経済開発における外資導入の重要性を強調−キューバ投資機会セミナーを開催−

(キューバ)

中南米課

2015年03月18日

在日キューバ大使館、日本キューバ経済懇話会およびジェトロは3月11日、東京で「キューバ投資機会セミナー」を開催した。セミナーでは、キューバが近年、経済モデルの改革に取り組んでおり、その中で外国投資誘致を重視している姿勢が強調された。同政府はマリエル開発特区プロジェクトを中心に246の投資機会を特定しており、その中から日本企業の参画を期待する分野の紹介があった。

<「変化」のあるところにビジネスチャンス>
「キューバ投資機会セミナー」は、日本を公式訪問中のキューバのリカルド・カブリサス・ルイス閣僚評議会副議長が臨席して開催された。米国との国交正常化交渉が開始され、今後の変化が期待されるキューバに対する関心は高く、セミナーには162人のビジネスパーソンやマスコミ関係者が参加した。

主催者を代表してあいさつしたジェトロの石毛博行理事長は、セミナーのキーワードを「変化」とし、その一例として、2014年6月に新外国投資法を発効させ、外資受け入れの拡大を通じて輸出と雇用の増加、経済成長の加速を目指すキューバの政策を挙げるとともに、同年12月に発表された米国との国交正常化交渉の開始が日本企業にとっても衝撃的な「変化」だった、と述べた。

石毛理事長は、対米関係の改善によって米国企業との競争が激化していくことが見込まれるが、競争によってキューバビジネス自体が活性化することが期待されるとし、「変化のあるところにビジネスチャンスが存在する可能性がある」と語った。

日本側の共催者である日本キューバ経済懇話会の近藤智義会長は、キューバに対する貿易債権の存在が長年同国とのビジネス拡大の足かせとなっていたが、ここ数年間はキューバ政府から安定的に返済が行われていることを紹介し、米国とキューバの関係改善により、米国政府による制裁を警戒してキューバビジネスに乗り出せない日本企業の姿勢も変わるのではないか、という見方を示した。

日本キューバ友好議員連盟会長の古屋圭司衆議院議員は、日本企業の視点からみるとまだ不十分なところはあるとしながらもキューバ政府の投資環境改善に向けた取り組みを評価し、政治家としても外務省やジェトロなどと一体となってキューバのビジネス環境整備に取り組んでいきたい、と語った。

<経済モデルの刷新を進めるキューバ政府>
来賓としてあいさつしたカブリサス閣僚評議会副議長は、2011年4月に共産党大会で採択された「革命と党の経済・社会の基本路線」に基づき、市場メカニズムを活用した経済モデルの刷新を進めていることを紹介した。農業生産以外での協同組合の活用、自営業や住宅建設の推進、農業振興のための国有遊休農地の無償貸与などの政策を導入したほか、2014年6月には新外国投資法を発効させ、外国直接投資を呼び込んで経済成長を加速させることを狙っているとした。

他方、米国との関係改善については、まず米国政府によるキューバのテロ支援国家指定の解除を要請していることを明らかにした。2014年12月の両国首脳による発表は、「2国間関係の正常化に向けた長く複雑なプロセスの始まりだ」という認識を示すとともに、「50年以上続いてきた米国による経済制裁の解除やグアンタナモ米軍基地の返還などがなければ、両国間の国交正常化はない」というキューバ政府の立場をあらためて表明した。また、国連における米国の対キューバ経済制裁解除を求める決議に日本政府が常に賛成していることに感謝の意を表すとともに、本セミナーで紹介されるキューバの投資案件に日本企業が参画することへの期待を表明した。

<経済成長の加速には外国投資が不可欠>
カブリサス副議長に続いて講演を行ったキューバ外国貿易・外国投資省のデボラ・リバス・サアベドラ外国投資局長は、キューバは国内の貯蓄水準が不十分で、総固定資本形成がGDPに占める割合は他国と比べると低いことを問題点として挙げた(注)。その上で、GDP成長のペースを持続的に引き上げることを可能にする、GDP比20%以上の資本蓄積率を達成するためには、外国直接投資を呼び込むことが不可欠だとした。

そうした観点から、キューバ政府は2013年10月19日に「外国投資政策」を採択、輸出部門や輸入代替部門に外国投資を呼び込むなど外国投資誘致の方向性を打ち出し、2014年4月16日付官報で公布した(6月27日から適用)新外国投資法(法律第118号)で具体的な投資誘致策を導入したことを紹介した(2014年6月16日記事参照)。収益税の8年間免税や労働力使用税の免除などさまざまな税制優遇措置があるほか、供与された便宜は付与された期間中、維持されることを政府が保証するという。

<マリエル特別開発区などの246件のプロジェクトを紹介>
リバス局長はさらに、同国における有望な投資機会として合計246のプロジェクトがあることを紹介した。そのうちの25件がマリエル特別開発区におけるプロジェクトで、同開発区ではキューバで進んでいるバイオテクノロジーや医薬品開発・生産のプロジェクト13件、太陽光発電所の設置・運営プロジェクト1件などがあり、それらを日本企業の参加を期待する分野として挙げた。

同開発区以外のプロジェクトとしては、農業・食品分野の32件のプロジェクトのうち、エビ養殖の生産性向上プロジェクトへの日本の技術導入可能性に触れたほか、ゴルフ場開発やホテル運営(33の既存ホテルの運営)など観光分野、バイオマス発電(10件)や風力発電プロジェクト(2件)など再生可能エネルギー分野、鉄鋼・金属製品製造やバッテリー製造、IT関連製品・サービスなど工業分野(10件)のプロジェクトなどで、日本企業の参画に期待する発言があった。

同局長によると、上記246件のプロジェクトの合計投資額は87億ドル以上で、大部分は専門機関やキューバ企業によるフィジビリティー・スタディー(FS、事業化調査)や事前調査が実施されているという。全プロジェクトをまとめた「投資機会リスト」には各プロジェクトを提案した企業・専門家の連絡先が記載されており、プロジェクトの実現性に関して投資家が提案者に問い合わせることは可能だ、と語った。

そして講演の最後に、キューバでは外資誘致を促進し、国内のビジネス環境を改善するための重要なプロセスが進行中で、定められた目標の達成を妨げる障害を取り除くという意思がキューバ政府にはあることを強調した。

(注)国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の報告書(Balance Preliminar de las Economias de America Latina y el Caribe 2014)によると、キューバの2013年の総固定資本形成のGDP比は9.4%で、中南米平均の20.4%に大きく及ばない。

(中畑貴雄)

(キューバ)

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