ユーラシア経済連合で包括的な新関税基本法案の策定進む−通関問題ワークショップ(1)−

(アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、ロシア)

モスクワ事務所

2015年04月15日

ユーラシア経済連合(EEU)の発足、通関における電子申告の義務化、統一自動情報システムの運用開始など、CIS地域では近年、通関分野における制度・インフラ面での環境整備が進む一方、ロシア連邦税関局による関税徴収を強化する動きなど、企業にとって通関問題は引き続き重要な問題だ。ジェトロは2月12日、ロシア・サマラ州トリヤッチで通関問題に関するワークショップを開催した。その内容を3回に分けて報告する。1回目はEEUの新関税基本法案と最近の通関に関連する問題について。

<5月にはキルギスもEEUに加盟予定>
ワークショップでは、法律事務所DLAパイパー・モスクワ税関実務部門長のアレクセイ・アロノフ氏が税関・貿易規制の最新動向について講演した。概要は以下のとおり。

EEUが2015年1月1日に発足した。EEUの設立に関する条約が発効し、ヒト、モノ、カネの自由な移動が可能となり、経済政策の調整も行われる。非関税障壁を減らすため、医薬品など各国で異なる流通規制がある分野でも、許認可システムの共通化などを実現していく。サービスの自由移動は段階的に保障される。医療分野でも、加盟国の中で自由なサービスが提供可能となる。労働力の移動についても大きな進展がみられる。EEUの加盟国内であれば労働許可が不要となり、労働の自由が保障される。

ロシア、ベラルーシ、カザフスタン3ヵ国で発足したEEUには、その翌日にアルメニアが加盟し、5月にはキルギスも加盟する予定だ。

EEUとしての新しい関税基本法案の策定作業が進展している。既に発効している30以上の国際条約や法律を包括的にまとめる基本法を作成している。現在も有効な関税同盟(EEUの前身)の関税基本法には各国内法への言及が多くみられるが、新法案ではこれを少なくし、関税基本法のみで適用できるようにする。

<「所在地の原則」廃止や通関手続きの電子化に期待>
新法案では、通関に関する国際条約や、EEU加盟国のWTO加盟に伴う義務も考慮される。最新の情報技術を取り入れた税関行政を実現できる内容も含まれており、税関当局のデータベースに通関文書をアップロードすれば自動的に承認されるようになる見込みだ。申告者側は、毎回書類のコピーを提出する必要がなくなる。

認定事業者(AEO)制度に関する章が新しい関税基本法に盛り込まれる。DLAパイパーは同制度に関する新法案の作成作業に参加しており、法案にEUの同制度と類似する条文を導入し、EUとAEO制度の相互認証ができればよいと考えている。欧州との相互認証ができれば、多国籍企業には大きなメリットになる。しかし十分な支持は得られておらず、独自の制度を構築しようという動きもある。

このほか重要な改正事項として、「所在地の原則」の廃止がある。この原則のため現在は、それぞれの国内法人しか税関申告できない。このルールが2020年1月1日以降に廃止され、加盟国であればどの国の税関当局にも貨物の通関申告書を提出できるようになる。例えば、ロシアにいながらカザフスタンで税関申告が可能となる。これにより最もビジネスがしやすい場所に物流が集まることが期待され、加盟国間の競争が促進される。各国政府はビジネス環境の整備に関心を高めることとなるだろう。

将来的には、申告書や審査の必要性をコンピュータが判断し、税関当局は受理した通関情報の確認結果を情報システムから取得することになるため、人的要因による間違いがなくなることが期待される。

新法は、2015年中の採択、2016年からの施行を目指している。

<関税徴収は厳格化の見通し>
ロシア税関による関税徴収については、景気後退、対ロ経済制裁や対抗措置、ルーブル下落などにより輸出入量が大きく変動しているにもかかわらず、連邦税関局は関税徴収の見通しを変更していない。2014年9月に連邦税関局中央税関支部が地方税関支部に対して、関税徴収の見通しに関する通達(2014年9月5日付第22−08/2354号)を出している。連邦税関局長官から中央税関支部長に宛てた2014年9月8日付連邦税関局書簡第01−30/42655号「関税などの徴収の余地について」では、効率的な税関事務やリスク管理を通じて増収の余地があると指摘されている。従って、徴税はより厳格化される見通しだ。税関当局は行政違反の摘発を通じて徴税を強化している。2014年には6万件以上の行政違反が摘発され、そのうち約5万件が処罰対象となった。

(齋藤寛)

(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニア)

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