貸し倒れリスクの増加や支払い繰り延べで資金繰りが悪化-在ロシア日系企業景況感調査(2)-

(ロシア)

モスクワ事務所、サンクトペテルブルク事務所

2015年06月01日

 通貨ルーブルの大幅下落によって製品の輸入価格が上昇。多くの企業が価格に転嫁している一方、金利の上昇により、資金繰りが悪化する企業が増加し、在庫の圧縮につながっている。連載2回目は、製品・サービスの自社販売価格、製品在庫、資金繰りについて。

<製造業で多くの企業が値上げ>
 製品・サービスの自社販売価格DIは、ルーブル安を主因とする値上げにより、前回調査(2014年12月25日記事参照)に比べ10ポイント上昇して16となった(図1参照)。特に製造業で値上げする企業の割合が多く、全体では円高、原油高、インフレ高進のあった2011年2月以来の高い伸びだった(表1参照)。ルーブル安による輸入価格の上昇による価格転嫁の動きがみられた一方、競合他社の値下げや国家予算の削減により値上げが難しいとの声も聞かれた。

 「上昇」と回答した企業の主なコメントは以下のとおり。

○急激なルーブル安にもかかわらず、市場価格には十分転嫁されていない状況。一方、為替が急激にルーブル高に戻りつつある中、今後の各社の価格対応やマーケットの状況は非常に不透明だ。
○2015年4月以降、為替が少し戻ってきているが、外貨建ての仕入れコストは以前より上昇している。
○ルーブルの短期間における急激な変動による外貨建て輸入品価格への影響が、商品の希望小売価格および粗利益率のコントロールを非常に困難にしており、極めて神経質な対応が求められている。
○為替に応じて値上げを実施。だが、結果として販売が落ち込んでいる。

 他方、「不変」「下落」と回答した企業の主なコメントは次のとおり。

○自社販売価格の値上げを2015年初に実施したが、市場価格にはいまだ全て反映されておらず、徐々に上昇中。実売は月を追うごとに低下傾向にあり、現在の市況下での実勢値がいまだ不透明な点が気掛かり。
○為替の変更により輸入品のルーブル建て価格は上昇しているが、為替変動分の値上げができず、収益が悪化、販売数量は減少。
○ルーブル下落や国家予算の削減により、買い付け数量と製品の販売価格がいずれも下落傾向にある。
○競合他社の市場価格が下がっていることから、一部製品については自社販売価格を若干下げざるを得ない。

<在庫は圧縮傾向が続く>
 製品在庫DIについては、市場の低迷や資金繰り対策で、在庫の圧縮に努めた企業が多数みられ、DIは前回に比べ5ポイント改善したものの、マイナス11にとどまり、2012年2月以降10回連続のマイナス圏だった(図2参照)。依然「過大」と回答する企業の割合が大きい(表2参照)。販売減による在庫縮小策やルーブル安に伴う輸入減で在庫は減少傾向にある一方、販売減や生産減によって在庫過大とする企業もみられた。

 「不足」「適正」と回答した企業の主なコメントは、以下のとおり。

○ルーブル安、制裁により製品の輸入が難しい状況。
○契約代理店による在庫縮小方針もあり、現状の供給分には問題ないものの、当社からの購入量が減少している。これが売り上げが伸びない原因の1つともなっている。
○販売状況改善の兆しが確認されるまで、在庫の積み増しを控えている。
○販売減に応じた仕入れ抑制で、販売量を賄うための在庫量は適正に推移している。絶対在庫量は前年比で半分以下。

 他方、「過大」と回答した企業の主なコメントは次のとおり。

○ルーブル下落による仕入れコスト増加と、それによる粗利益率低下と在庫金額増加。価格転嫁後は販売の激減と在庫増加。最終的には資金繰りに大きく影響。
○自動車各社は生産台数を減少させており、製品在庫が過剰な状態に。これに伴い、資金繰りも悪化。銀行借り入れの金利も高く、頭が痛い。

<ルーブル安や金利上昇がリスク要因に>
 資金繰りDIは前回より6ポイント下落し、2009年6月の状況より悪いマイナス19を記録した(図3参照)。9回連続でマイナス圏にあり、非製造業に比べ、製造業で深刻な状況となっている(表3参照)。ルーブル安や金利上昇による貸し倒れリスクの増加、支払い繰り延べ、外貨建て契約支払い額の増加、インフレ高進によるコスト増などが資金繰りに悪影響をもたらしている。

 主なコメントは以下のとおり。

○為替は落ち着きを取り戻してきているものの、金利高が為替先物予約や客先の資金繰りに影響、予断を許さない状況が続いている。
○与信供与先である自動車ディーラーの流動性悪化に伴う貸し倒れリスクが増してきている。
○資金繰りは、a.ルーブル安とはいえ、4月からの給与改定で高インフレ率を考慮したため、人件費が上昇、b.オフィス家賃はドル建てなため、実質コストが上昇、c.一方で回収の遅延が生じている、ことから悪化している。
○資金繰りは、仕入れ元である本社の協力を得て買掛金支払いリスケジュールなどにより対応。
○関連市場の低迷に伴い受注量が減少し、売り上げが大幅に減少。また、一時期より持ち直したとはいえ、依然としてルーブル安が続いているため、外貨建て債務の支払いが資金繰りをさらに悪化させる要因となっている。この先2~3年は景気が回復しないとみており、予断を許さない状況。
○為替を反映した販売価格に改定した後、小売り側から支払い期日の延長要求が繰り返し来ている。
○これまで以上に、採算性を重視して事業を行う必要がある。固定コストとして人件費の割合が大きいため、ここにメスを入れざるを得ない。また、サービスと利益を細かくみていく必要あり。

(齋藤寛、宮川嵩浩)

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