投資誘致に積極的なクアンニン省、日本関係者と4回目の諮問会議
(ベトナム)
ハノイ事務所
2015年06月09日
ベトナム北部クアンニン省で4月中旬、日本企業の誘致に向けた第4回諮問会議が開かれた。同会議では、在ハノイの日本側関係者からハード、ソフト両面でのインフラ整備に向けた提案などが出され、クアンニン省側からは日本企業の誘致に向けた事業環境整備に一層取り組む旨の発言があった。
<日本企業誘致の促進策を協議>
ジェトロ・ハノイ事務所とクアンニン省は2013年1月、日系企業進出と同省の経済発展の分野で協力協定(MOU)を締結した。以後、諮問会議を定期的に開催しており、クアンニン省と在ハノイのジェトロ、国際協力機構(JICA)、国際交流基金、日系コンサルタントとの間で意見交換を行っている。同省の概況については2014年2月3日記事参照。
4度目となる今回の会合は4月17日に開催された。冒頭、グエン・バン・ドック同省党書記は、(1)クアンニン省内のドンマイ、ベトフン両工業団地に日系企業を誘致するために求められること、(2)農業・ハイテクなどポテンシャルのある分野への投資誘致の可能性、(3)同省人民委員会投資促進局(IPA)内に3月末に設けられたジャパンデスクの体制、(4)同省における日本語人材の育成、などについて、意見交換したいと発言した。
<工業団地のインフラなど課題は山積み>
クアンニン省は、ハイフォン市の境界から30分ほどのドンマイ工業団地と、ハロン市に近接するベトフン工業団地を、日本企業の進出先として前面に押し出していく予定だ。日本からの訪問企業とともにドンマイ工業団地を視察した、コンサルティング会社BTD Japanの中川良一代表は「排水処理施設がまだ整っていなかった。加えて、企業が使用する予定の土地は立ち退きが終わっておらず、整地もされていなかった」と述べた。これについて同省側は、早急に工業団地の整備を実施すると約束した。ベトフン工業団地については、日本企業の誘致を念頭に置いたハイテク・グリーン分野専用の工業団地とする方針が定まっている。
日本からベトナムへの投資認可の状況は、2014年が517件(前年比3.4%増)、22億9,900万ドル(60.9%減)だった。1件当たりの投資額が減少しており、中小企業の進出が増加している。コンサルティング会社I.B.C ベトナムの市川匡四郎会長は日本企業の投資を呼び込む方法として、「新規投資だけではなく、再投資案件を呼び込む必要がある。また最近は中小企業の進出の増加に伴い、レンタル工場の整備や、中小企業が所属する団体などに対して同省の魅力を伝えることが効果的だ」と話した。
農業・ハイテクなどポテンシャルのある分野に関して、JICAベトナム事務所の松下高士企画調査員は「環境の負荷を抑制することが経済成長につながるため、クアンニン省と協力して『グリーン・グロースプロジェクト』を実施する予定。まだ大枠しか決まっていないが、今後、具体化していく。石炭のエネルギー効率などを考慮して、今後の将来像を見ながら進めていく。排水処理やエネルギー効率化は日本の中小企業が得意としている。目標が設定されれば、日系企業の誘致につながるのではないか」と語った。
また、同省の日本語のウェブサイトについて、日本工営ハノイ事務所の福田利之所長代理は「現状のインフラの状況は確認できるものの、現在開発中の案件の進捗状況や効果は分からない。具体的には、高速道路が開通することにより移動時間がどれだけ短縮されるのかなどを掲載してもらいたい」と意見を述べた。
<インフラが整備されれば投資加速の可能性>
観光資源が豊富な同省は、飲食店など日系のサービス業を呼び込むことも検討しているが、日本語人材が不足しているのが実情だ。2014年にハロン大学を設立し、選抜したベトナム人の日本での研修を予定しているが、大学は日本語学科の設立のために日本語教師を探している状況で、研修生の日本への派遣先も未定だ。国際交流基金ベトナム日本文化交流センターの安藤敏毅所長は「ベトナム政府は、日本語人材の育成に積極的で、われわれも政府と共同で教育カリキュラムや教材を作ったりしている。地域の中等教育で日本語教育を検討する際には相談してほしい」と話した。
クアンニン省に関連した、ハロン大学の設立、東京事務所の設置、ベトフン工業団地を日本企業専用でハイテク・グリーン分野専用とする計画など、新しい動きが相次いで出ている。ジェトロ・ハノイ事務所の川田敦相所長は「こうした新しい動きについて、当事務所や、日本のメディアとあらかじめ情報共有できれば、記事媒体などを通じ、日本の企業関係者らにも伝わり、投資の誘致につながるものと思う」と述べた。また、2015年3月末に設置されたジャパンデスクに関し、川田所長は「日本からの企業誘致のみならず、既にクアンニン省内に進出している日系企業に対するサポートやケアもお願いしたい」と要望した。
ハノイからクアンニン省ハロン市までの移動時間は、車で3時間30分かかる。ただ、途中のハイフォン市までは、2015年に開通予定のハノイ~ハイフォン高速道路を利用することで、現状の2時間30分から1時間強へ大幅に短縮される予定だ。またハイフォン市からハロン市までは、2017年に完工予定のバクダン橋(2014年2月17日記事参照)・ハイフォン~ハロン高速道路(2014年9月に起工式を実施、全長25キロ)の利用により、現状の1時間から30分に短縮される見通しだ。
現在、同省に拠点を置いて活動する日系企業は5社。将来的にはハノイからクアンニン省までは1時間30分で移動可能となるため、中期的にみると同省の経済圏が広がり、投資・進出が加速すると考えられる。
最後に、グエン・ドゥック・ロン副書記(現人民委員会委員長)は、日本側参加者に対し謝意を表すとともに、ハイフォン~ハロン間の高速道路などインフラ整備の推進、行政手続きのさらなる簡素化、日本語人材育成にも取り組んで行く姿勢を示した。
(金子信太郎)
(ベトナム)
ビジネス短信 8e8fa19d86a03018