労働法を改正、労働者保護を前面に

(サウジアラビア)

リヤド事務所

2015年06月22日

 労働法の38項目にわたる改正が4月5日に閣議で認められ、改正労働法(国王令 ヒジュラ1436年6月5日付M/46号)が4月24日に官報と労働省のウェブサイトに正式発表された。10月21日をめどに施行される。労働者保護を強く打ち出したとされる改正法の内容について報告する。

<民間のサウジ人雇用の増加を期待>

 当地の大手法律事務所Clyde Coのアブドラアジズ・アルボサイリ弁護士によると、労働法改正の目的は、政府機関と民間企業との労働環境の差を縮小し、民間部門をサウジ人にとって魅力的な職場とし、就職を促すためという。改正により民間企業にサウジ人雇用義務を定めたニタカット・プログラムを実施しやすいようにする狙いがある。

 

 労働法が規定する各条文は基本的に、国籍の隔てなく全労働者に適用されるが、中にはサウジ人のみを対象とする例外的な条文もあり、その場合はサウジ人のみに適用と明記されている。

 

 雇用や契約、休暇、違反時の罰則など、主な改正点は次のとおり。

 

<転居を伴う異動は労働者の同意が必要>

 50人以上を雇用する雇用主の義務であるサウジ人労働者の訓練生割合を年間雇用数の6%から12%に引き上げた(第43条)。サウジ人の雇用と訓練強化への姿勢が強く打ち出されたとみられる。

 

 試用最長期間が90日から180日に延長された(第53条)。これにより雇用主と労働者双方がより安心して業務への適性を見極められる。

 

 契約期間として認められていた期間が最長3年から4年に延長される。サウジ人については、4年間勤続または連続3回の契約更新のどちらか短い方に到達すると自動的に無期限契約となる(第55条)。

 

 転居を伴う異動をさせる場合は、労働者の同意が必要となった。またやむを得ない事情で異動させる場合には、必要経費を雇用主が負担する必要がある(第58条)。

 

 解雇については、正当な理由なく1年のうち30日(改正前は20日)以上、または連続して15日(改正前は10日)以上欠勤した場合に可能。この際、前者の場合は無断欠勤して20日経過した後、後者の場合は10日経過した後に、雇用者から労働者への書面による警告が雇用契約の破棄に先立って必要とされた(第80条)。

 

<女性に手厚い有給休暇>

 本人の結婚(5日)や子の誕生(3日)などに伴う有給休暇日数を増やす(第113条)。産休に関しては、産前4週間、産後6週間に加えて、無給で1ヵ月の休暇延長ができるようになり、合計14週間の休暇取得が可能となった。これに加えて、特別看護が必要な子を出産した女性労働者は、産休に続けて1ヵ月の有給休暇を取得でき、無給で2ヵ月休暇を延長できる(第151条)。イスラム教徒の女性の夫が死亡した場合には、死亡の日から最低4ヵ月と10日(改正前は15日)間の有給休暇を取得できる。改正前は、イスラム教徒と非イスラム教徒との間で区別はなかったが、今回の改正により非イスラム教徒の女性の夫が死亡した場合(これまでどおり15日間)と区別した(第160条)。

 

 労働者が教育機関に通っている場合は、雇用主が許可すれば、労働者は試験期間中に有給を取得できるが、雇用主から許可されない場合には、年間の有給休暇を消化して試験日数分の休暇を取得できる。有給休暇の消化が不可能な場合は、無給で試験日数の休暇を取ることができると加えられた(第115条)。

 

<査察の権限を強め違反は厳罰化>

 労働査察に関しては、これまで以上の権限が当局に与えられる(第194条)。労働法の違反に関しては、罰金が10万リヤル(約330万円、1リヤル=約33円)に引き上げられ、違反の重大さによって30日間または永久に営業停止処分となる。違反を繰り返した場合、2度目からの罰則は2倍になる(第229条)。労働法違反を査察官に通告した者には罰金の25%を上限として報酬が支払われる(233条)。

 

 なお、民間部門での就業時間を週40時間、週休2日にしようとする意見が評議会に提出されているが、今回の改正では認められなかった。

 

 改正労働法を「労働者に優しい法律」と当時の労働相が話した背景には、労働組合のないサウジアラビアで、いかにして民間企業の就業環境を魅力的にするかという課題に取り組む政府の姿勢がうかがわれる。

 

星出純江

(サウジアラビア)

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