2014年の対外直接投資は18.6%減の1,197億ドル
(日本)
国際経済課
2015年05月07日
2014年の日本の対外直接投資は前年比18.6%減の1,197億ドル(国際収支ベース、ネット、フロー)となった。日本企業による海外企業の買収など株式資本の減少などで過去最高だった2013年(1,472億ドル)には届かなかったものの、4年連続で1,000億ドルを上回った。
<6割強を占める株式資本が減少>
財務省・日本銀行発表の国際収支統計(注)を基にジェトロがドル換算したところ、2014年の対外直接投資は1,197億2,700万ドルだった(図参照)。対外直接投資を形態別にみると、株式資本が前年比31.4%減の734億ドル、海外子会社の内部保留として積み上げられた再投資収益は18.7%減の237億ドルとなった。他方、負債性資本は225億ドルと倍増し、比較可能な1996年以来、最高額となった。
2014年の対外直接投資減少の要因としては、全体の61.3%を占める株式資本の減少が挙げられる。株式資本を構成する日本企業の海外企業買収(対外M&A)、グリーンフィールド投資はともに減少した。米トムソン・ロイターによると、2014年の日本企業の対外M&Aは前年比18.0%減の525億ドル(グロス)となった。また、英「フィナンシャル・タイムズ」紙のデータによると、2014年の日本企業のグリーンフィールド投資も前年比4.3%減の503億ドル(グロス)にとどまった。
<米国が3年連続で最大の投資先に>
主要国・地域別では、北米が3年連続で最大の投資先となった(表1参照)。中でも米国への投資額は421億ドルに上り、日本の対外直接投資総額の35.2%を占めた。米国向け直接投資を業種別にみると、食料品、卸売・小売業、金融・保険業、鉄・非鉄・金属などへの投資額が多かった。食料品では、サントリーホールディングスによる蒸留酒メーカーのビーム買収(約157億ドル)、ミツカンホールディングスによるユニリーバ米子会社のパスタソース事業買収(約22億ドル)などの大型M&Aが実行された。
アジア向けは354億ドルと全体の29.6%を占めた。アジアの中では、ASEANが204億ドルと前年に続き200億ドル台を維持した。これに対し中国は67億ドルにとどまり、ASEANとの間で3倍の金額差が生じた。両者の差は2013年の2.6倍からさらに広がった。
国別ではシンガポールへの直接投資額が76億ドルとアジアで最も多かった。シンガポール向けの直接投資は、グロスの実行額(560億ドル)、回収額(484億ドル)ともに多いという特徴がある。多くの日本企業が同国にアジア統括拠点を設置し、域内の資金取引を集約していることなどが一因と考えられる。同国への直接投資を業種別にみると、非製造業分野の投資が多い。2014年に実行された日本企業のM&Aとしては、コシダカホールディングスによる同国カラオケチェーン最大手K Box買収(約10億円)、市場調査会社クロス・マーケティングの同業ケダンス・インターナショナル・ビジネスリサーチ買収(最大約33億円)などがあった。
ASEANではシンガポールに次いで、タイ(52億ドル)、インドネシア(44億ドル)向けの投資額が多かった。タイ向けの直接投資が大幅に減少したのは、日本の金融機関による地場銀行の買収(約53億ドル)が2013年の投資総額を押し上げていたためだ。2012年以前と比べれば、2014年の投資額は高い水準を維持したといえる。業種別では輸送機器向けが17億ドルと最も多く、2005年以降で最高となった。2012~2013年に相次いだ投資申請が実行に移されたためとみられる。ただ、タイ投資委員会の統計によると、日本企業の投資申請は2014年半ば以降に急減しており、新規投資には一服感がみられる。
他方、インドネシア向けの2014年の直接投資額は過去最高となった。業種別にみると、金融・保険業への投資額(約22億ドル)が全体の約5割を占め最も大きい。2014年には三井住友銀行、住友生命保険、日本生命保険などが現地同業の株式を取得した。インドネシアでは中間所得層の増加により、金融・保険サービスへの需要が高まっており、成長市場を取り込む日本企業の動きが活発化した。
<中国の構成比は5.6%に低下>
日本の対外直接投資額に占める中国の構成比は5.6%にまで低下し、2012年の11.0%に比べると2年間で半減した。投資回収分を差し引かないグロスの実行額でみても、中国向け(100億ドル)はタイ向け(95億ドル)と同程度にとどまった。対中投資を業種別にみると、金額ベースでは製造業への投資が多い。日本電気硝子は2014年1月、薄型パネルディスプレー用板ガラスの製造・販売拠点を新設すると発表した。新会社の登録資本は約250億円で、第1~2期を合わせた設備投資は約700億円を予定している。
欧州向けの直接投資は259億ドルで全体の21.6%を占めた。国別では欧州最大の投資先である英国向けが83億ドルにとどまった。対英直接投資を業種別にみると、金融・保険業(27億ドル)、食料品(17億ドル)が多かった。損保ジャパンは5月、同業キャノピアスの全株式を取得(約952億円)したと明らかにした。その他の主要国では、オランダ、ドイツ、ルクセンブルクへの投資額が32億ドル、28億ドル、27億ドルとなった。ドイツ向けには、LIXILが日本政策投資銀行と共に水栓金具大手のグローエを約4,109億円で買収した。
中南米向けの直接投資は71億ドルとなった。主要国のブラジルとメキシコへの投資は33億ドル、10億ドルだった。日産自動車は6月、ドイツのダイムラーと合弁でメキシコに新工場を建設すると発表した。投資総額は約10億ユーロで、本格稼働時には年産30万台を予定する。日本の完成車メーカーは、生産コストや自由貿易協定(FTA)網に優れるメキシコを世界的な生産拠点と位置付け投資を加速させている。
<食料品向け投資が過去最大に>
2014年の対外直接投資を業種別にみると、非製造業向けの構成比が52.2%(594億ドル)、製造業向けが47.8%(543億ドル)となった(表2参照)。国際収支の基準変更により直接比較はできないが、2013年に比べて、製造業向けが増加した一方、非製造業向けが落ち込んだ。詳細にみると、2013年にソフトバンクによる米携帯通信会社の巨額買収(約216億ドル)があった通信業の落ち込みが顕著だった。
製造業においては、食料品(16.1%)、輸送機器(7.5%)、鉄・非鉄・金属(5.5%)の構成比が大きかった。食料品への投資額は183億ドルに上り過去最高を記録した。投資先は米国向けが149億ドルと大部分を占めた。輸送機器(85億ドル)は、アジアが52億ドルで最大の投資先となった。アジアの中ではタイ(17億ドル)、中国(11億ドル)、インドネシア(10億ドル)、インド(8億ドル)への投資額が多かった。ASEAN10ヵ国は計33億ドルに達し、2年連続で中国向けを大きく上回った。
他方、非製造業においては、金融・保険業の構成比が15.3%(174億ドル)と最も高かった。これに卸売・小売業、通信業が12.2%(139億ドル)、6.7%(77億ドル)で続いた。金融・保険業への投資額の国別内訳をみると、米国(46億ドル)、英国(27億ドル)、シンガポール(23億ドル)、インドネシア(22億ドル)の4ヵ国で約7割を占めた。
(注)IMFの新基準(国際収支マニュアル第6版)による。財務省・日銀は2014年1月分から新基準(同第6版)による国際収支統計の発表を開始した。本稿に記載の計数は新基準による。
(米山洋)
(日本)
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