和のデザインの雨どいで和風好きにアピール−ASEAN市場に挑む中小企業(2)−

(ASEAN、日本)

アジア大洋州課

2015年03月25日

自社の金属加工技術を生かし、デザイン性の高い雨どい「鎖樋(くさりど)」を製造する瀬尾製作所(本社:富山県高岡市)。2014年の「ジェトロ・アセアン・キャラバン事業」に初めて参加した。各国の和風好きで将来、購入が見込まれる層を対象として、本来の雨どいとしてだけでなく、インテリアにもなり得る同商品をASEAN市場や先進国に売り込もうと海外展開を考えている。その取り組みについて、専務取締役の瀬尾良輔氏に聞いた(1月13日)。

<ネット販売から直販による拡大も目指す>
問:ASEAN進出の経緯と市場開拓の現状は。

答:初めての海外見本市(2014年9月のシンガポールの建材展)に出展した目的は、当社が海外未展開のために海外販売における問題点・体制を検証することにあった。シンガポールに関しては、ビルが多く、変わった建築物もみられ、もしかしたら需要があるかもしれないと考えた。将来的にはASEANへの展開も考えている。

日本独自の「鎖樋」は主に寺社仏閣で使われている雨どいの一種で、海外では日本好きで和風デザインを好む方にネット販売している。しかしこれだと、販売先の間口が狭かった。実際に来場者に出会って反応を確認したかった。ネット販売では、米国、カナダ、中国、台湾のほか、ベルギーなど欧州の主に先進国からの注文に対応しており、これを海外への直販により拡大したい。

米国からは、金融関係企業が入るビルの最上階にある来賓室の室外装飾用に20本欲しい、という注文もあった。また、カリフォルニア州のミッドセンチュリー系(注)住宅の改築用にという注文もあり、和の雰囲気や変わったデザインを好む建築士や個人などが顧客となっている。

米国での施工事例

<展示では実際に水を流して製品を紹介>
問:ASEANバイヤーの日本製品への評価・反応は。ASEANバイヤーが求めてくる製品の特徴は。

答:あまり見たことがない模様やデザインを面白いと評価する人が多かったが、現時点で具体的な商機にまでつながっていない。

発展著しく、日本よりも多様な形のビルがシンガポール中心部には林立しているが、最先端のデザインを追い求めているような建築が多く、また雨どいには法的な制約があるようで、外装用としての利用は難しいと感じた。実際に展示会でバイヤーと商談したところ、内装用に商機を感じた。シンガポールの展示会ではバイヤーが世界各国から集まることから、先進国も含めてターゲットになると考え、バイヤーとしては建築士や設計士を想定していた。

問:ASEANバイヤーへの売り込みで工夫した点は。

答:これまでの海外販売はネット販売がメーンなので、出展前に会社のウェブサイトを整備し、現地では現物を見せつつ、さらに関心を持った人にはウェブサイトを見るように誘導した。

建築プロジェクトは準備期間が長いため、それに関わる建築士や設計士などに、まず知識として当社製品を記憶・認識してもらい、そのうちに使ってもらうという長期的な視点に立っている。そのため、すぐに購入されなくても、現物を見てもらうと将来、購入してもらえる可能性は高まると考えており、その点で出展は意義があった。

製品の展示では、ポンプを使って水を循環させて鎖樋に水を流し続け、実際の使用状況を再現して、来場者に実感してもらった。来場者から、ASEANは熱帯でスコールが多いため、これでは対応できないとの指摘もあって参考になった。なお、シンガポールの家屋は雨どいを使わない文化に基づいて作られている。そして、住宅ではデング熱を媒介する蚊の発生を防ぐために水たまりをつくらないことが規制で定められており、この点はネックになると考えている。一方でビルは状況が異なり、内装で使う場合は問題にならないと考える。

実際に水を流して製品を紹介

<各国の好みに合わせた対応が必要に>
問:ASEAN市場開拓で直面した課題と対応策は。

答:日本の商習慣と違って、展示会後の商談の時点で既に先方は購入した気分になっている。商談にスピードや勢いがあると感じた。

現在は英語版ウェブサイトで受発注しており、メールでのやり取りに問題はないが、電話での英語による商談となると難しさがある。

当社製品はデザインで選好されている。雨どいとしてではなく、内装で使いたいとの声も聞かれ、富裕層の住宅内やオフィスビルの装飾に使われる可能性があると考える。また、中国系の人が風水を重んじていて、水=富との考え方があることから、水を流す室内装飾としての使われ方もあると思う。

製品はその国の人々の嗜好(しこう)に合わせて作るため、例えば中国だと華やかさが欲しいといった要望があるが、シンガポールでもそのような固有の情報を得たかった。モダンなデザイン製品(製品名:Toh)の受けが良かったことを確認できたが、日本で人気がある製品名Hamonは簡素過ぎたようだ。音を出すのかと聞いてきた人がいたが、騒音を気にしたのか、風水的な音を期待したのかは分からない。

価格は現地では日本の1.5〜2倍のイメージで、高価であるために上流階級の富裕層しか使わないと言われたこともあった。シンガポールでは中流層は集合住宅に、富裕層は戸建てに住んでおり、使う建材にもカネを惜しまないだろうと考えていたが、価格的には結構しっかりした考えを持っているようだった。

大量生産して大量販売できる製品ではないが、直販だけでは限界があって販路の拡大ができないので、現地の取り次ぎ・販売代理店を通しての海外販売体制の構築が必要と考える。

問:ASEAN市場開拓における今後の展望と事業展開は。

答:前回展示会の来場者のリピート率を踏まえて、現在は検討中で、可能ならば次回も出展したいと考えている。またASEANではなく、欧米の先進国に商機があるのではないかとも考えており、今後は進出する国をしっかり検討していきたい。

(注)1950年代を中心に、1940〜1960年代に主に米国の近代主義から生まれた新しいデザイン潮流。

(石塚賢司)

(ASEAN・日本)

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