ニット製衣類の受注が活発化、本格運用は商業省での周知後に−一般特恵関税制度の原産地規則が緩和−

(ミャンマー)

ヤンゴン事務所

2015年04月15日

4月1日、日本税関の発表により一般特恵関税(GSP)のニット製衣類(HSコード61類)に関する特恵原産地規則が緩和された。特恵受益国内で必要とされたいわゆる「2工程ルール」が廃止され、布帛(ふはく)製品と同様に「1工程ルール」へと変更された。これに合わせた縫製関連各社の動きは早いが、スムーズな運用にはミャンマー商業省での周知が必須とされている。

<日本向け輸出が約4割を占める縫製品>
ミャンマーの縫製品は天然資源、農産物に次ぐ主要な輸出品目であり、縫製業は同国の基幹産業とされる。現在は全体の約4割が日本へ、3割が韓国へ輸出されており、布帛製衣類(HSコード62類)の生産が約9割を占める(表1、2参照)。委託加工方式(ミャンマーではCutting, Making and Packing:CMP方式)での取引が多いが、民政移管後は日本企業(ハニーズ、ワコールなど)をはじめ外国企業の工場立ち上げが本格化している。

表1ミャンマー産衣類の主要相手国別輸入額
表2日本のミャンマー産衣類輸入額の推移

電力をはじめとするインフラの未整備もあり、製造業の進出が限られてきたミャンマーでは、労働集約型産業である縫製業で強みを発揮してきた。同産業を下支えしてきたのは全人口の約7割を占める労働人口(「The World Fact Book 2014」CIA、2014)だ。周辺国に比べて安価で、しかも豊富だ。

日本向けの輸出に当たっては、一般特恵関税制度の中でも、ミャンマーを含む後発開発途上国(LDC)に与えられる一般特恵関税(LDC特恵)の存在が大きい。

<現地製造のコスト優位性高まる>
ミャンマー製品が日本でLDC特恵を享受するには、LDC特恵の原産地規則を満たし、原産地証明書(Form A)をミャンマーで取得する必要がある。今回の原産地規則緩和の概要は以下のとおり(詳細と背景については、2015年4月8日記事参照)。

ニット製衣類(HS61類)については従前、原産性基準として、特恵受益国内での(1)糸から生地へ、(2)生地から衣類へ、の2段階の加工工程基準(2工程ルール)が用いられてきたが、4月1日からは布帛製衣類(HS62類)と同様に、「生地から衣類へ」加工するのみでこれを満たすことができるようになった(1工程ルール)。

これまでニット製衣類に対して関税率0%を享受するには、(1)2工程ルールへの対応によるLDC特恵利用、(2)自国関与基準によるLDC特恵利用、(3)日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)利用、のいずれかが必要とされてきた。AJCEP利用時は主に、ベトナムからニット生地を輸入している場合が多いようだが、中国製生地に比べるとやはり割高になる。

今回の1工程ルール下で、中国製生地を使用し、かつ関税率0%(LDC特恵)を享受できるようになったことで、ミャンマーでのニット製衣類製造のコスト優位性は高くなったといえる。

<「1工程ルール」に合わせた受注に動く>
今回の規則緩和を受けて、当地の縫製業各社は受注に動いている。

これまで女性用の礼服やワンピース(いずれも布帛製衣類)を製造してきた企業は、中国製またはイタリア製のジャージー生地をミャンマーに輸入して、女性用コート(ニット製衣類)の製造を検討するという。

また、女性用ズボンやスカート(布帛製衣類)を製造している企業には、既にレギンスパンツ(ニット製衣類)などの製造に関して引き合いが複数寄せられており、設備や契約などが整い次第、近く製造を開始したいとしている。

縫製品をメーンに扱う日系物流業者にも、中国製ニット生地などの輸入案件の引き合いが既に入っており、ニット製衣類の受注が大きく動いている実感があるという。

これまで布帛製衣類の製造設備や経験を備えてきたミャンマーの縫製業各社だが、いずれも当該規則緩和に合わせた受注に積極的で、今後は前出のニット製衣類の輸出割合や、縫製品全体の輸出額にも影響を与えそうだ。

<スムーズな運用にはミャンマー商業省側の理解が必須>
本格的な運用に向けて、日系企業各社の共通の懸念は、ミャンマーで原産地証明書を発給する立場にある商業省の対応だ。これまで商業省では、ニット製衣類に対し、2工程ルールや自国関与基準などにのっとったかたちでしか原産地証明書の発給実績はない。

既にジェトロ・ヤンゴン事務所は、商業省の担当官への情報提供やレター発出などに動いているが、この規則緩和の内容につき、商業省全体が把握し、各窓口で間違いなく対応するようになるまでには一定の時間がかかるだろう。

(瀬川藍子)

(ミャンマー)

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