2017年以降は企業が法人税の課税方式を選択−サンティアゴで税制改革セミナー開催−

(チリ)

サンティアゴ事務所

2015年01月22日

外国投資委員会(CIE)が主催する税制改革セミナー「税制改革:対内直接投資に向けた挑戦」が2014年12月10日、サンティアゴで開催された。セミナー第1部「チリ〜対内直接投資促進のための新たな戦略〜」ではCIEが、新たな投資促進機関の設立計画をはじめとする対チリ直接投資促進戦略を紹介した。第2部「2014年の税制改革」では財務省から、税制改革の概要や所得税・法人税上の主な変更点、2017年以降の法人税の課税方式の変更などについて説明があった。

<新たな投資促進機関の設立を計画>
サンティアゴ市内のホテルで開催されたセミナーには100人を超える聴衆が参加した。第1部では、CIEのホルヘ・ピサロ・クリスティ副委員長が「チリ〜対内直接投資促進のための新たな戦略〜」と題したプレゼンテーションを行った。

ピサロ副委員長は冒頭、対チリ直接投資の動向について説明した。2013年の対内直接投資(注1)は約203億ドルで、2003年比で約5倍の増加を遂げた。これは世界17位(新興国では8位)の水準で、国・地域別では、米国(シェア16.7%)、オランダ(14.8%)、スペイン(10.4%)が主な投資国となっている。業種別では鉱業(44.9%)、サービス業(17.6%)、電気・ガス・水道関連(10.2%)に集中している。

次いで、投資促進のための新たな戦略を紹介。今後の投資促進のためにはまず、受け身ではなく積極的に投資を誘致していく姿勢が必要とした上で、投資額だけでなく質の向上も重要だと述べた。そして、良質な対内投資がチリにもたらす、輸出産業の高付加価値化、雇用の創出、技術革新、持続的な経済成長といった利点に言及した。

続いて、新たな投資促進機関の設立計画に言及した。これは税制改革における外資法(DL600号)の2016年以降の廃止に伴うもので、CIEに代わって対内直接投資促進を担う機関を設立し、ここが中心となって投資促進活動を展開するというものだ。活動計画の例には、各種関連情報の提供や、投資効率のモニタリングの実施などが挙げられており、機関の設立に当たっては、OECDから専門家を顧問として招くことが視野に入れられている。現在、経済・開発・観光省の傘下に、官民・全業種合同の委員会が構成されており、外資法廃止後の課税制度に関する議論や、新機関設立のための立法手続きに向けた準備などが行われている。

ピサロ副委員長は最後に、政府の取り組みを紹介した。経済・開発・観光省が策定した成長戦略「生産性向上、技術革新、経済成長アジェンダ」においては、投資ファンドの創設や、対内投資促進に向けた組織改革などが強調されている。エネルギー部門では、特に再生可能エネルギー分野への投資が注目されている。また、2014年から2020年にかけて、総額99億ドルのコンセッション(運営権)契約が行われる予定で、うち42億ドルが公共インフラ部門に集中している。こうした中で、バチェレ大統領は自ら米国、スペイン、ドイツ、中国などを訪問し、投資誘致活動を行っている。

<GDP比3%程度の税収増を目指す>
セミナー第2部では、財務省のアルベルト・クエバス氏が「2014年の税制改革」と題したプレゼンテーションを行った。

クエバス氏はまず、税制改革の背景、目的について説明した。1990年以降、経済成長とともに貧困率が低下傾向をたどる一方、2010年のジニ係数は0.5と、チリはOECD加盟国内で最も所得格差が大きい。今般の税制改革は、こうした背景に加え、教育改革にかかる支出や社会保障費の補填(ほてん)、財政赤字の解消、脱税の防止などを目的としたものであり、税収をGDP比3%程度増加させることを目指していると述べた。

続いて、2014年4月1日に税制改革法案を下院に提出してから、9月29日に税制改革法が法20780号として官報に掲載されるまでの経緯(2014年10月1日記事参照)を紹介した後で、新たな税制が段階的に適用されていく予定だと述べた(表参照)。

税制改革の主な内容

次に、所得税・法人税上の主な変更点として、(1)法人税率の段階的引き上げ(税制改革前は20%だったが、2014年の税制改革法発効時に21%、2015年には22.5%、2016年には24%となる)、(2)2017年以降の法人税の課税方式(インテグラド方式またはセミ・インテグラド方式を選択する)、(3)総合補完税の税率引き下げ(40%から35%へ)、(4)中小企業税制の簡素化、(5)その他中小企業への優遇策、の5点を挙げた。

このうち、(2)の2017年以降の法人税の課税方式については、企業は国税庁(SII)への申請を通じ、インテグラド方式またはセミ・インテグラド方式(後述)を選択することになる。この際、個人企業または株式非公開会社の場合には、経営者の同意を取り付けることが必要だ。株式公開会社の場合には、株主総数の3分の2以上の同意を得ることが必要。仮に国税庁への申請が行われなかった場合、個人企業などはインテグラド方式を、法人を株主とする株式会社などはセミ・インテグラド方式を選択したものと見なされる。また、一度いずれかの課税方式を選択した後は、最低5年間は同じ方式を取り続けることが求められる。

インテグラド方式においては、外国企業に対して、国外への配当、送金の有無いかんにかかわらず、会計年度における利益の35%の追加税が課される。しかし、法人税全額分が追加税から控除されるため、例えば2017年の課税率(所得税率と追加税率の和)は、利益の25%(法人税)+〔同35%(追加税)−同25%(法人税控除)〕で35%となる。

一方、セミ・インテグラド方式においては、国外への配当、送金がある場合に限り、会計年度における利益の35%の追加税が課せられる。同方式における法人税率は2017年に25.5%、2018年には27%に引き上げられる。そして、追加税からの控除は法人税の65%分のみであるため、例えば2018年の課税率は、利益の27%(法人税)+〔同35%(追加税)−同17.55%(法人税率×0.65)〕で44.45%となる。ただし、チリと租税条約を締結している国・地域向けに配当や送金を行う場合には、法人税全額分が追加税から控除され、税率が35%を上回ることはないという。

なお、外国投資申請書を提出する際、外資法に基づく課税方式を選択した場合(注2)の課税率は、租税条約が発効していない国・地域向けに配当や送金を行う場合42%、発効済み国・地域の企業の場合35%となる。

最後にクエバス氏は、税制改革に向けた課題、取り組みについて述べた。まず課題として脱税対策の規則が存在しない点を指摘した上で、OECDの税源浸食と利益移転(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)行動計画、G20諸国・地域との脱税およびそれが国際貿易にもたらす有害な影響を排除するための共同プロジェクトや、OECD加盟国・地域の政府機関内での積極的な情報交換を行うことを紹介するとともに、脱税対策規則制定の必要性を訴えた。

(注1)ここでいう「対内直接投資」には、外資法(DL600号)に基づくもののほかに、中銀外為規則第14章、同19章に基づくもの、再投資収益が含まれる。
(注2)チリに投資を行う企業は、外資委員会に外国投資申請書を申請する際、a.各会計年度時点における最新の課税制度に基づく課税方式か、b.外資法に基づく課税方式のいずれかを選択する。

(母良田政秀)

(チリ)

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