高度な技術の集積により持続的成長を目指す−副首相らがセミナーで投資を呼び掛け−

(タイ)

アジア大洋州課

2015年03月03日

2月18日に東京都内で開催されたタイ投資セミナーで、プリディヤトーン・デーワクン副首相は「中所得国のわな」を回避するため、日本からの高付加価値分野への投資に強い期待を表明した。また、タイ投資委員会(BOI)のヒランヤ・スチナイ長官代理は新投資奨励政策で奨励事業に使用できる中古機械の使用年数が5年以内に制限されている問題に関して、一部において緩和される可能性を示唆した。新投資奨励政策の内容については、タイの競争力を引き上げる産業の集積を目指す戦略を説明した。

<新憲法は7月ごろ制定の予定>
BOIと在日タイ大使館、日本アセアンセンターおよびジェトロは2月18日、プリディヤトーン副首相の来日に合わせ、タイ投資セミナー「新投資奨励戦略:持続的成長を目指して」を東京都内で開催した。

冒頭にタナティップ・ウパティシン駐日タイ大使は、日本とタイの長きにわたる友好関係について言及した上で、「新憲法は7月ごろ制定する予定で、国家の改革に沿った環境をつくるために、(政治的な)混乱を防止する内容を盛り込む予定だ」と述べた。また、プラユット首相の訪日(2月8〜10日、2015年2月13日記事参照)に関して、「今回のタイ投資セミナーは、日タイ首脳会談の内容を促進するイニシアチブの第1弾だ」とした。続いて、ジェトロの石毛博行理事長があいさつで、新投資奨励政策で奨励事業に使用できる中古機械の使用年数が5年以内に制限されている問題(2014年12月10日記事参照)について、「プラユット首相、プリディヤトーン副首相にそれぞれ改善を要望したところ、柔軟な対応を取りたいとの意向だった」ことが紹介された。また、タイへの進出を検討する日系企業に対し、ジェトロ・バンコク事務所が提供するワンストップサービスセンターである「中小企業ビジネス・サポートセンター」の活用などを呼び掛けた。

<高付加価値分野の投資誘致で「中所得国のわな」を回避>
プリディヤトーン副首相は基調講演で、「マイナス成長に陥っていたタイ経済が2015年には本格的な回復に向かうことが見込まれているが、以前の水準に戻すだけでなく、革新的(イノベーティブ)な政策を実施することで産業構造を高度化させたい」とし、高度な技術の集積を図ることにより「中所得国のわな」を回避した上で、長期的な国益を追求する新投資奨励政策への理解を求めた。また、同奨励政策の下では、バイオプラスチック、エコカー、ハイブリッドカー、太陽光などの再生可能エネルギー、医療機械など、高付加価値分野や持続可能な開発に資する分野における投資を期待する、と述べた。

<AEC発足を見据え経済回廊を活用>
続いて、チャクラモン・パースックワニット工業相は「タイの工業セクター:好機と挑戦」をテーマに講演を行った。概要は以下のとおり。

ASEAN経済共同体(AEC)が2015年内に発足するが、単一市場、モノ、熟練労働者、資本の自由な移動が確保されることにより、重要な転換点となる。タイはASEAN加盟国の中でも地理的優位性を有し、AECにおいて重要な立地にある。経済回廊を通じ、域内での経済的リンケージの強化を目指しており、道路、鉄道、情報通信を含む総合的な開発計画を策定している。

産業開発計画については、「政府認証手続き円滑化法」が2015年1月、国会により承認された。同法に基づき、タイ国内の全ての政府機関は決められた期限内に承認手続きを行うことが定められた。同法により、タイでのビジネスがさらに円滑化され、行政手続きの透明性が確保される。

また、日本とタイの関係については、日系企業の「タイプラスワン」の動きとタイの政策は結び付く。カンボジア、マレーシア、ミャンマーなどとの国境沿いに経済特区(SEZ)を開発することで、「製造ハブ」としてのタイを目指す。加えて、工業省は日本の複数の県と覚書(MOU)を交わしており、ビジネスマッチングの実施や農業・食品産業分野のパートナー探しなどを行っている。

<奨励政策は基本恩典と追加恩典の付与>
ヒランヤBOI長官代理は「7ヵ年投資奨励戦略(2015〜2021年)−奨励基準および対象業種」をテーマに講演を行った。概要は以下のとおり。

新投資奨励政策(注1)においては、これまでのゾーン制を廃止し、基本恩典(アクティビティベース恩典)と追加恩典(メリットベース恩典)により構成される奨励政策を導入した。基本恩典とは、重要度に応じて区分されたA1、A2、A3、A4、B1、B2の6つの分類に事業が該当すれば、恩典を付与するものだ。このうち、A1からA4に該当する業種は、分類に応じ一定期間、法人税が免除される。

いま最も誘致したい業種はA1とA2だ。A1はいわゆる「ナレッジベースの産業」で、事業実施に当たり高度な技術の活用などが求められることから、タイの競争力を引き上げるものだと考えている。A1については8年間の法人税免除を付与している。A2についても8年間の法人税免税恩典を付与しているが、土地と運転資金を除く投資額を免税限度額としている。限度額を満たした時点で法人税免税は打ち切りになるため注意してほしい。A3には5年間、A4には3年間の法人税免除を付与している。B1、B2については、タイにおいて既に競争力のある産業として確立しているため、法人税の免除を付与しない。しかし、法人税の免除はないものの、税制以外の恩典、すなわち外資マジョリティーの許可や査証、就労許可などに関する恩典は従前どおり付与している。

さらに、基本恩典を受けた事業のうち、付加価値の高いものについては追加恩典を付与する。追加恩典は、(1)競争力向上のためのメリット、(2)地方分散のためのメリット、(3)工業用地開発のためのメリット、の3つに大別される。このうち、(1)については投資または支出の内容および金額に応じて「免税上限額」が引き上げられるほか、一定の条件下で1〜3年間の「追加法人所得税免除期間」が与えられる。

<中古機械の年数制限問題は一部緩和を検討中>
奨励事業に使用できる中古機械が5年以内に制限されている問題について、省エネ・環境問題への配慮から機械の使用年数を制限しているが、年数が5年以下と短いことから、日本企業が懸念していると聞いている。しかし、現在見直しを図っているところであり、一部において緩和を検討している。現在、各方面から意見を聞いている段階で、1〜2ヵ月程度で結論が出るだろう。日系企業の意見に耳を傾け、サポートしている。

質疑応答(注2)の概要については以下のとおり。

問:基本恩典を受けずに、追加恩典を受けることができるか。

答:基本恩典の承認を得た上で追加恩典を受けることができるようになるため、追加恩典のみを受けることはできない。既に基本恩典を受けている案件について、追加恩典を後から申請することは可能だ。

問:既に奨励を受けている事業に追加投資を行うことはできるか。

答:申請書の訂正申請を行うことで、30%までの生産能力増強は可能。旧制度で恩典を受けている事業で生産能力増強が30%を超える追加投資を行う場合、新事業としてあらためて新制度で申請する必要がある。

問:旧制度で奨励を受けている企業が合併した場合、適用されるのは旧制度または新制度のどちらになるのか。

答:旧制度の奨励を継続することも可能だが、BOIに許可申請をする必要がある。

(注1)新投資奨励政策の内容については、2014年12月10日記事参照
(注2)質疑応答の詳細については、後日まとめてBOIのウェブサイトに掲載されるとのこと。

(板東辰倫)

(タイ)

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