アフリカ系移民の排斥運動が激化、死者を出す事態に-ズマ大統領はアジア・アフリカ会議出席を取りやめ-

(南アフリカ共和国)

ヨハネスブルク事務所

2015年04月22日

 南アフリカ共和国のタウンシップ(黒人居住区)でアフリカ系移民の排斥運動が激化しており、4月20日時点で死者7人、逮捕者310人を出す事態となっている。有力部族の長が3月に外国人排斥を黙認するような発言をし、それに共鳴した住民たちが暴徒化している。ズマ大統領は22日からインドネシアで開催されるアジア・アフリカ会議への出席を取りやめ、事態収拾に当たっている。

<有力部族の長の発言が引き金に>
 ヨハネスブルクのソウェト黒人居住区で1月、ソマリア人が経営するスパザショップ(小売店)で盗みを働こうとした南ア人の少年がソマリア人に射殺される事件が発生した。これを受けて、外国人が運営するスパザショップなどを南ア人が襲撃し、略奪する事件が相次いだ。

 その後、事態は一時収拾に向かっていたが、3月に有力部族のズールー族の長であるグッドウィル・ズウェリティーニ王が「外国人が荷物をまとめて国に帰ってくれることを願う」と、外国人排斥を黙認するような発言したことが引き金となり、東南部のクワズールー・ナタール州でアフリカ系移民への暴力行為が再び拡大し、死傷者が出る事態となった。こうした動きはハウテン州の州都ヨハネスブルクのソウェトやアレクサンドラといった黒人居住区をはじめ他州にも拡大した。一連の外国人排斥運動により、4月20日時点で7人が死亡した。また、逮捕者数は310人に上っている。

<不満の矛先が外国人に向けられているとの見方も>
 アフリカ移民に対する大規模な排斥運動は2008年にも発生しており、この時は62人の死者が出る事態となった。今回の動きの背景として、南アに不法滞在するアフリカ系移民が窃盗や強盗、麻薬販売などにより治安を悪化させていることがあり、国内で移民に対する嫌悪感が強まっている。

 また、貧困や格差に対する不満が蓄積され、その矛先が外国人に向けられているとの見方もある。実際、襲撃にあった外国人はソマリア人、エチオピア人、ナイジェリア人、ジンバブエ人やモザンビーク人など、他のアフリカ諸国からの移民だ。黒人居住区でスパザショップを経営したり、自動車修理工や配管工、タクシー運転手として働いていたりする者も多いが、南ア人にとっては「自分たちの仕事を奪われた」という不満になり、それがアフリカ系移民の排斥や襲撃事件につながっているといえそうだ。

<南ア人従業員を一時的に避難させる企業も>
 今回のアフリカ系移民の排斥運動に関し、ナイジェリアやジンバブエなどから南アに対して非難の声が高まっている。ナイジェリア政府は在ナイジェリア南ア大使館に対し、外国人襲撃者を速やかに取り締まるよう要望し、在ナイジェリアの南ア企業の操業停止も辞さないと警告している。また、ジンバブエのロバート・ムガベ大統領は「ダーバン(クワズールー・ナタール州)で発生した出来事に対し、ショックと嫌悪感を覚える。アフリカ人に対してこのような恐ろしい行動が取られることは決して許されるべきではない」と非難した。また、マラウイ政府は4月17日に、南アにいる自国民500人を本国に戻すためバスを手配したと発表した。

 今回の外国人排斥運動によって、サブサハラアフリカに展開する南ア企業のビジネスにも影響が出てきている。南アナンバーの輸送トラックがモザンビークに入国したところ、ピックアップトラックに乗った群集から投石を受け、南アに引き返すといった事態が発生し、国境も一時封鎖された。また、南アの大手石油化学会社サソールは、340人の南ア人従業員をモザンビークから南アに避難させたと発表した。南ア企業だけでなく、南ア人従業員を雇用している外国企業も対応に追われている。アイルランドの鉱山会社ケンメアーは、モザンビークのチタニウム鉱山で働く南ア人従業員62人を、安全確保のため一時的に南アに戻した。

<大統領が現地入りし事態の収拾図る>
 南ア政府も、事態収拾に取り組んでいる。ズマ大統領は国民議会で、「外国人排斥には正義など全く存在しないし、このような排斥運動に対し、皆が断固として立ち向かうことを信じている」と、外国人排斥の動きを強く非難した。同大統領は4月22日からインドネシアで開催されるアジア・アフリカ会議への出席をキャンセルし、排斥運動が激化したクワズールー・ナタール州へ入り、事態の収拾を図っている。

 また、自身の発言が暴動拡大の発端ともなったズウェリティーニ王も4月20日、ダーバンのモーゼス・マヒダ・スタジアムに集まった約1万人の聴衆に対し、「私はわれわれのコミュニティーに平和が訪れることを希望する。また、アフリカの人々はわれわれの兄弟であると認識しなければならない」と述べ、排斥運動の沈静化を訴えた。

 現在のところ、白人やアジア人への影響はないものとみられる。ただし、在南ア日本大使館からは、黒人居住区には安易に立ち入らないよう注意が発せられており、暴動が沈静化するまでは安全に気を配る必要がある。

(川上康祐)

(南アフリカ共和国)

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