関税分類や原産地証明書の記載で見解相違−日系企業のFTA活用実態と運用上の課題(2)−

(ASEAN、タイ)

バンコク事務所

2015年03月17日

タイでは、締結・発効済みの自由貿易協定〔FTA、経済連携協定(EPA)などを含む〕を通じ、主要貿易相手国との間での関税削減が着実に進展しており、現地日系企業のFTA利用率は5割を超える。他方、多国間・2国間の双方で手続きの異なる複数の協定が混在しており、運用をめぐる手続き上の問題や、制度やルールの解釈の相違が日常的に発生している。特にタイ税関は、協定本文や運用上の証明手続きの記載事項を極めて厳格に解釈する傾向にある。在タイ日系企業によるFTA活用の実態と運用上の課題について、2回に分けて報告する。

<日本とは多国間と2国間の枠組み>
2015年1月現在でタイは、日本、オーストラリア、ニュージーランド、ペルー(いずれも発効済み)、インド〔枠組み協定に基づくアーリーハーベスト(早期収穫)措置のみ発効〕、チリ(締結済み・未発効)との間で6件の2国間FTAを締結している。また多国間の枠組みでも、ASEAN加盟国間のASEAN物品貿易協定(ATIGA)に加え、ASEAN中国FTA(ACFTA)、ASEANインドFTA(AIFTA)、ASEAN韓国FTA(AKFTA)、日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)、ASEANオーストラリア・ニュージーランドFTA(AANZFTA)と6件のFTAが発効している。

これらのFTAにより、タイでは他のASEAN加盟国や中国、韓国との間で、一部の例外品を除く品目の関税撤廃が既に実現しているほか、インドとの間では2013年に総品目数の7割超で双方の関税が撤廃している。また、日本との間でも多国間(AJCEP)と、2国間の日タイ経済連携協定(JTEPA)の両方の枠組みに従い、前者については2008年12月1日の発効から10年以内、後者は2007年11月1日の発効から10年以内にノーマルトラック(通常の品目)の関税を撤廃するため、順次、関税の引き下げを行っている。

ジェトロの調査によると、在タイ進出日系企業によるFTAの活用率(2014年10〜11月時点)は53.7%(注1)に達し、ASEANではインドネシア(58.2%)に次いで高い。主要相手国・地域別のFTAの活用企業数をみると、輸出においてはASEAN域内向け(101社)と日本向け(84社)、輸入においては日本(128社)、ASEAN域内(66社)、中国(61社)からで活用が進んでいる(表参照)。

在タイ日系企業による輸出入相手国別FTA活用状況

<関税分類の解釈でFTA税率を認めず>
当地日系企業からジェトロ・バンコク事務所に寄せられるFTA関連相談のうち、運用をめぐる問題として最も多いのが、輸入時のタイ税関による関税分類の解釈に起因する問題だ。すなわち、輸出国で取得した特定原産地証明書に記載されたHSコードが、輸入国であるタイにおいては分類が異なると判断され、FTA税率の適用が認められないという事態が発生している。関税分類の相違は、(1)輸入通関時に指摘される場合、(2)事後調査において指摘される場合がある。とりわけ(2)については、タイ税関の解釈と異なる関税分類で当該製品を輸入していた期間を対象に、過去に遡及(そきゅう)して罰金を支払うよう命じられる事例がある。罰金は最高で貨物価格に輸入税を加えた金額の4倍に上り、その負担が輸入者側に生じることになる。

なお、タイ税関における関税分類の解釈に起因する問題が数多く発生する背景には、これまでタイにおける関税分類・関税評価の事前教示制度が有効に機能しておらず、ほとんど使われていなかったことがある。同制度では、税関による書面での回答期限が30日以内に設定されているものの、「申請書類の受理から回答までに多くの場合、半年から1年を要する」(日系物流会社)のが実態だった。また回答結果に法的拘束力がなく、過去に取得した事前教示結果が担当者の交代などによって無効になるケースも指摘されていた。

こうした事態に対応し、タイ税関は2015年3月4日付で、改正関税法を施行し、(1)関税分類、(2)関税評価、(3)原産地規則に係る新しい事前教示制度が開始された。法改正により、上記(1)〜(3)の3項目において(書面による)事前教示の回答内容が、税関に対して拘束力を有する仕組みとなったことが見込まれている。新制度と適切な運用により、法解釈の一貫性が確保されるとともに、予見性と透明性の向上にもつながることが期待されている。

<原産地証明書の記載事項をめぐっても問題>
関税分類の解釈の相違のほか、原産地証明書の記入方法などをめぐっても、タイ税関が独自の解釈で輸出国側の記載事項を認めず、輸入時にFTA税率が適用できない事例が生じている。

例えば、ATIGAの特定原産地証明書(フォームD)では、第13欄にチェックボックスがあり、当該原産地証明書の属性として、遡及発給されたものか、第三国インボイスを活用したものか、バックトゥバック(連続する)原産地証明書であるかなどを選択する形式となっている(注2)。タイ税関は、このチェックボックスが輸出国において手書きでチェックされたフォームに関して、FTA税率の適用を認めていない。過去にジェトロに寄せられた相談では、ベトナムおよびカンボジアからタイ向けの輸出貨物について、13欄が手書きチェックであることを理由に、タイ税関でFTA税率の適用が認められなかったケースがある。ジェトロ・バンコク事務所がタイ税関に確認(2014年7月)したところ、「他の項目はデータが印字されている一方、13欄のみ手書きというフォームは、虚偽申告の恐れがあるため、他の欄と同様に印字(もしくは電子的に入力)されたフォームが必要。それができない場合は、13欄に担当官のサインと印鑑を記載すれば認める」との見解が示されている。

この問題が生じて以降、(当該相談者の)ベトナムからの輸出貨物については、輸出時に13欄を印字にすることで、問題は解消されている。

ただし、カンボジアで発給される原産地証明書については、発給当局である商業省の担当官が発給申請受理後、13欄に手書きでチェックする方式が取られている。上述のタイ税関の主張に対し、カンボジア商業省は、(1)フォームDの裏面の注意書きに電子的なデータ入力が必要とは記載されていない、(2)輸入国で適用を認めない場合にはその理由が書面で示される必要がある、(3)解決しない場合はASEANの税関協議で是正を求める手続きを経る必要がある、と反論。タイ税関との見解の相違から、事態は解決に至っていない。

(注1)在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査より。活用率は、少なくとも1つのFTAを活用している企業数を、輸出または輸入のどちらかをしている企業数で割って算出。
(注2)原産地証明書フォームや記入方法については、ジェトロ・ウェブサイトに詳細な解説がある。

(伊藤博敏)

(タイ・ASEAN)

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