制裁緩和を見越し関係強化に意欲−イランとの特恵貿易協定が発効−

＜イランの農産物とトルコの工業製品合わせ265品目の関税引き下げ＞
ゼイベクチ経済相は2014年12月31日、テヘランでのモハメッド・レザー・ネマツザデ工業鉱山貿易相との共同記者会見において、両国間の特恵貿易協定が発効することと、両国通貨での貿易決済、カプキョイ国境での物流、税関検査の改善について意見を交換したと述べた。

特恵貿易協定の発効は、2014年1月のエルドアン首相（当時）のイラン公式訪問の際に締結された内容を受けたもので、トルコ側がイランからの一部農産物（125品目）、イラン側がトルコの工業製品（140品目）と、両国合わせて265品目の関税を引き下げることになる（2014年2月24日記事参照、注1）。

ゼイベクチ経済相は、トルコとイランの貿易額は金の輸出が牽引した2012年の205億ドルをピークに、2013年は131億ドル、2014年は120億ドルまで下落したとし、金だけでなくその他の貿易も減退したことを指摘（添付資料参照）。同相は、この減少傾向を改善しなくてはならないと強調し、「歴史的な特恵貿易協定の発効が貿易を拡大に転じさせることになる」と期待を表明した。

トルコはまた、イランと国連安全保障理事会常任理事国にドイツを加えた6ヵ国（P5＋1）との核協議の進捗を重視しており、制裁緩和に向けイランを最大限支援するとし、トルコはイランの政府および民間企業を支持してきた唯一の国だと強調した。特に医薬品の提供に関して、他国が承認を渋る中でトルコのみが提供してきたと主張するなど、イラン制裁緩和を見越した友好関係の強化に意欲を示した。

一方、イランのネマツザデ工業鉱山貿易相も、特恵貿易協定が2015年末の貿易目標額350億ドル達成を現実味のあるものにするとした上で、制裁がなければたやすい目標だが、現状では最大限の方策を求めるべきだろうと述べた。

＜トルコでは繊維・衣料品や家具輸出拡大に期待＞
トルコの産業界では、繊維・衣料品と家具分野でイランへの輸出増が期待されている。一部の企業ではテヘランなど大都市での販売店開設の動きもあり、2015年中に15％近い販売拡大が見込まれているという。

イランにおけるトルコの販売店は、衣料品、ホームテキスタイル、家庭用品を中心に135店舗が報告されている。中でも紳士服のアッバ（Avva）は31店舗を展開しており、次いでホームテキスタイルのタチ（Tac）が24店舗、家具のヤタシュ（Yatas）が16店舗、衣料品のオルカ（Orka）、家電のベステル（Vestel）が6店舗ずつとなっている。特に衣料品では多くのトルコブランドが進出しており、特恵関税の適用による利益の増大が期待されている。イスタンブール既製服・衣料品輸出組合（IHKIB）のヒクメット・タンルべルディ会頭は、衣料品分野が特恵貿易協定の最大の恩恵を受けるだろうとコメントしている。

また、トルコ産の家具はイランでは高品質との評価を得ており、中国に次ぐシェアを持つ。現状のシェアは中国の83％に対してトルコは10％にすぎないが、トルコ側は今回の協定発効で拡大できるとみている。こうしたトルコからの消費財輸出のポテンシャルは物流関連の期待にもつながっている。現在、イラン向けのトラックには関税のほか燃料税が課されており、トルコ側も同様の課税を行うなど、コスト面で物流の障害となっている。今後の交渉で撤廃が期待されている（注2）。

一方のイラン企業には、トルコでの石油化学関連の合弁会社設立に向けた動きもあるという。トルコ化学品工業会のティムル・エルク会頭は、アゼルバイジャンの国営石油会社ソカール（SOCAR）がトルコに進出したのと同様のケースがイラン企業にも期待できるとしている。テヘランではトルコ貿易センターの開設も予定されており、制裁後の需要拡大を見越したトルコ企業の視線は熱い。

（注1）特恵関税の品目は以下を参照。92ページ以降に英語訳あり。
http://www.resmigazete.gov.tr/eskiler/2014/11/20141104-2-1.pdf
（注2）その後、ゼイベクチ経済相が2015年2月3日にイランを再訪して協議した結果、燃料税も緩和されることになった。

（中島敏博）

（トルコ・イラン）