域内生産・供給体制が変化、工場設備に安全証明が必要な場合も−ユーラシア経済連合セミナー(2)−

(アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、ロシア)

欧州ロシアCIS課

2015年02月26日

ユーラシア経済連合(EEU)セミナーの後編。2015年のロシア経済はマイナス成長が避けられず、ほかの加盟国もその影響を受ける。域内経済統合に伴い、生産体制に変化がみられる。規格認証分野では、工場向け設備はさまざまな安全証明を求められることが指摘された。

<ロシアは国内の資金繰りを重視>
ジェトロ海外調査部の浅元薫哉・欧州ロシアCIS課課長代理は「ロシアを中心とした経済概況と統合下でのビジネス環境の変化」について、次のように講演した。

ロシア中央銀行が2014年12月に発表したロシア経済見通しによると、原油価格が1バレル60ドルの場合、2015年の経済成長率はマイナス4.5〜マイナス4.7%としている。ほかの国際機関でも同様の見通しで、2015年はマイナス成長が避けられない。

一部報道では1998年のロシア債務危機を引き合いに出して、ロシア経済の先行きを不安視する見方もある。2014年末時点の外貨準備高は3,855億ドル。対外債務総額は同年9月末時点で6,794億ドルだが、支払期限が2年以内のものは2,243億ドルなので、まだ備えがあり、直ちに危機的状況に陥ることはないだろう。

ロシア政府は1月28日、危機対策計画を発表した。計画には、金融機関の資本増強や企業に対する公的信用保証の拡充が盛り込まれており、国内の資金繰りを重視したものとなっている。他方、国防、農業、社会保障分野以外の連邦予算を10%程度削減するとしており、今後の連邦予算の改定には留意が必要だ。

ロシア以外のEEU加盟国についても、ロシア経済低迷の影響を受け、2015年は前年よりやや落ち込む見通しだ。ロシアの需要減やルーブル安のため、各国のロシア向け輸出や、ロシアでの出稼ぎ収入に悪影響が出るだろう。

<ロシア向けにベラルーシやカザフスタンで生産>
EEUの前身となる、2010年にロシア、ベラルーシ、カザフスタンによって創設された関税同盟以降のビジネス環境においては、域内での供給体制の変化が起こっている。ロシア向けに、ゼネラルモーターズ(GM)が2014年にベラルーシでオペルブランド「コルサ」の委託生産を開始した。ロシア向けであれば関税がかからない。

カザフスタンからロシアに自動車を供給する動きも出ている。カザフスタンの自動車販売大手が国内でライセンス生産した車を、近隣のロシア・シベリア地域で販売する計画だ。このように国境に近い地域間での産業協力も今後発展していくだろう。

関税共通化の影響も出ている。カザフスタンでは関税共通化で関税率が高くなった。経済成長や国内市場の拡大とも相まって、自動車の現地生産が拡大した。2010年から2013年の生産台数は約4万台と、2010年の10倍になった。

<関税同盟技術規則をEEUに適用>
次いで、製品認証サービスを提供するユーレックスの技術営業・部長職の有賀恵二氏が「ユーラシア経済連合の規格認証制度の概要」について、以下のとおり講演した。

EEU加盟国において国家標準規格(GOST)と呼ばれる技術基準は一部を除き廃止され、ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア(注)4ヵ国有効の「関税同盟技術規則(TR−CU)」基準に統合され、EEUに引き継がれた。機械分野でのTR−CU証明は、現地での一般販売用と、工場設備向け単発出荷用の2種類に分かれる。

日本の製品を輸出して販売するための証明は「一般型式証明」と呼ばれる。日本メーカーは通常、5年間有効の証明を取得する。

一般型式証明には、EEU側が来日して工場審査に基づいて発行する「適合証明書」と、(工場審査なしの)申告に基づいて発行される「適合宣言書」の2種類がある。効力に差異はない。どちらの種類の証明を求められるかは、製品によって決まる。また、いずれの申請の場合も、製品のHSコードとカタログ(外観、主な仕様を含む)が必要。製造業者のISO9000はあった方がよい。

工場で使用する生産設備は、販売目的でない1回だけの出荷だ。証明は通称「シップメント証明」と呼ばれる。この証明で出荷、通関、搬送、設置ができる。シップメント証明を取得するには、製造業者またはEEU域内の現地法人が、現地の認証機関に申請する。申請には現地企業との売買契約書のコピーが必要だ。契約書に明示されている期間内は有効で、スペアパーツもこの証明書で輸出可能だ。

<設備は設置場所により安全証明が必要>
一般販売、工場向けにかかわらず、爆発の危険性がある場所で用いられる電気製品、圧力を受ける製品(パイプ、バルブなど)、測定精度、難燃性が求められる製品、化学物質で汚染の可能性があるものには、それぞれの安全証明が必要だ。

取得依頼が増えているのが、電気防爆と内圧防爆の証明書。電気防爆は、EUの防爆規制ATEXもしくは国際規格IECEx証明があれば、関税同盟基準の証明書に書き換えが可能だ。日本の防爆規格TIISが同様に受け入れられた例は知らない。内圧防爆は、工場内の配管、バルブ、圧力容器の設置時に要求される証明で、設置機械の中に気体や液体を通す場合にも要求される。

火災安全証明は共通化されておらず、各国で証明書を取得する必要がある。サンプル提出もしくはEEU側が来日して行う試験が求められる。対象機材は防火ドア、屋内配線用ケーブルなど公衆安全に関係するので検査は厳しい。

計測機器の型式認証は測定精度を証明する。設備に組み込む計測機器は、できるだけ認証済みの機器を用いるべき。認証取得には製品仕様明細、社内試験報告書などのほか、通例モスクワで試験を行うので、サンプルが必要。設備が大きな場合は日本で、または設備設置後に試験を受けることも可能だ。

現地工場に設備を輸出するにはシップメント証明が必要だが、工場の稼働にはさまざまな安全証明が求められる。証明を遅滞なく取得するためには、機器を輸出してからではなく、日本国内で出荷品をリストアップし、工場の設備配置図をにらみながら、どの証明が必要かを事前に精査する必要がある。

(注)アルメニアのEEU加盟条約によると、同国での適用は基本的に加盟1年後から始まる。ただし、品目によって2〜5年後に適用されるものもある。

(浅元薫哉、今津恵保)

(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニア)

日本企業とのビジネス拡大に強い関心−ユーラシア経済連合セミナー(1)−

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