改正投資法・企業法が7月から施行へ−施行細則の内容や運用面に注視必要−

(ベトナム)

ホーチミン事務所・ハノイ事務所

2015年02月26日

投資法と企業法が約10年ぶりに全面改正された。いずれも2015年7月1日から施行される予定で、投資規制分野や企業設立手続きの変更など、日系企業にとって実務面への影響も大きい。なお、これらの法律は基本法であるため、今後策定される政令・通達など施行細則の内容や運用面を注視していく必要がある。

<透明な投資環境の整備が狙い>
改正投資法(No.67/2014/QH13)および改正企業法(No.68/2014/QH13)は7月1日付で施行され、2005年に施行された共通投資法(No.59/2005/QH11)および統一企業法(No.60/2005/QH11)に代わるものとなる。政府は今回の改正の趣旨について、透明な投資環境を整備し、外国からの投資先としての魅力を高めること、と説明している。両法の主な改正点は以下のとおり。

<投資の禁止・条件付き分野を削減>
○改正投資法
(1)投資申請手続き(第36条1項、第37条ほか)
外国投資家が投資プロジェクトを実施する場合、これまでは投資証明書(IC:Investment Certificate)のみを取得すればよかったが、改正法では投資登録証明書 (IRC:Investment Registration Certificate)と企業登記証明書(ERC:Enterprise Registration Certificate)の取得が必要となった。

IRCは、国会や首相、省級人民委員会の事前承認が必要な投資プロジェクトの場合は当該決定文書の発行から5営業日以内、それ以外は申請受理から15営業日以内に発行するとされている。また、IRCの取得後にERCを取得する必要がある(ERCの詳細は後述)。

これまで1段階だった申請手続きが2段階となることで、企業側の負担が増加することが懸念されるが、施行細則における規定や運用面などを注視していく必要がある。

(2)改正に伴う投資保護(第13条)
改正に伴い優遇措置が変更になった場合、例えば改正法が投資家により有利な優遇措置を規定している場合は改正法が、現行法の方が有利な場合は現行法が、それぞれ適用されることとなり、少なくとも現在受けている優遇措置はそのまま受けられる。

ただし、国防、安全、環境などの理由で改正法において優遇措置が剥奪される場合は、改正法施行日から3年以内に書面で請求した場合に限り、救済措置が受けられる。

(3)投資禁止分野・条件付き投資分野の見直し(第6条、第7条)
改正法では、投資禁止分野が51から6に、条件付き投資分野が386から267に、それぞれ削減された。条件付き投資分野には、金融、会計、小売り・流通、不動産・建設、農業、教育など、日本企業の関心が高い分野が含まれている。また、会社設立手続きについてはこれまで、各市省の人民委員会投資計画局からハノイの関連省庁へ認可審査に回され相当な時間を要していたが、改正に伴いこの手続きの審査時間の短縮、あるいは審査基準に変更があるかどうかは、今後の運用を注視する必要がある。

なお飲食、ブライダル、フィットネス、写真撮影、理美容などのサービス分野で、従来は条件付き分野以外であるにもかかわらず、同様にハノイの担当省庁に認可審査が回されていたものが、改正でどう扱われるかについても注意が必要だ。

(4)外国資本を伴う経済組織の再定義(第23条)
現行法では、外国資本を伴うベトナム企業(ベトナム子会社)が、さらにベトナムで企業を新規設立し(ベトナム孫会社)、ほかのベトナム会社の増資を引き受け、その株式・持ち分を購入したりした場合、そのベトナム子会社が外資としての手続きをするべきか、内資として手続きをすればよいかが必ずしも明確ではなく、現場で混乱を招いていた。改正法においては、(1)ベトナム子会社の定款資本の51%以上が外国投資家によって保有される場合、(2)ほかの企業(孫会社)の定款資本の51%以上が(1)のベトナム子会社によって保有される場合、(3)孫会社の定款資本の51%以上が、外国投資家と(1)のベトナム子会社によって保有される場合には、外国投資家に対する規制が適用されることになった(第23条1項)。一方、第23条1項の各場合に該当しない外国資本を伴う企業がベトナムで新たに企業を設立し、その企業の増資を引き受けたり、その株式を購入したりした場合には、国内投資家と同じ規制が適用されることになった。

(5)外国法の適用(第4条)
少なくとも一方の当事者が外国投資家か、外国投資家が直接・間接的に51%以上の出資比率を保有するベトナム企業(第23条1項)の場合には、ベトナムの法令に反しない限り、合意により外国法を適用できることとなった。これに伴い、外国投資家同士の紛争に限らず、外資が直接・間接的に多数を保有するベトナム子会社同士の契約などにおいても、外国法を準拠法として選択できるようになった。

(6)外国投資家によるM&A手続きの簡素化(第26条1項、第36条2項)
現行法では、非公開会社への出資については明確な定義がなく、一部地方においては1%の出資であっても投資証明書(IC)の取得が必要とされるケースがあった。これが改正法では、外国投資家によるM&Aであっても原則投資登録証明書(IRC)の取得が不要となった。

ただし、条件付き投資分野における買収や買収後の外国投資家、または第23条1項の外資企業の株式保有比率が51%以上の場合については、別途IRCの取得が義務付けられることとなる。

<株主総会の決議要件が変更に>
○改正企業法
(1)企業登記手続き(第27条)
現行法の事業登録証明書(BRC:Business Registration Certificate) に代わり、改正法では企業設立の際に企業登記証明書(ERC)の取得が必要とされ、申請受理から3営業日以内に発行されることとなった。また、ERCへの事業範囲の記載は不要となり、定款のみに定められることになったが、事業範囲を変更した場合には当局への通知義務が発生する。

(2)株主・社員総会における決議要件(第60条、第144条)
現行法では、株式会社における株主総会および出資者が複数の2人以上有限会社における社員総会での決議要件は、普通決議が出席株主の議決権総数、または出席社員の総資本65%以上、特別決議が75%以上となっている。

これが改正法では、株式会社に関しては、普通決議が51%以上、特別決議が65%以上に変更された。一方、2人以上有限会社の場合、法定比率は変わっていないものの、定款で別途比率を定めることも可能となった。ただし、法定比率より低い割合での決議要件を定めた定款が当局に登録を認められるかについては、今後の行政解釈や運用を注視する必要がある。

(3)出資義務の履行期限(第48条)
現行法では、有限会社の場合、定款およびICの記載に従い、3年以内に数回に分けて資本金の払い込みを実施できたが、今回の改正により株式会社、有限会社を問わず、ERCの発行から90日以内に全額の払い込みが必要となった。この点については、現状では手続きが煩雑とされている増資手続きの運用状況を注視していくことが必要だ。

<改正法には日系企業の要望も反映>
今回の改正に際しては、草案策定の段階からベトナム日本商工会(JBAV)が当地法律専門家や日本大使館、ジェトロなどと協力して、策定に携わるベトナム政府関係機関に対する意見書を2014年10月に提出していた。同意見書には、企業側の関心が高い投資保護や外国法適用、企業設立手続きなどに関する要望7項目が盛り込まれていたが、改正法にはその多くが反映されるかたちとなった。

なお、両法の仮和訳については、国際協力機構(JICA)法・司法制度改革支援プロジェクトが行ったものがウェブサイト上に掲載されている。

(栗原善孝、竹内直生)

(ベトナム)

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