課税標準価格へのロイヤルティー算入ルールに留意を-ユーラシア経済連合-

(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア)

モスクワ事務所

2015年05月12日

 ロシアに拠点を構える日系企業が増える中、商品や部材の輸入に際して、通関申告額にロイヤルティーを算入するよう、税関から指摘されるケースがみられる。税関申告に当たってのロイヤルティーの算入はどのように考えるべきか。法律事務所DLAパイパー貿易規制実務部のクセニア・シゾワ弁護士に、ロイヤルティーの課税標準価格への算入ルールについて聞いた(3月19日)。

<ライセンス料などは未定義>
問:ロイヤルティーの課税標準価格への算入条件はどのような法的根拠に基づいて規定されているのか。

答:ユーラシア経済連合の加盟国(ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア)は輸入品に対する課税標準価格の決定に関し、統一の法令を適用している。その中で、最も重要な法令は次のとおり。

(1)2008年1月25日付「関税同盟の国境を経由する貨物の通関価格決定に関する合意」は通関価格の決定に関する規則を明確にし、輸入品の課税標準価格に算入される追加事項を定めている。他方、本法令ではライセンス料の定義、課税標準価格算入への根拠、適用基準については触れていない。

(2)2012年12月20日付ユーラシア経済委員会理事会決定第283号「輸入品に関する取引価格に基づく通関価格決定方法(第1算定方法)の適用について」は具体的な例を挙げながら第1算定方法の適用条件を明確にし、取引価格への追加加算に関する事例を紹介している。

 ライセンスに関する契約書が多様化する中、課税標準価格へのライセンス料の算入に関する1つの原則を法令として確立するのは困難になっており、個別事例に基づき、取引条件とその特徴について判断する必要がある。このため、ユーラシア経済委員会は2013年8月、「輸入品に対し実際に支払われた、または支払われるべき価格へのライセンス料、その他の知的財産使用料の加算に関する規定」を制定した。

 同規定では、a.輸入通関時の課税標準価格へのライセンス料の算入に関する概念、およびb.課税標準価格へのライセンス料の算入条件について、具体的な事例とその論拠に関する説明が2部構成されている。

<契約内容の分析が重要に>
問:ライセンス料算入の必要性を判断する際に注意すべき点は何か。

答:前述の課税標準価格決定に関する合意の第5条に基づき、第1算定方法に沿って課税標準価格を決定する際、ライセンス料その他の知財使用料(特許、商標、著作権を含む)を取引価格に加算する必要があるが、その際には次の2条件を同時に順守する必要がある。

(1)ライセンス料は評価対象の(輸入される)製品に関係するものであるため、ライセンス契約に基づく「譲渡される権利の範囲」を評価する必要がある。どのような権利(例:輸入する権利、生産する際に包装材や輸入者の商業文書に商標を掲載する権利など)に対してライセンス料が支払われるべきか、これらの権利が輸入製品とどのように関係しているかを評価する必要がある。

(2)ライセンス料は、対象となる商品の販売条件として、購入者から直接的または間接的に支払われる必要がある場合、ロイヤルティーの支払いについて、権利者、輸入者、販売者の間の相互関係と商品販売条件への適用の有無について、ライセンス契約および商品供給契約の内容から分析する必要がある。

問:ロイヤルティーが課税標準価格に含まれる事例を紹介してほしい。

答:次のような事例が挙げられる。

(1)ある輸入者が販売を目的に商標が付された商品(衣料品)を経済連合域内に輸入し、本商品を商標権者ではない外国メーカーから購入する。

(2)輸入者と権利者との間で、ライセンス契約を締結する。同契約は商標が付された商品を経済連合域内での民間取引と輸入する際の商標権使用の非独占権の付与に関するものだ。

(3)ライセンス契約に基づき、輸入者は権利者に対し、衣料品の販売売上額の1.5%をライセンス料として支払う。

(4)外国メーカーと輸入者の間の売買契約において、輸入者は権利者に対するライセンス料の支払い義務が付けられていない。他方、輸入者は経済連合域内において本商標が付けられた商品の唯一の輸入者となる。

(5)輸入者、権利者、外国メーカーは関係当事者となる。

<譲渡される権利の範囲内に収めることが肝要>
問:ロイヤルティー算入問題に直面する日本企業へのアドバイスは何か。

答:課税標準価格へのロイヤルティー算入の必要性を決定する際には、次の事項に注目する必要がある。

(1)どのような権利の範囲に対してロイヤルティーの支払いが含まれるか。
(2)締結されたライセンス契約書には何がライセンスの対象物となっているか。
(3)権利者、製造者、輸入者の間の相互関係とロイヤルティーが支払われない場合、権利者が商品供給を調整することが可能かどうか。
(4)ライセンス料の計算方法(売上高との割合、一括払いなど)。
(5)売買契約における商品供給条件の決定方法。

 課税標準価格へのロイヤルティーの算入問題に直面した際には、現状のライセンス契約内容を分析し、a.商品を輸入する権利が「譲渡される権利の範囲」内であることを税関当局に主張し、b.商品の輸入と関連しないロイヤルティーの支払い方法の設定について検討することをお勧めしたい。

(エカテリーナ・クラエワ)

(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア)

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