普及に向けた体制づくりが重要-高付加価値野菜の基準・認証制度とその課題-

(ベトナム)

ハノイ事務所

2015年05月01日

 ベトナムでは中国から輸入された野菜などからの残留農薬検出や他国産への産地偽装問題などから、消費者の高付加価値野菜への需要は都市部を中心に高まっている。一方、高付加価値野菜の基準・認証制度はさまざまでそれぞれに課題があり、普及に向けた体制づくりが重要となっている。

<野菜の生産地は紅河・メコン両デルタ地域>
 ベトナムは温帯気候と熱帯モンスーン気候に属し、野菜生産に有利な自然環境にある。特に紅河デルタとメコンデルタの両地域は野菜の大きな生産地で、両地域を合わせると、全国の野菜生産面積の約50%、総野菜生産量の約55%を占めている(表1参照)。

 ベトナムで生産される野菜は約80種類あるが、そのうちトマト、唐辛子、キュウリ、キャベツなど約30種類の野菜で生産量の80%を占める。

<有機野菜、VietGAP、BasicGAP、安全野菜が主な基準・認証制度>
 ベトナムにおける高付加価値野菜の主な基準・認証制度としては、(1)有機野菜、(2)VietGAP、(3)BasicGAP、(4) 安全野菜(Rau An Toan)が挙げられる。

 有機野菜は、化学肥料・化学農薬、作物成長調整剤、除草剤を使用せず、遺伝子組み換え野菜でないことが条件とされる。2006年に農業農村開発省が国内有機農業に関する基本的な指針を公布し、政府機関、NGO、民間機関、その他組織と協力し、国内市場用の認定システムを構築する方針だが、具体的な実行計画は策定されていない。その中で唯一ともいえる有機農産物認証基準となっているのが参加型有機認証制度(PGS:Participatory Guarantee System)と呼ばれる手法だ。これは地域に焦点を当てた有機農産物などの品質保証システムで、消費者の積極的な参加活動に基づいて生産者を認定する仕組みになっている。これまでに北部を中心に38ヘクタールの農地がPGS認証を受けているが、生産工程管理が厳しい上、通常の栽培方法よりも収穫量が少ないこと、PGS認証にかかる費用が高額、などの課題があり、普及は一部にとどまっている。

 VietGAPとは「Vietnam Good Agricultural Practice」の略で、ASEANGAPを参考に農業農村開発省が定めた農業生産管理基準だ。これは農産物の安全性を保証するために栽培・収穫・保存などの諸作業工程を規定するもので、農産物の品質向上に加え、生産者や消費者の健康の保障および環境保護もその目的に含まれる。現在、農業農村開発省は重要な4種類の作物(野菜・果物、茶葉、米、コーヒー)に関するVietGAP基準を公布している(表2参照)。当地報道によると、基準公布から6年がたったにもかかわらず、認証を取得している野菜生産面積は2,000ヘクタールと、全体のわずか0.2%にすぎない。VietGAPの内容が複雑でベトナム農業の現状に適合していないことや、土壌・水質の分析や施設整備など認証取得のために資金を要すること、VietGAPに対する消費者の認識や評価が十分に高まっていないこと、などが課題となっている。

 そこで導入の取り組みが始まったのが、BasicGAPだ。小規模農家でも実施しやすいようVietGAPの枠組みに基づき、直接的に安全に関わる重要な項目に絞って内容を簡素化している。2010年から国際協力機構(JICA)の技術協力により、一部地方省においてパイロットプロジェクトが実施され、2014年7月に農業農村開発省が「野菜生産におけるVietGAP基本指標実施ガイダンス」(2998/QD-BNN-TT)を公布し、本格的に導入された。VietGAP安全指標の65あるチェック項目を25項目に減らし、さらにそれらの指標も「必須項目」と「奨励項目」に分けられているほか、個人農家でも導入しやすいように記録方法も簡素化されている。

 安全野菜とは前述の3つの基準・認証よりも広い概念で、残留農薬(殺虫剤、除草剤)、微生物および寄生虫の数、残留硝酸塩および残留重金属の含有量が許容量範囲内にある野菜のことだ。1990年代以降、ハノイ、ハイフォン、ホーチミンといった大都市を中心として、安全野菜生産モデルが導入されていった。2009年5月にハノイ市人民委員会は「2009年~2015年の安全野菜生産・流通プロジェクト」を発表し、安全野菜の生産面積5,000~5,500ヘクタールを目指している。2014年第1四半期時点で、同市内にある4,500ヘクタールの野菜畑が「ハノイ地域における安全野菜生産条件合格」認証を取得している。しかし、「安全野菜」の概念については、その根拠となっていた農業農村開発省の通達(59/2012/TT-BNNPTNT)が2015年1月に無効となるなど、法令変更が頻繁に行われていることから、現時点では基準認証に関する内容については当局への確認が必要な状況にある。

<生産者が高付加価値野菜に参入しやすい仕組みづくりが必要>
 前述した参入コストの高さに加え、農家による高付加価値品生産の参入を阻む要因がある。当地報道によると、野菜の流通過程に多数の中間業者が介在し、中には一般野菜と高付加価値野菜を混在させて販売する業者がいるため、生産者に適正に利益が配分されにくい構造になっている、と指摘される。

 ベトナムでは、中国産の野菜・果物からの残留農薬検出や同国産品をベトナムや他国産と表示する産地偽装問題が相次ぎ、特に近年では消費者の食の安全に対する関心は都市部を中心に高まっている。生産者にとって参入障壁の低い基準・認証制度の普及に加えて、そうした制度の下で作られた高付加価値品の価値を消費者が購入時に理解・信頼した上で、生産者に利益が適正に還元されるような仕組みづくりが喫緊の課題となっている。

(竹内直生)

(ベトナム)

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