ドンの対ドルレートを1%切り下げ、2014年6月以来

(ベトナム)

ハノイ事務所

2015年01月16日

ベトナム国家銀行(中央銀行)は1月6日、ベトナム・ドンに対するドルのコアレートを1ドル=2万1,246ドンから1%切り下げ2万1,458ドンにすると発表した。7日から実施した。2014年6月以来の切り下げ。ベトナム経済への大きな影響はないとする一方で、ODAなど対外債務の支払い負担が増えるとみる向きもある。

<国内外の金融市場の動きに合わせると説明>
ドン切り下げにより為替取引バンド幅は、上限が2万1,458〜2万1,673ドン、下限が2万1,034〜2万1,243ドンとなった。取引バンド幅は1%のままだ。中央銀行はドン切り下げの理由を「国内外の金融市場の動きに合わせるため」と説明している。

2014年6月19日に1%切り下げられ1ドル=2万1,246ドンとなったドンの為替レートは、11月から上昇し、12月には1ドル=2万1,400ドン台までドン安が進んでいた。12月1日に中銀は110億ドルを放出し、為替介入をしていたが、中銀関係者は「ドルが潤沢に流入しており、2014年中のドンの切り下げはない」と言明していた。

当地の金融専門家はドン安の動きについて、心理的な要因や市場の需要があったことによる、と分析している。

まず、テト(旧正月)商戦用の商品の輸入決済がずれ込んだことがある。例年であれば11月で決済が終わるところだが、2015年はテト期間が2月中旬となるために、決済が12月までずれ込んだことが影響しているという(当地日系金融機関)。

次に、他のアジア近隣諸国の対ドル為替レートがドル高に進んでいることが挙げられる。近隣諸国の通貨と比べ、ドンはドル高が進行していないと市場ではみられていた。このため、当地のある金融機関のレポートは、中銀が2015年第1四半期の中頃に1%のドン切り下げを行うと予測していた。

<インフレ招かないとの見方>
ドン切り下げ発表後のドルに対するドンの為替レートは取引バンド幅に収まり安定しているようだ(当地日系金融機関)。1月8日付当地英字紙「ベトナムニュース」電子版は、今回のドンの切り下げはベトナム経済に大きな影響を与えないとし、その背景として、2014年の貿易黒字が20億ドル、外国直接投資が156億ドル(送金ベース)と、ドルが潤沢に流入していたことを挙げている。また当地日系金融機関も、2014年のインフレ率が年平均で4.1%と大きな上昇ではないため、ドン切り下げが高インフレを招くことはないとみている。

今回の切り下げに関する地場企業の反応について当地報道は、輸入企業にとって不利に働き、輸出企業も原材料を輸入に頼った場合、1%の下げ幅ではそれほどメリットがあるわけではないと伝えている。

グエン・バン・ビン中銀総裁は「2014年末、2015年のドンの切り下げ幅は2%以内にする」と発言しており、今回の1%に加え、さらに切り下げがあるのではないかとの見方もある(当地日系金融機関)。

その理由として、まず貿易赤字がある。単月の貿易赤字は2014年9月から続いており、さらに商工省は、2015年の貿易収支は赤字に転じるため、ドル需要が多くなると予測している。次に米国の金利引き上げがある。2015年中に米国が金利引き上げに踏み切ると、ドル高圧力が高まり、近隣アジア諸国の通貨も下落するのではないかとみられている(同)。

一方、1月9日付の当地英字紙「サイゴンタイムズ」電子版は、ドンの切り下げにより対外債務の支払いに影響が出ると指摘する。2014年の名目GDPは1,830億ドルで、うち対外債務は730億ドルとなっている。今回のドンの切り下げにより、ドンに換算すると15兆ドンを余分に支払う必要が出てくるようだ。

また同紙は、ベトナムが中所得国入りしていることから、ODAによる借款の金利も、世界銀行が年利0%から1.25%に、アジア開発銀行(ADB)も同1〜1.5%から2%に高めており、さらなる負担増になる、としている。

(佐藤進)

(ベトナム)

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