最大野党PiSのドゥダ氏が大統領選に勝利
(ポーランド)
ワルシャワ事務所
2015年06月03日
大統領選挙の決選投票が5月24日に実施され、選挙管理委員会が25日に正式結果を発表した。5月10日の1回目の投票で得票数1位だった最大野党「法と正義(PiS)」のアンジェイ・ドゥダ候補が過半数の票を獲得し当選した。選挙前に確実視されていた現職のブロニスワフ・コモロフスキ大統領の再選はならなかった。今回の結果は10月の議会総選挙にも大きな影響を与えそうだ。
<得票率3ポイント差で現職を破る>
最終的な得票率は、5月24日に発表されていた出口調査の結果より差が縮まったものの、ドゥダ氏が51.55%、コモロフスキ氏が48.45%と3ポイント余り差がついた。出口調査ではドゥダ氏が53%、コモロフスキ氏が47%と6ポイントの差があった。投票率が高まれば現職有利、と分析されていたが、投票率は55.34%と1回目の投票(2015年5月13日記事参照)に比べると大幅に上昇したにもかかわらず、1回目で1ポイント弱だった差はむしろ広がった。
1回目の投票で2割以上の得票率を得た元ロック歌手のパベル・クキズ氏の票が多く流れたとみられるほか、一部「市民プラットフォーム(PO)」支持層もドゥダ氏を支持したとみられる。2010年に飛行機事故で当時のレフ・カチンスキ大統領が墜落死した際、ドゥダ氏は大統領府で次官を務めていたこともあり、レフ・カチンスキ元大統領の双子の兄でPiSの党首を務めるヤロスワフ・カチンスキ氏とも近いといわれる。しかし、欧州議会議員を務めるドゥダ氏は選挙キャンペーン中、もともとの所属政党であるPiSとは一定の距離を置くよう努めていた。特に反EUの姿勢が鮮明で、しばしば先鋭的な発言を繰り返し、国民の間でも支持の分かれるカチンスキ氏とは一線を画し、穏健な言動に努めた。選挙の結果はこうしたキャンペーンが功を奏したともいえ、ドゥダ氏の当選をもって直ちに「ポーランドの右傾化」(「フィナンシャル・タイムズ」紙5月26日)を論じるのは早計だろう。
<東部地域や若年層の有権者が現政権に不満>
とはいえ、現政権に不満を持つ声が強まっているのは事実で、特に地域格差の問題は深刻だ。統計局(GUS)によると、2014年第4四半期の平均賃金(グロス)は、ワルシャワのあるマゾビエツキ県が5,047.50ズロチ(約16万6,568円、1ズロチ=約33円)であるのに対し、歴史的に所得水準の低い東部ポーランドにあり、最も平均賃金の低いバルミンスコ・マズルスキ県は3,535.68ズロチと7割程度にとどまっている。両県ではそれぞれ2004年に比べ60.6%(3,142.61ズロチ)、69.3%(2,088.39ズロチ)伸び、2010年比ではそれぞれ14.2%(4421.39ズロチ)、18.8%(2977.26ズロチ)増加している。数字をみると、東部ポーランドも順調に伸びているものの、格差は依然埋まっていない。そのため、地方を中心に現政権への不満は大きい。伝統的にPiSは東部ポーランドを地盤としているが、今回の選挙ではその強みが顕著に表れた。
また若者の失業率は、2014年は前年に比べ大幅に改善(15~24歳の失業率:2013年27.3%、2014年23.8%)されたものの、依然高い水準にある。2014年第4四半期の失業者数141万人のうち、20~29歳が52万人と3分の1以上を占める。第1回目の投票ではこうした若者票はクキズ氏に流れたが、現政権への不満を反映して、決選投票ではドゥダ氏へ向かったもようだ。
<10月の議会総選挙まで政治情勢は混沌か>
ドゥダ氏は8月6日に大統領に就任する予定。公約として、年金受給開始年齢の引き下げ、児童手当の増額、スイス・フラン建て住宅ローンの救済などを掲げている。これらの政策の原資は銀行・小売業への課税などで賄うとしている。もっとも、大統領は法案の拒否権を持つほか、条約の署名など外交上一定の権限を持つなどにとどまり、政策の立案・遂行はあくまで首相をはじめとする政府が担う。とはいえ、法案の拒否権を行使(注)することで、政権の重要法案を通さず、自らの要求を受け入れるよう求めることも可能だ。10月の総選挙までに、ドゥダ氏が自らの権限をどのように行使し、公約を実現しようとするか、手腕が問われる。
今回の大統領選により、ポーランドの政治情勢は混沌(こんとん)としてきた。10月の議会総選挙の行方はますます予想がつかなくなっており、今後数ヵ月の与野党、ならびに第1回の大統領選挙で躍進したクキズ氏らの動向が注目される。ポーランドではこれまで、POが8年間安定的な政権を保ち続け、政治的な安定は投資家からも評価されてきた。しかし、国民は現状の変革を求めており、良くも悪くも現状のままでの政権継続は困難で、ポーランドは新たな政治の幕開けを迎えようとしている。
(注)大統領が法案への署名を拒否した場合でも、下院が定数の過半数の出席の下、5分の3以上の多数で再度議決すれば、大統領は法案の署名を拒否できない。
(牧野直史)
(ポーランド)
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