高いデザイン性と機能性で売り込む建材商品−ASEAN市場に挑む中小企業(8)−

(ASEAN、日本)

アジア大洋州課

2015年04月02日

高いデザイン性と軽さ・丈夫さなどの機能性を兼ね備えた、2つ以上の素材を組み合わせた複合パネル製品などを製造・販売するエンバークトレード&コンサルティング(本社:横浜市)は、初めてジェトロのキャラバン事業に参加し、ASEAN市場(シンガポール)で開かれた建材展に出展した。海外市場開拓への取り組みについて、同社取締役の田中彩子氏に聞いた(1月13日)。

<縮小傾向にある日本市場、中国からASEANへ進出>
問:ASEAN進出の経緯と市場開拓の現状は。

答:当社は建材メーカーとして、日本市場が今後縮小傾向に進むであろうと想定し、海外に目を向けて中国に設置した現地法人の工場で生産した製品を、日本および中国国内で販売してきた。

当社は中国に進出して10年以上たち、生産のみならず、販売に関しても基盤ができてきた。進出当初は製品を理解してもらうことが難しかったが、徐々に浸透し始めてきた。今後は日中間のビジネスだけでなく、新興国でも市場開拓の可能性を探っていく方向だ。

<日本の技術・品質、そして価格面をアピール>
問:ASEANバイヤーの日本製品への評価・反応は。ASEANバイヤーが求めてくる製品の特徴は。

答:当社には日本産と中国産の製品がある。既に中国では生産から販売まで行っており、日本以外の国・地域からの品質や価格要求に対しても柔軟である、という印象を持ってもらえたようだ。

ASEANでは複合パネルがまだ目新しいようで、当社の大理石とアルミハニカムの複合パネルを初めて見たという人もいた。この製品は、薄い大理石の裏側にアルミハニカムパネルを裏打ちしたもので、大理石単品に比べて、「軽くて、強くて、施工しやすい」のが特長。通常の大理石では難しかった箇所への使用や、デザインを施すことが可能で、再利用もしやすい製品となっている。しかし、アルミハニカムパネルを裏打加工するための価格は大理石単品より高くなる。

価格に関しては一般的な大理石やタイルとの比較になりやすく、「高い」と言う人もいた。しかし、製品単価は高いが建設全体の総コストからみれば、上記の製品の特性で施工しやすく建設費は低く抑えられるため、割安であると理解してもらえた。大理石の複合パネル製品以外では、デザイナーには漆・蒔絵(まきえ)調パネルが好評だった。

本展示会では、シンガポールのほかに、フィリピン、インドネシアなどASEAN各国のバイヤーから関心を持ってもらうことができた。ただ、バイヤーにとっては新しい製品のため、活用方法に関して知識が乏しく、どのようなプロジェクトに織り込むことができるか、どういった場所に使用できるか、といった疑問に答えることが中心となった。まずは製品を知ってもらい、今後のプロジェクトに織り込んでもらえるかどうか、という基本的な説明と紹介が主だった。

他方、ある建材パネルメーカーが扱う素材と当社の素材を組み合わせて製品化はできるか、という問い合わせがあり、当社のハニカムパネルをその企業向けに加工して出荷し、商談が1件成立した。

シンガポールのバイヤーに複合パネルについてプレゼンテーション

問:ASEANバイヤーへの売り込みで工夫した点は。

答:製品メリットと、複合材や使用した際の建物全体のメリットについて、事前にアピールポイントを盛り込んだストーリーを準備していた。特に中国での営業経験を踏まえて、製品単価の話が中心にならないように留意した。来場したバイヤーはゼネコン(マレーシアやインドネシアの大手など)、設計事務所・デザイナー、商社の3タイプあった。バイヤーのタイプは予想の範囲内であり、これらのタイプに合わせたストーリーを準備していたので、適宜対応した。

中国製品は安いが品質が良くない、という声があったので、中国製品でも日本の技術と管理の下に製造された製品だ、という点を強調した。

また、シンガポールでは大理石が多く床施工に使われているということだが、二重床構造でなく躯体(くたい)に直接石を貼るため、モルタルなどの汚染された水が石の表面に浮き出る例があることが分かった。その解決法を探すバイヤー(内装コンサルタント)も存在しているとのことで、施工後処理やクレームを軽減できるメリットも話に盛り込むようにした。大規模コンドミニアムや商業施設は床板面積が大きいため、ビジネスのターゲットになる。施設稼働後も扱いやすい建材ということでも提案をした。

一部、石材の種類に関する質問があったが、当社工場がある中国福建省は世界有数の石材加工・出荷の基地なので原料調達に困らず、各種石材への対応もしやすい。大理石から御影石、また世界各国のさまざまな石材に対応できることを伝えた。

<難しいが重要な現地パートナー選び>
問:ASEAN市場開拓で直面した課題と対応策は。

答:展示会は1つの通過点であり、将来の顧客となり得る来場客をフォローしながら、どのように市場開拓していくかが重要だ。シンガポールは東京から7時間かかり、中国と比べると倍以上の時間がかかる。当社のリソースは限られているため、距離的に離れた場所への頻繁な行き来は負担が大きい。現地パートナーや代理店との協業が今後の重要な課題となっている。

問:ASEAN市場開拓における今後の展望と事業展開は。

答:展示会後の3ヵ月間で、シンガポールの営業パートナー、フィリピンでの代理店候補の企業を見つけ出した。前者とは既に契約済み、後者とは代理店契約について交渉する予定だ。後者の企業はアルミ建材関連事業を50年にわたりフィリピンで営んでいたこともあり、当社製品の素材知識が豊富だったこと、日系企業との付き合いも以前にあったことが有力候補になった理由だ。協業する企業とはさまざまな点で検証し、共同で市場開拓を展開していく方針だが、相手選びは難しいと感じている。

基本的にはシンガポールを軸にしながら、シンガポール、マレーシア、フィリピンでの代理店開拓およびプロジェクトを狙っていく。ローカルはもちろん、日系企業も大規模なプロジェクトを展開しており、重要な営業先だ。2015年の後半以降は、上記以外のASEAN地域にも活動を拡大していく考えだ。

(石塚賢司)

(ASEAN・日本)

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