「社内通関法的代表者」の要件を明確化-新たな税関法規則を施行-

(メキシコ)

米州課

2015年07月01日

 2013年末の税関法改正に伴う新たな税関法施行規則が6月20日に発効した。税関法の改正で通関士の利用義務が任意となり、通関士を利用せずに輸出入業者自らが通関実務を行うためには、社内通関法的代表者の任命と登録が必要だが、その要件が明確化された。社内通関法的代表者制度を利用するかどうかは、電子通関システムの導入などにかかる初期コストと遅滞などのイレギュラーな状況発生時のリスクなどを考慮した上で検討すべきだろう。

<競争の欠如で割高だった通関コスト>

 メキシコで輸出入通関を行う際、後述する限られた企業が実施する「通関代理人」(Apoderado Aduanal、注)を通じた通関業務を除き、原則として輸出者あるいは輸入者が税関に登録した「通関士」(Agente Aduanal)を通じて申告を行う。通関士は生来のメキシコ人(帰化したメキシコ人では不可)しか就くことができない職業で、通関士として働くためには国税庁(SAT)による許認可(通関士免許)が必要だ。

 

 通関士免許の数は限られており、免許を与えるための最後の公募は1998年の325日以降は行われていない。通関士は自らが退職あるいは死亡した時のために、SATが行う能力試験に合格するなど通関士になる資格を有する人間を自分の後任として「通関士補」(Agente Aduanal Sustituto)に指名し、自らの後を継がせることができた。通関士補は通関士の親族や知人であることが多く、また、1人の通関士が通関できる税関の数は4つまでに限られているなど、通関業界は競争が生まれにくい環境にあった。

 

 現地に進出した日系フォワーダー(仲介運送業者)によると、通関業界における競争の不足により、メキシコの通関コストは総じて高く、米国との陸路国境で最大の貨物量を誇るヌエボラレド税関など競争が激しい一部の税関を除けば、申告価格に応じた通関報酬の徴収が一般的で、高額商品を輸入する場合は通関士への報酬が数十万~数百万円に及ぶこともあるという。

 

 通関業界に競争をもたらし、通関コストの中長期的な引き下げをその目的の1つとして、2013年末に税関法の改正が行われた。同改正に基づき、輸出入通関における通関士の利用が選択制となり、企業自らが通関申告を行うことが可能になった。企業自らが通関申告を行う場合は、「社内通関法的代表者」(Representante Legal)を通じて行う必要があり、同要件は、後日公布される新施行規則により定められることになっていた。そして、税関法改正から約14ヵ月後の2015420日に新税関法施行規則が官報公示され、620日から施行された。

 

<通関業務知識や技能の証明には複数の選択肢>

 620日に発効した新たな税関法施行規則の第236条は、社内通関法的代表者の要件を以下のとおり定義した。なお、2013年末に税関法が改正される前でも、通関代理人という同様の制度が存在し、企業は通関士の代わりに雇用関係のある従業員を通関代理人として指定することで通関申告を行うことが法律上は可能だったが、通関代理人の資格要件が厳しかったため、国際宅配業者など一部の企業を除き、ほとんど利用されていなかった。今回の社内通関法的代表者は、従来の通関代理人に比べると要件が緩和されている。

 

○社内通関法的代表者の要件(税関法施行規則第236条)

1)メキシコ人であること(公的文書で証明する必要あり)

2)輸出入通関業務について会社を代表する者であることを公証人の面前で証明する書類(Poder Notarial)を持つこと

3)輸出者あるいは輸入者との雇用関係を証明すること

4)貿易に関する経験や知識を持つことを以下のいずれかの書類で証明すること

a.関連分野について公共教育省(SEP)が発給した学位証明書

b.職業能力規格認証国家評議会(CONOCER)が発給する貿易や通関に関する能力証明書

c.SATが実施する貿易や通関に関する試験に合格した証明書

d.最低1年間、通関代理人として働いたことを証明する書類

e.税関に登録された通関士の代理、あるいは補佐、あるいは税関職員として1年以上働いた経験を証明する書類

f.恒常的に貿易業務を行う企業の中で1年間以上実務を担当していたことを証明する当該企業が発給した書類

5)納税者登録番号(RFC)を有すること

6)電子署名(Fiel)を有し、必要に応じて電子印章(sello digital)を持つこと

7)滞納なく納税義務を果たしていること

8)税務犯罪、あるいはその他の故意の犯罪により、服役したことがないこと

9SATが法規により定めるその他の条件を満たすこと

 

 上記要件のうち、(4)は従来の通関代理人の要件に比べてかなり緩和された。従来の通関代理人は、SEPが発給した貿易・通関に関連する学位証明書が必須要件となっており、加えて関連業務の職歴が3年以上必要だった。

 

 なお、施行規則第238条に基づき、a.許認可が取り消された元通関士、b.現役の通関士、c.現役通関士の被雇用者・補佐・代理、d.自由刑を伴う犯罪歴がある者、については、社内法的代表者としてSATに認められない。

 

 通関士を介さずに、社内通関法的代表者を登録することで輸出入通関を行う事業者は、施行規則第69条に基づき、輸出入申告書をSATの自動通関統合システム(SAAI)に電子送信するためのアクセス番号を申請することができる。また、社内通関法的代表者をSATに登録するとともに、港や空港などの保税区域や税関区域における自社の通関および検査業務を補佐する要員(通常は保税倉庫の従業員)をSATに登録することができる。また、社内通関法的代表者を利用して通関する税関を指定する。

 

<制度利用にはコストやリスクの考慮必要>

 2013年末の税関法改定と新施行規則の施行により、通関士の数も増加することが見込まれる。2013年末の税関法の改定に基づき通関士補制度が廃止され、通関士から通関士補への通関士免許の引き継ぎはなくなった。代わりに今回施行された新施行規則の第212条に基づき、少なくとも2年に1度は通関士免許の公募が行われることとなった。これにより、免許を持った通関士の数が今後増えていくものとみられる。従って、これまでに比べれば通関士の間でも競争が生まれると考えられる。

 

 輸出入通関に通関士を用いるのか、それとも社内で法的代表者を立てて自社で申告を行うのかは、メリットとデメリットを考慮した上で、慎重に検討する必要があるだろう。社内で通関を行えば、通関士に支払う報酬の分、コストを削減できるメリットがある。一方で、初期コストや通関業務におけるリスクの増加など、デメリットもある。現時点で想定されるメリットとデメリットとしては、表のようなものが考えられる。

 この中で注目すべきは、初期のインフラ整備コストだ。税関法第16A条に基づき、輸出入を行う者は申告書の内容を電子化し、データに形式上の誤りがないことを事前確認した上で税関の電子システムSAAIに送信する必要がある。輸出入申告書の内容を電子化し、SAAIに適合した形式になるよう確認するためのシステム(Sistema de Prevalidacion)は全国通関業者協会連合会(CAAAREM)などの通関士の業界団体が開発しており、通関士は同システムを利用して電子申告を行っている。企業が通関士を利用せずに社内通関法的代表者を通じて申告を行う場合、この事前確認システムを自社で設計し、構築する必要が出てくるだろう。

 

 また、輸入通関においてイレギュラー(遅滞)が発生し、追徴金や罰金などの支払いが必要になった場合、通関士を利用した輸入通関では通関士も連帯責任を負うが、通関士を利用しない場合は企業が全責任を負うことになる。税関法第195条は、「法律違反が通関士の行為により生じた場合、罰金は原則として通関士の負担となる」と規定している。今回公布された税関法施行規則の第235条は、「税関法第195条が定める(違反を生じさせた)通関士の行為とは、通関士本人および通関士の代理人が署名した輸出入申告手続きにより生じたもの」と定義している。

 

(注)2013129日付官報で公布された税関法の改正に基づき、通関代理人制度は廃止されたが、同改定政令の付則第5条に基づき、SATに同日時点で認められている既存の通関代理人としての資格は、同認可が何らかの理由により失効・剥奪されるまでは有効とされている。

 

中畑貴雄

 

(メキシコ)

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