東南アジアナンバーワンの高付加価値農業都市を目指す-ラムドン省農業ワークショップ・ビジネス交流会(1)-
(ベトナム)
ホーチミン事務所・アジア大洋州課
2015年04月23日
日本とベトナムの関係機関の共催による「ラムドン省農業ワークショップ・ビジネス交流会」が3月23~24日、同省のダラット市内で開催された。日越両国の関係者を含め参加者は350人を超えた。ラムドン省は、コーヒー、野菜、茶、花卉(かき)、乳製品などの主要製品を国内外に供給するものの、小規模生産、生産資金の不足、販売市場の不安定に加え、生産・流通でさまざまな課題を抱えている。本ワークショップ・ビジネス交流会を5回に分けて報告する。1回目は農業の高付加価値化について。
<産業を集積化し、観光農業連携モデルを促進>
ラムドン省農業ワークショップ・ビジネス交流会は、国際協力機構(JICA)、三菱東京UFJ銀行、ジェトロが主催し、ラムドン省人民委員会の共催によってダラット市内で開催された(プログラムは添付資料参照)。ベトナム側からはグエン・スアン・ティエン・ラムドン省党書記を筆頭に同省のドアン・バン・ビエット人民委員会委員長(知事に相当)、ディン・バン・トゥアン同副委員長、日本側からは森睦也JICAベトナム所長、松山安男三菱東京UFJ銀行ベトナム総支配人、安栖宏隆ジェトロ・ホーチミン所長、民間企業の代表らが出席した。日本とベトナムの農業に関連する日本企業42社、ベトナム地場企業関係者を合わせ、参加者は350人規模と盛況だった。
ビエット委員長は「ラムドン省の農業はハイテク化により大きく進歩している。2014年の農業分野の生産額は前年比7.8%増の約16兆2,910億ドン(約896億円、1ドン=約0.0055円)で、1ヘクタール当たりの年間平均収入は1億3,000万ドンを超え全国平均の1.3倍程度になった。また、省内には5万3,660ヘクタールの野菜生産地、7,400ヘクタールの花卉生産地、2万2,030ヘクタールの茶葉生産地、15万6,448ヘクタールのコーヒー生産地を有している」と生産状況を説明した。
潜在性の高いラムドン省の農業ではあるが、一方で同委員長は「ラムドン省の農業には小規模生産、生産資金の不足、販売市場の不安定など、さまざまな困難や制限がある。そして、地方の企業は多くが中小企業のため、連携性と統合性が弱い」と直面する課題にも言及した。ラムドン省では課題解決のために、JICAやベトナム社会科学院と協力して「ラムドン省農林水産業および関連産業の集積化にかかる情報収集・確定調査」実施の覚書を締結して、これら産業の集積化の有効的な展開および観光農業連携モデル促進に取り組んでいる。
<ポストハーベストを充実させ、食の安全も重要視>
森JICAベトナム所長は「ベトナムでは農業の高付加価値化、すなわち加工産品の増加、そしてハイテク化が叫ばれている。それを考える際の基本としてまず、市場はどこか、購入者の求めるものは何かを把握することが重要だ。できるものを売る農業から、市場で求められる農産品、加工品を開発、育成、販売していくというモデルへの転換がスタート地点となる。市場の嗜好(しこう)にさらに敏感になり、研究開発を進めるために、多くの民間企業にラムドン省での農業に参入してほしい」と述べ、日本企業の協力に大きな期待を寄せた。そして、「ポストハーベストを充実させることで、今までは保存ができないため低価格で販売するしかなかったものが、新たな加工品として生まれ変わる。例えば、ジャムであり、ドライフルーツであり、乾燥野菜が代表的なものとして考えられる。また、ハイエンドな顧客を狙った贈答用の花卉や糖度の高い果物の新品種が導入される。市場としてはベトナム国内にとどまらずアジアの都市を狙う。そして何よりも、ベトナムの人々が常に心配している食の安全に対して、安全かつ適切な量の肥料を使った安全野菜が生産され、多くの国民が安心して食せるようになる」との認識を示した。
<日越双方が農業分野に大きな関心>
共同主催者である安栖ジェトロ・ホーチミン所長は「2014年3月にチュオン・タン・サン国家主席が国賓として訪日した際、両国は『広範な戦略的パートナーシップ』という新たな協力の次元へ発展させることで一致し、日本はベトナムの農業振興に対する強い協力要請を受けた。これを受けて、日本の農林水産相は2014年6月と2015年1月、約半年の間に2回もベトナムを訪問した。また、2014年3月に茨城県が、2015年3月には和歌山県が農業農村開発省との間で覚書を締結、秋田県も北部ビンフック省との間で覚書を締結するなど、日本の地方自治体も積極的に農業分野でのベトナムとの協力関係の強化に取り組もうとしている」と農業分野における日本とベトナムの動きを説明した。
また、「ラムドン省はベトナムを代表する農業生産地として、最も多い10社程度の日系企業が農業関連分野で進出している。その冷涼な気候を生かした野菜や花卉の生産地として日本企業の関心がますます高まっている。ジェトロにとっては、今回のような農業分野の取り組みは初めての経験であり、農業分野でのビジネス交流の試みは新たな取り組みの第一歩だ。ジェトロは今回の『農業ワークショップ・ビジネス交流会』を皮切りに、農業関連分野における日本企業の当地のビジネスを振興するため、より効果的な情報収集や発信、ビジネスマッチングなどに取り組んでいく」と今後の方向性を語った。
<農業発展のために4つの目標と7つの戦略を提案>
続いて、「日越協力を核としたラムドン省の農業発展戦略」と題し、ドリームインキュベータベトナムの細野恭平社長が講演を行った。細野社長は「ラムドン省の基幹産業は農業で、主要品目はコーヒー、野菜、茶、花卉、乳製品となる。面積ベースの主要作物ではコーヒー45%、野菜16%、茶6%、花2%の順番となる。特にコーヒーは有数の生産地で、ロブスタ種は国内2位。アラビカ種は唯一の生産地だ。ベトナムのコーヒーはロブスタ種で、世界的にブランドとして認知されていない。野菜はタマネギ、ジャガイモの生産が中国との競争激化の影響を受けて減少傾向にある。一方、葉物については、気候条件が良く新鮮なものが採れるため、生産量は増加傾向だ。茶はベトナム北部地域でも生産されているが、ラムドン省は国内最大の生産規模を誇りウーロン茶を栽培している。花の生産量は菊やコチョウランなどの生産が盛んであり、年間18億本にも及ぶ。最近、コチョウランの生産が増加傾向にあるが、日本側の求める水準を満たしていないため対日輸出は限定的だ」と説明した。
またラムドン省の課題については、「(1)農地の生産拡大余地が限定的、(2)生産性の高い作物に転換が必要、(3)野菜や花にフォーカスすべきだ、の3点が挙げられる。しかし、野菜と花にフォーカスしても、まだ差別化ができていない。野菜はポストハーベストが重要。花については国内の流通をつくる必要性がある」などと提案した。
さらに、ラムドン省の現状と課題を踏まえ細野社長は、同省が東南アジアでナンバーワンの高付加価値農業都市を目指すために、以下4つの目標と7つの戦略を提言した。
○4つの目標
・ベトナムにおける圧倒的なナンバーワンブランド
・東南アジアナンバーワンの日本向け輸出基地
・ベトナムナンバーワンのアグロツーリズムサイト
・ベトナム中部高原ナンバーワンの農業人材育成センター
○7つの戦略
【メーン戦略(短期)】
・野菜:バリューチェーンのハイテク化
・花卉:流通・生産のハイテク化
・ブランディング活動の強化
【サポート戦略(中期)】
・農業団地の建設
・アグロツーリズムの振興
・有能農業人材の育成
・中長期的な研究開発(R&D)機能の強化
(村松健、大久保文博)
(ベトナム)
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