「3院合一」によってタイムリーな法の執行を実現−開設から約3ヵ月の上海知識産権法院−

(中国)

上海事務所

2015年04月07日

中国の知的財産権に関する司法改革の最も重要な一歩として、2014年末に北京市、広東省広州市に続き、上海市にも知識産権法院が設立された。開設して約3ヵ月間の動向をみると、「3院合一」の機能を生かしたタイムリーな法執行も実現している。

<北京市や広州市とは一部異なる運用>
上海市の知識産権法院は、北京市や広州市の同法院とは一部異なった運用がされている。上海市の同法院は2014年12月28日に設立されたが、同日には上海市第三中級人民法院も設立された。上海市には既に第一中級人民法院と第二中級人民法院があるが、第三中級人民法院が新設された。

上海知識産権法院は、この第三中級人民法院と同じ場所にあり、行政管理や人事などの部門を共有している。これら2つの法院は既存の上海市鉄路運輸中級法院を基に設立されたため、知識産権、第三中級、鉄路運輸という3つの法院の統合を意味する「3院合一」として対外的にも紹介されている。案件の裁定機能としては知識産権法院の審判第1法廷と第2法廷のみで、立案と法執行については第三中級人民法院、鉄路運輸中級法院の関連部門と連携している。呉偕林氏が知識産権法院・第三中級人民法院・上海市鉄路運輸中級法院院長となり、専門の法官が10人配置されている。

<ほぼ3ヵ月で168件を受理>
このように機構の簡素化や効率化を進めた上でスタートした同法院は、開廷からほぼ3ヵ月となる2015年2月25日までに168件の知識産権案件を受理した。この中には、「3院合一」の機能が発揮されたケースもあった。

上海市第三中級人民法院は2015年2月2日、コンピュータソフトウエア開発の契約紛争に関する案件を受理し、原告側の被告人に対する財産保全の要請を審査・立案した。その後、知識産権法院は本案件を素早く裁定し、鉄路運輸中級法院に法の執行を依頼した。その日のうちに、鉄路運輸中級法院は被告人の銀行預金を全額凍結し、訴訟プロセスを完遂した。

<司法改革の新しいモデルに>
背景には「立案審査制」から「立案登録制」へ転換する司法改革がある。中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議(四中全会)では司法改革の重要な内容として「立案登録制」への転換が決定された。同決定では、「人民法院が法に基づいて受理すべき案件に対しては、案件があれば必ず立て、訴えがあれば必ず審理し、当事者の訴権を保障する。虚偽の訴訟や悪意の訴訟、道理のない訴訟などの行為に対する懲罰を強化する」と示されている。

2月26日付の「労働報」は、上海市第三中級人民法院立案廷の銭光文・廷長が「第三中級人民法院と知識産権法院は、設立直後から立案登録制度を試みており、3月以降は、本制度をより細分化する予定だ」と述べた、と伝えている。例えば「立案材料登録表」を公表して、立案プロセスをさらに整備して透明性を高めていくようだ。

公表されている資料を見る限り、これまでのところ外資系企業の案件はまだないもようだ。司法改革の試金石としても位置付けられる上海知識産権法院の運用状況については、今後も注視していく必要がある。

(秋葉隆充、王ルー)

(中国)

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