日、ハノイ市内でベトナム税務の最新状況と税務調査対策をテーマとしたセミナーを開催した。税務調査の対策については関心が高いが、実務的な内容を解説するセミナーは少ないことから、約200人が参加した。事前の整理が重要だとされる税務調査対策の概要について報告する。

<営業利益率が極端に低い企業は調査対象になりやすい>

 ベトナムの税法は頻繁に改正されるため、常に最新の情報を得ることが重要だ。日系税務会計事務所フェア・コンサルティング・ベトナム(Fair Consulting Vietnam)ゼネラルディレクターの讃岐修治氏が講師となり、法人所得税(CIT)、個人所得税、付加価値税(VAT)、外国契約者税の最新情報を紹介した後、税務調査時における対策の解説を行った。

 

 税務調査は、以下の種類に分類される。

 

○通常の税務調査

 外資系企業の場合は、通常5年に1度程度の頻度で税務調査が実施されるが、2年に1度実施される企業や、10年間税務調査が実施されていない企業の例もある。営業利益率が極端に低い企業は調査の対象となりやすい。意図的に売り上げの減額、原価・経費を増額することで、納税額を抑えているのではないか、と当局が疑問視するためだ。

 

VAT還付の申請時

 VATの還付を申請した際に実施される調査で、未納税金の有無が確認される。仮に未納税金がある場合には、還付される予定だったVATがそちらに充当され、充当後の残高が還付される。

 

○清算もしくは閉鎖時

 税コードの返却が必要になる現地法人の清算時、もしくは駐在員事務所・プロジェクトオフィスの閉鎖時に実施される。もともと税コードを保有していない事業体に対しては、調査は行われない。

 

<明確に説明できるよう準備を>

 通常の税務調査は、以下の5段階のフローで行われる。各段階での注意点は以下のとおり。

 

1)税務調査通知前の準備

 必要書類および資料は以下のとおり。前もって整理をしておくことが望ましい。

 

○投資ライセンスまたは事業登録証明書

○税コード証明書

○インボイス使用に関連する書類:インボイス発行通知書、四半期ごとのインボイス使用状況報告書など

○会計監査済み財務諸表

○各種税務申告書:VAT、個人所得税、外国契約者税などの申告書、購入・販売の物品・サービスの一覧表、控除可能な仕入れVATの確定一覧表など

○その他の書類:会計帳簿、会計証憑(しょうひょう)、契約書、同意書、労働契約書、納税を証明する証憑など

 

 投資ライセンスに記載のない条件付き投資分野の業務、もしくは禁止分野業務におけるVAT申告は、CIT上の損金算入計上が否認されることがある。また、全ての取引に係る契約書・VATインボイスを整備しておくことが重要だ。なお、日本語や英語で取引の契約書を作成している場合は、ベトナム語版の提出が求められる。その際はベトナム語に翻訳した上で、当該契約書が翻訳版ということを明記してゼネラルディレクターの署名・押印が望ましい。また、資本関係が複雑な場合には資本関係図を、取引が複雑な場合にはフローチャートを作成して、明確に説明できるように準備しておく。

 

2)税務署からの調査日程通知

 税務署から経理部門担当者などに調査スケジュールの連絡が来る。税務調査の担当者が判明次第、略歴や得意分野の収集を行う。担当者と普段から付き合いがあれば、税務調査で着目されている問題や、税務署が入手している資料情報などを収集しておく。また、調査時期が会社の繁忙期と重なる場合には、その旨をオフィシャルレターによって税務署に伝えることで、調査時期の変更を検討してもらえる可能性がある。

 

 調査期間は通常約1週間だが、資料の整備状況などにより長期にわたるケースもある。税務調査の対応や説明は一貫性の観点から極力1人で行うことが望ましいが、当該対応を行う経理担当スタッフに負担が集中するため、調査に対応するチームの役割分担をあらかじめ社内で決めて、サポート体制を構築する。また、税務署からの指摘事項を取りまとめる表のフォーマットを作成し、指摘事項の内容を社内で共有して対応や指摘事項の認識に漏れがないようにする。

 

3)税務調査の実施

 通常業務への影響も考え、調査は専用の会議室などで行うことが望ましい。また調査中は、税務署がどの問題点に対して何の資料を要求しているかをリストアップする。調査官は「こういった問題点があるために課税対象となる」などとさまざまな見解を述べてくるが、最終的な見解は議事録に記載されることになる。ただし、調査の途中でも適時、口頭ベースで問題点を明確にしていくことが望ましい。

 

 要請を受けて提出する資料は、必要最低限のものとする。例えば、他の資料の存在をうかがわせるような通し番号が引用されている資料や、採用されなかったドラフト段階の資料の提出などには注意が必要だ。

 

 また、調査官側の事情を考慮した対応も大切だ。事前にベトナム語版の会社概要や、提出書類一覧を用意しておく。調査官は税務署内で上司への報告義務があるため、追加の提出資料を求められた場合は、具体的にいつまでに提出するかを明示する。万が一、期日に間に合わない場合には、事前に税務署に報告をすることが望ましい。

 

4)税務署から議事録の発行

 税務調査後、ベトナム語の議事録が送付される。議事録には、会社・税務署側がそれぞれ認識している納税額、その差額である追徴税額が記されている。議事録の内容に同意する場合は、署名をすることになる。

 

 同意できない場合は、「納税者の意見」欄に見解を述べることが可能だが、スペースが限られているため、別途オフィシャルレターで説明を行う。オフィシャルレターは管轄税務署に対して提出し、反論が認められれば、議事録に署名することになる。管轄税務署が反論を認めない場合には、以下の書類を税務総局に提出する。

 

○管轄税務署へのオフィシャルレター

○管轄税務署からの回答のオフィシャルレター

○税務総局へのオフィシャルレター

 

5)税務署から決定書の発行

 議事録に署名後、2週間ほどで発行される。

 

<ベトナム人を含め約200人が参加>

 本セミナーは、ベトナム人向けにも開催した。税務調査の際の企業側の担当者はベトナム人のため、税務調査対策のセミナーに関心度が高く、日本人向けのセミナーと同様に約200人が参加した。参加者からは「税務調査の対策に役立った」「実務的な話を聞くことができた」などの声が出た。

 

 税務調査時に未納税金がある場合、過去にさかのぼって延滞税・加算税を追徴されるリスクがあり、資金繰りに影響が出る可能性もある。そのため最新の税法の内容を把握するとともに、専門家と相談をして税務調査対策を事前に取ることが必要だ。

 

金子信太郎

(ベトナム)

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