事業展開見通しは「拡大」が再び増加-在ロシア日系企業景況感調査(3)-

(ロシア)

モスクワ事務所、サンクトペテルブルク事務所

2015年06月02日

 原油価格と通貨ルーブルのレートの持ち直しなどにより景気回復の兆しがみられ、中期的には有望市場として期待するという声が増えている。他方、依然厳しい状況の中、債権保全や在庫圧縮などリスク管理に注力し、耐え忍ぶという企業も多い。また、政治的要因やロシア経済の見通しが不透明なため、本社におけるロシア市場の位置付けが低下しているとの指摘もあった。連載の最終回は、2015年後半~2016年のロシア事業展開の見通しについて。

<「拡大」の割合が1月時点より17ポイント増加>
 2015年後半から2016年にかけてのロシアでの事業展開の見通しについて、「拡大」と回答した企業は22%と、2015年1月の緊急アンケート「急激なルーブル安の影響」結果(2015年2月13日記事参照)に比べ、17ポイント増加した(図参照)。「維持」と回答した企業は64%(70社)で2ポイント減となったが、依然6割台を維持している(表参照)。他方、「縮小」は2015年1月時点に比べ半減し、特に製造業では1社だけだった。原油価格と通貨ルーブルレートの持ち直しなどにより、景気回復の兆しもみえてきたため、中期的には有望市場として期待するという声が数多くあった。

 「拡大」と回答した企業の主なコメントは下記のとおり。

○全世界がロシアでの商売に腰が引けている今が絶好のチャンスであり、今のうちに仕込みや次の手を打っておくべきだ。為替暴落により投資コストは下がっている。またロシア製品の輸出など商機が広がっているとみる。
○ルーブル安を受けて優良な投資機会が見込まれるため、積極的に対応する。
○ロシア市場は世界でも重要な市場であり、事業を継続する方針だ。
○輸入に依存しない国づくりが顕著になってきているように感じる。ロシア企業もそれを意識して、アジアを中心としたパートナー探しの動きが目立っているようだ。ロシア企業から日系企業との提携に関する依頼が増大、日系企業の進出依頼も増えてきている。変化の大きい今だからこそ、既存の欧州企業製品からの切り替え需要や、新しい市場開拓のチャンスが多いと思っている。
○老朽化しているインフラ設備の更新需要があり、経済の安定とともにこの分野への設備投資が増加すると考えている。
○油価が安定してルーブルが高進、インフレ率も落ち着き始めており、2015~2016年の間に経済回復が見込まれると考える。対ロシア制裁が緩和されれば、その速度は速まるとみている。

<ロシアの位置付けが低下との声も>
 「維持」と回答した企業の多くは、ロシアは依然有望市場であるものの、当面は様子見の状況としている。また、政治的要因やロシア経済の見通しが不透明なため、本社におけるロシアの市場位置付けが相対的に低下している、との指摘もみられた。主なコメントは次のとおり。

○無理をせず、為替、金利、政情の安定を待つ段階か。
○経済環境が整えば、まだまだ成長市場として捉えているため、今は耐え忍ぶ時期。この機会に今まで着手できなかった改革を推し進め、将来の成長に備える。
○政治的要因からロシア経済の見通しが悪い、事業縮小などの検討が必要ではないか、と本社では考えている。
○市場ポテンシャルは高く、将来の成長に期待するも、当面はリスク回避を軸に慎重に経営を進める。
○当面は現状維持の見通しだが、社内における投資先国としてロシアの優先順位は相対的に低下している。
○ロシアは不景気ではあるが、一部業界では予算が確保されプロジェクトが進んでいる。商機のあるところへ参入し、縮小路線ではなく最低でも現状維持を達成する。ただし、制裁事項には十分注意しながら進めるよう徹底している。
○情勢は依然として見通しが明るいとはいえず、ルーブル安の影響による物価高で、景気は明らかに減速感が強まっている。一方、ロシアとしては輸入代替政策などを背景に、投資環境改善、インフラ投資の拡大が先行して行われるとの観測から、ビジネス拡大を期待しているものの、足元ではその傾向が顕在化していない。
○本社のロシア市場の見方はネガティブで、なかなかリソースを確保できない。取り扱い製品のポートフォリオを大幅に入れ替え、景気の影響に左右されにくい構造に変革中。
○(事業対象地域として)ロシアの地位が相対的に落ち、サブサハラアフリカ、中南米が上昇している。
○完成品について輸入からロシア現地生産に切り替える動きを注視し、流れに乗り遅れないようにしていく方針。
○2015年は耐える年との認識の下、2016年以降の反転、拡大を前提としたビジネスプランを行っている。現時点では、ロシアがビジネス戦略上重要であるという方針は変更しておらず、中期的にビジネスを維持・拡大していく方向で本社とは合意している。ただし、市場回復の致命的な遅れや政治経済面での悪材料によりビジネス環境が悪化した場合は、今後の方針が見直される可能性は十分にあると考えている。
○医療関連については、国家予算が執行される2015年下半期に期待、上半期は準備期間と位置付け。
○自動車向け部品販売は今後も厳しい見込み。一般産業向けの需要は底堅い。
○経済危機を脱した時点では、単一国としての市場規模は世界トップ10であることに変わりはなく、事業スタンスも不変。
○景気減退のイメージが強く、展示会への参加など、販売促進費を使うことに本社が否定的。

<「縮小」の企業は当面のリスク回避に注力>
 「縮小」と回答した企業は、当面はリスク回避やコスト圧縮に取り組まざるを得ないと認識している。主なコメントは下記のとおり。

○市場の回復は、少なくとも今後1年間は期待できないとみる。取引先の資金繰り悪化がみられる中、売り上げ拡大よりも回収、在庫リスクの回避・低減にかじを取らざるを得ない状況。
○金利上昇や制裁の影響により、社内のロシアに対する投資判断のハードルが上がっている。
○市場としては有望と見込まれるも、ビジネスは今の時点では難しい。赤字を抑えるため、人員規模のスリム化を図りながら、景気回復のタイミングを待つ。

(齋藤寛、宮川嵩浩)

(ロシア)

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