中東の治安情勢や企業の対策で活発な質疑−「安全対策セミナー」を開催−

(中東、アフリカ)

中東アフリカ課

2015年03月13日

ジェトロは2月26日、中東・北アフリカ(MENA)地域の最新の治安情勢やビジネスリスクを分析する「安全対策セミナー」を東京都内で開催した。この地域の最新の治安情勢や危険性、企業が取るべき安全対策について情報提供があり、活発な質疑応答が行われた。セミナーには日系企業を中心に190人が出席した。

<邦人拘束事件などを反映し会場はほぼ満員に>
「中東・北アフリカ安全対策セミナー」では、「専門家が語る中東・北アフリカ最新情勢とビジネスリスク」と題し、中東・北アフリカ(MENA)地域の最新の治安情勢やリスクについて情報提供を行った。安全対策セミナーは、2014年8月のトルコでの開催(2014年9月5日記事参照)に続く2回目。

講師はジェトロ・ドバイ事務所の服部桂治次長、中東経済論が専門の国際開発センターのエネルギー・環境室の畑中美樹研究顧問、イラク情勢が専門の日本エネルギー経済研究所中東研究センターの吉岡明子主任研究員、共同通信デジタルの小島俊郎執行役員・リスク情報事業部長の4人。

「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」による邦人拘束事件など、最近の不安定な中東情勢の影響もあり、会場はほぼ満員となる190人の参加者で埋め尽くされた。

190人が参加した会場

<自社独自のリスク対策が必須>
服部講師は「MENA地域のセキュリティ・リスクの概観」というテーマで、MENA地域における最近の治安関連の事件を紹介しながら、邦人拘束事件の影響で日本人のリスクが高まっていることから、自らの安全を能動的に確保する必要がある、と述べた。その上で、中東においては「国づくり」や「人づくり」への貢献を通じて、相手国との信頼関係を醸成し、情報収集を行うことが重要とした。

畑中講師は「中東・北アフリカ地域の政治・治安情勢とビジネスリスク」と題し、前回セミナーの8月以降大きく変化したMENA諸国の情勢を、各国別に解説した。長期にわたって紛争が継続するシリアでは、西側諸国はアサド政権の存続も視野に入れた対策を検討し始めている。リビアは政府が東西に分裂状態で、イエメンではイスラム教シーア派の一派であるフーシ派武装勢力が事実上政権を掌握している。そのほか、エルドアン政権の権力が強まるトルコ、国王が交代したサウジアラビア、西側諸国と核協議中のイランなど、各国の情勢について説明。そして、邦人拘束事件の影響で、身代金などの支払い能力がある日系大企業社員のリスクが高まったと言わざるを得ないため、十分注意するように、とコメントした。

吉岡講師は「イラクの政情・治安最新情勢と今後の見通し」と題し、イラクの最新動向について解説した。イラクでは2014年に入り、毎月ほぼ1,000人以上の民間人死者が出るなどの激しい戦闘が続いている。有志連合軍の空爆効果もありISISは総じて劣勢であるが、現時点では米軍地上戦闘部隊の投入可能性がなく、イラク軍の治安部隊の戦闘準備にも時間が必要なため、終結には時間がかかるのではないかとの見通しが示された。

最後に、小島講師が「中東・北アフリカ等の安全対策〜企業危機管理の視点から」と題して講演した。世界では、これまで安全と考えられていた先進国でもテロが起こっているが、今回の邦人拘束事件が起こる前からも日本企業にとってリスクは高かったとの認識を示し、企業としては海外でも信頼できる情報筋を確保したり、マニュアル対策だけでなく自主訓練も行うなど、他社と同じ「横並び」ではない独自の対策を講じるべきだ、とコメントした。

<紛争地以外の国の情勢にも質問>
講演後は質疑応答の時間を50分と長めに設けたが、最後まで質問が途絶えなかった。イラクだけでなく、サウジアラビア西部、アラブ首長国連邦(UAE)、オマーン、ヨルダン、モロッコなど中東・北アフリカ各国に関する質問があり、参加者は理解を深めた。

質疑応答に答える講師陣

講師からの回答として、サウジアラビアではアルカイダ系組織によるテロの危険性があるため、国境地帯やプラント設備では厳重な警備がなされていること、UAEやオマーンは相対的には安全とみられるものの警戒が必要であること、ヨルダンも大きな治安悪化はみられないが、ISISに協力的な偽装難民が流入する可能性があること、モロッコも治安や国防の観点から比較的安定しているが、ISISの戦闘などに参加していたテロリストらが200人程度戻っている可能性があること、などについて説明があった。

また、小島講師には中小企業が取り得る安全対策について質問があった。同講師は、予算が限られていても外務省や現地大使館など信頼できる情報サービスを継続的にウオッチすべきだ、と答えた。信頼できる確実な情報の入手方法については、「誰が発言したか」によって、発言の信頼性を見分ける感度を高めるべきだ、とアドバイスした。

(米倉大輔)

(中東・アフリカ)

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