経済特区内の優遇措置と安価な電力料金に優位性−隣国カンボジアと投資環境を比較−

(ラオス)

ビエンチャン事務所・海外投資課

2015年01月26日

ASEAN諸国の中でも高い経済成長を続け、「タイプラスワン」の有力な製造拠点として注目を浴びるようになってきたラオス。その投資環境を、同じくタイプラスワンとして比べられることの多い隣国カンボジアと比較しながら検証する。

<ASEAN内で1、2位の人口増加率>
ラオス、カンボジアともにタイ、ベトナムというメコン地域の大国に挟まれ、人口はラオスが678万人、カンボジアが1,541万人と、タイ、ベトナムと比べると規模は小さい(表1参照)。しかし、人口増加率はそれぞれASEANの中では1位、2位で、また15歳未満の人口割合もASEAN域内では高く、今後も人口は増えていくとみられる。

両国の1人当たりGDPは、家電やバイクなどの耐久消費財の消費が増え始める基準となる1,000ドルをここ数年で超えたことから、今後は販売先としての両国市場参入を目的とした企業進出も増加することが予想される。

表1ラオスとカンボジアの概況

<周辺諸国と比較して安価な電気料金>
ラオスでは、メコン川とその支流を利用した水力発電への投資が2000年代後半から行われるようになり、2014年11月時点でその総発電量は3,244メガワット(MW)に達している。現時点において発電量の約8割はタイへ輸出されており、ラオスは「メコンのバッテリー」としての役割を担っている。

ラオスの電気料金は工業用電力で1キロワット時(kWh)当たり0.078ドル、一般家庭用電気で0.05〜0.08ドルとなっている(表2参照)。カンボジアの場合は各都市〔プノンペン、ポイペト(タイ国境沿いの都市)、バベット(ベトナム国境沿いの都市)、シアヌークビル(カンボジア南部の港湾都市〕の工業団地の電力料金がそれぞれ0.21、0.15、0.15、0.21ドルであることと比べても、ラオスの電力料金は安価だといえる。また今後も発電所の建設が進められる予定で、2016年までに総発電量は6,417MWにもなるといわれており、引き続き安価な電力を供給していくことになりそうだ。

表2ラオスとカンボジアの工業用電力料金

<投資優遇措置を除けば税制に大きな違いなし>
進出を検討するに当たっては税制を比較・検討することが重要だが、ラオスとカンボジアの税制と比較すると、投資優遇措置を除けばそれほど大きな違いはないといえる(表3参照)。

表3ラオスとカンボジアの主要税制

しかし、経済特区(SEZ)内に入居する企業、特に輸出加工型企業(工場)においては、ラオスの投資優遇措置の手厚さが際立つ(表4参照)。

表4ラオスとカンボジアの経済特区内での優遇措置

法人所得税の免税期間はラオスの方が短いようだが、カンボジアの場合は売り上げ計上後から免税期間が開始となるのに対し、ラオスの場合は利益計上後から免税期間が開始される。工場進出の場合は、親会社などへの部品・部材の納入により生産開始から売り上げを計上するため、カンボジアでは生産開始とともに法人所得税の免税が開始されるが、ラオスの場合は、利益計上があってはじめて法人所得税の減税が開始されるため、生産開始が即免税期間の開始ということはほとんどないといえる。

新興国での工場進出の場合、進出可能性調査において3〜5年で黒字化できるプランを作成するのが通常だといわれている。ラオスの場合をみると、仮に進出後3年で黒字化が達成でき、しかもラオスでの免税期間が3年以上となる場合には、カンボジアの法人所得税の免税期間(6年間の場合)より長期間にわたって免税の恩恵を受けられることもあり得る。また免税期間終了後のラオスの法人所得税率は8%もしくは10%で固定されるため、カンボジアの20%よりも低率となる。

またラオスの場合、法人所得税の免税のほかにも個人所得税の優遇措置があり、外国人駐在員を含めて経済特区立地企業の従業員の個人所得税は一律5%となる。他方カンボジアの場合、経済特区の内外にかかわらず、外国人駐在員は累進課税で20%の個人所得税を通常は納税しなければならないため、この点でもラオスに優位性があるといえる。

税制以外にもラオスの優位性として、政治の安定や言語の親和性(タイ語とラオス語の類似性)などが挙げられ、タイプラスワンとして魅力的な候補地の1つだといえる。

<高い物流コストと人材確保に課題>
一方、ラオスの課題としては内陸国であるが故の、高い物流コストがある。ジェトロの「第24回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2014年5月)」によると、ラオス(ビエンチャン)から日本(横浜港)へのコンテナ輸送(40フィートコンテナ)料金は2,680ドルとなっており、カンボジア(プノンペン)の1,100ドルと比較すると2.4倍となる(図参照)。特に対日輸出を想定した事業者にとっては、高額の物流費がネックになりそうだ。

日本までの輸送コスト比較

また労働力についても、ラオス進出企業の多くは200〜500人規模で周辺住民を雇用しており、数千人単位の工場については、地方からの出稼ぎを含めた従業員の確保が必要になる。

以上のように、ラオスの場合は、(1)大規模な労働集約型ではなく、電力を使用する装置産業的な製造業、(2)手先が器用なラオス人の利点を生かした、手作業による付加価値の創出ができるもの、(3)コストに占める物流費の割合を軽減するような軽量・小型なものを製造する業種、(4)対日輸出向けがメーンではなく、タイの主力工場の労働集約的な工程を一部移管するような場合に、カンボジアと比較した際の優位性が特に出てくると考えられる。

(柴田哲男、道法清隆)

(ラオス)

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