商標の選択と管理は中小企業にも重要−特許商標庁から講師招き知的財産制度セミナー開催−

(米国)

ニューヨーク事務所

2015年04月09日

ジェトロ・ニューヨーク事務所は1月30日、中小企業をはじめとする在米日系企業を対象に、商標権の解説を中心とした知的財産制度セミナーを開催した。商標の選択と適切な管理は米国でビジネスを戦略的に展開していく上で、大企業のみならず中小企業にとっても重要だ。米国特許商標庁(USPTO)のクレイグ・モリス氏による、米国の商標制度とその手続きに関する講演内容を紹介する。

<類似した商標の有無を調査した上で使用>
「商標」とは事業者が、自己の取り扱う商品やサービスを他人のものと差別化するために使用するマークだ。USPTOによると、2014年度の連邦商標登録の申請件数は、前年比4.9%増の45万5,017件と増加傾向にある。単語やロゴ、デザイン、もしくはそれらの組み合わせなどが商標として認められるが、他者が使用する商標と類似した商標を選択してはならない。既に存在する類似した商標を使用してしまった場合は権利を侵害しているものとされ、権利者から使用中止を命じる文書が提出される可能性がある。当事者間でこうした問題を解決する契約を結ぶことができれば紛争は発生しないが、互いの同意が得られなかった場合は裁判所で争うことになる。異議申し立ての件数は4.4%増の5,509件で、登録申請と同程度の伸び率を示している。

裁判所は権利侵害の有無を、(1)両者の商標が類似しているか、(2)両者の商品やサービスに関連性があるか、で決定する。類似しており関連性があれば、消費者が誤って同一の商品やサービスと見なし得ると判断する。例えば、「X−SEED」という商標の植物の種と、「EXCEED」という商標で取り扱われる植物は、客観的に類似性があると判断される。(1)両者の発音が類似しており、(2)ともに商品が植物に関連しているからだ。

こうした商標を選択しないためには、分析調査をした上で商標を使用することが求められる。USPTOでは、無料の商標電子検索システム(TESS:Trademark Electronic Search System)を提供している。しかし、類似性があると判断される前述の「X−SEED」と「EXCEED」の例や、そもそも連邦商標登録がされていない商標は検索結果に反映されない。このようにコンピュータによる分析には一定の限界があるため、調査は商標権に精通した弁護士に相談するのが一般的だ。

<独創的な商標や恣意的な商標は権利保護が容易>
類似した商標の有無の確認のほか、商標登録の際に考慮しなければならない点として、権利保護が容易な商標を選ぶ必要がある。権利保護の容易な商標は強い商標と見なされ、逆に弱いとされる商標を選択した場合は、保護が困難になる。最も権利保護が容易な商標(強い商標)に分類されるのは、独創的もしくは恣意(しい)的な商標だ。独創的な商標とは、もともとは誰もが知らなかった単語で、企業が独自に考案したものをいう。例として、「コダック」や「ゼロックス」がある。恣意的な商標としては「アップル」が例として挙げられる。コンピュータの商品名とは全く関係のない単語を使うことで、高い識別力を持ち、強く権利が保護される。

そのほかにも、商標が使用され得る地域のことも考慮しなければならない。米国では有効な商標と見なされても、他国では問題ある商標として判断されるかもしれないからだ。

<連邦商標登録後も適切な管理が必要>
米国ではコモンロー(慣習法)の権利が重要視され、使用主義を原則とするため、連邦商標登録をしなくても権利として保護される。しかし、コモンロー上で認められる権利は実際に使用している範囲に限定されるため、連邦商標登録することで普遍的に有効な権利にできる。また、商標権を侵害している外国の製品が米国に輸入されることを防ぐ権利ができるなどといったメリットもある。連邦商標登録の手続きや注意点については、USPTOがマニュアル(Protecting Your Trademark)を公開している。

連邦商標登録はインターネット上で申請が可能であり、今日では登録申請者の99%が電子申請している。申請してから審査開始までは、約3ヵ月を要する。審査においては、USPTOにおいても類似した商標がないか調査し、類似商標があれば、USPTOから拒絶理由を記載した通知が届けられることになる。申請者は拒絶理由に対し、通知から6ヵ月以内ならば、反論する意見書を提出することができる。

連邦商標登録は、取得すれば商標の使用を続ける限り半永久的に権利として認められるが、登録後も商標の適切な保護や更新手続きが必要となる。権利侵害を受けた際に、権利者自身が使用中止を求める文書を侵害者に送付するなどして商標を保護することや、登録後の5〜6年目と、登録後から10年ごとにUSPTOに商標を使用していることを証明する文書を提出し更新作業をするなど、権利者として適切な管理が必要だ。

なお、米国における商標権については、ジェトロ「米国における事業進出マニュアル〜知的財産権〜」を参照のこと。

(小川優太)

(米国)

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