厳しい経済見通し、日系企業は体制立て直しの時期に−ロシア・ビジネスセミナー(1)−

(ロシア)

ロンドン事務所

2015年03月30日

ジェトロは、「ロシア・ビジネスセミナー」をロンドン(2月20日)とデュッセルドルフ(2月26日)で開催した。ロシアは欧米による経済制裁などのリスクを抱えているものの、依然として日系企業が注目する国の1つだ。セミナーでは、原油安と経済制裁の影響をはじめとしたロシアのマクロ経済動向を概観するとともに、自動車産業や新たなビジネスの可能性、日系企業によるロシアビジネスの経験について解説した。内容を2回に分けて報告する。前編はロシア経済・ビジネスの現状と展望について。

<ルーブル安の影響が続くと予測>
セミナーの初めにジェトロ・モスクワ事務所の服部隆一所長が、ロシアのマクロ経済や企業動向、原油安や経済制裁の影響について、以下のように講演した。

ロシア経済は、2014年に起きたクリミア「併合」などに端を発する欧米による経済制裁、原油安、ルーブル為替レート急落により厳しい経済状況下にある。2015年のロシア経済は厳しい見通しで、日系企業にとっては対ロシアビジネス体制の強化・取引先の見直しを行う時期になるだろう。

米国とEUはロシアに対し、資本市場へのアクセス制限やエネルギー関連技術などの貿易制限といった経済制裁を実施した。これに対しロシア政府は、対抗措置として、米国、EU、カナダ、オーストラリア、ノルウェーを原産地とする農産物・食料品の輸入禁止措置を導入した(2014年8月8日記事参照)。こうした経済制裁や対抗措置の影響で、ロシアでの石油関連の合弁事業やEU諸国の農業は打撃を受けている。一方で、ロシア政府は輸入代替促進や非資源製品の輸出促進をはじめとする対策を実施している。ロシアの食料品関係の地場企業や輸入代替先となった国では、需要拡大などの恩恵を受けているところもある。

急激なルーブル安については、日系企業にも影響が出ている。ルーブルが急落した2014年12月中旬、耐久消費財店を中心に駆け込み需要が急増し、ロシア近隣諸国からも消費者が流入した。しかし、ジェトロが在ロシア日系企業を対象に実施した調査結果によると、大方の企業はルーブル安によるマイナスの影響を受け、また今後も影響を受けると予測している(2015年2月12日記事参照)。こうしたマイナスの影響はあるものの、日系企業の7割は今後、経費・コスト削減や販売価格の値上げ、契約見直しなどを通じてロシアでの事業を維持・拡大する見通しを示している。

<「脱欧米・親アジア」の動きが加速>
ロシア国内では消費者の行動にも変化がみられる。海外旅行から国内旅行に変える人の増加や必要なものを見極めて購入する「コンパクト型購買」にシフトする傾向があるようだ。

また、ロシアでは経済危機を転換点として「脱欧米・親アジア」の動きが加速している。中ロ天然ガスパイプライン「シベリアの力」の着工や、人民元建て取引額の増加など中ロ関係が緊密化しているのに加え、ウラル以西に集中する100万都市とは反対側のロシア極東に「優先的発展区域」を設け、投資環境を整備するなどアジア太平洋地域を意識した取り組みが目立つ。同時に、自立した経済体制確立に向けた政策も実施され、輸入代替・国産化強化を図ろうとしている。

(鬼木知歌、トネット・リザ、岡部文人)

(ロシア)

ビジネス短信 5514b225a1dd8