2015年中の施行に向け進む体制整備−越境交通協定の進捗(2)−

(タイ)

アジア大洋州課

2015年01月15日

2014年12月20日にバンコクで開催された第5回大メコン圏(GMS)開発プログラムサミットでは、越境交通協定(CBTA)に関する進捗が報告された。また同サミットで採択された、今後10年間の地域投資枠組み(RIF)の当初5年間の実施計画(RIF−IP)の中でも、越境貿易円滑化に関する今後の優先取り組み事業が決定された。タイ運輸省と税関総局にヒアリングした内容を踏まえ、CBTAの現状を報告する。連載の後編。

<タイ、ミャンマーが残る付属書・議定書の批准急ぐ>
大メコン圏(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの5ヵ国に中国・雲南省、広西チワン族自治区を加えた地域)におけるCBTA(Cross Border Transport Facilitation Agreement)は、協定書本体と17の付属書、3つの議定書から構成される。協定が発効するためには、それぞれの付属書・議定書に各国が署名し、その後個別に批准される必要があるが、2014年12月時点でタイ、ミャンマーの2ヵ国はいくつかの付属書・議定書の批准が完了していなかった(表1参照)。

表1越境交通協定(CBTA)付属書および議定書の批准状況

このうちタイの状況につき、2014年11月に運輸省および税関総局に対しヒアリングを実施した。まず運輸省についてはノンラック運輸計画課長から、付属書1(危険品の運搬)および10(輸送条件)の2つに関し責任を有し、批准のために2つの国内法の改正案を国会に提出、既に承認を得ていると説明を受けた。残る付属書4(越境手続きの促進)、6(トランジット・内陸通関制度)、8(車両の一時的輸入)、14(コンテナ税関制度)については税関総局の管轄であり、作業を待っている状態とのことだった。

また税関総局からはクリティカ法務局長より、それら4つの付属書を批准するための前提となる、「GMS協定に基づく改正税関法」が11月7日に議会承認を受け、国王の署名待ちとなっていると説明があった。同法の制定により、例えばCBTAで設定された国境における共通検査エリア(CCA)を設定する上で必要となる、タイ税関職員の相手国での越境業務が可能となる。これらの説明からは、付属書を批准するための国内法の改正作業が最終段階にあり、できるだけ速やかにCBTAの導入を行いたいとする姿勢が見て取れる。

なお、ミャンマーとタイは当初、第5回GMSサミットまでの全付属書・議定書の批准完了を目指していたが、間に合わなかったもようだ。タイに関しては、英字紙「ネーション」(2014年12月21日)において、プラユット首相が2015年の早い段階での批准に言及し、ミャンマーについても8月の日メコン経済相会合でCBTAの早期批准に努めていると述べたことから、2015年中にCBTAが全面的に施行できる体制がGMSプログラム参加6ヵ国で整うことが期待される。

<タイ国境でもCCAの導入準備が進む>
東西経済回廊沿いのダンサワン(ラオス)・ラオバオ(ベトナム)国境で2015年1月1日に初めて本格導入されたCCAに関しても、タイ運輸省と税関総局へのヒアリングにより、タイ側国境における準備状況が明らかとなった。

まず東西経済回廊のムクダハン(タイ)・サバナケット(ラオス)国境については、2013年3月に運輸省より越境交通促進法が施行され、同年5月に開催された第2回東西経済回廊外務副大臣会合において採択された「サバナケット宣言」においても、同国境におけるシングルストップ検査の実施に向けたタイの取り組みが評価された。今回のヒアリングで運輸省のノンラック課長は、同国境でのCCAの実施は2015年の第3四半期ごろになるとの見通しを示し、今後関係省庁・機関との連携を強化したいと述べた。

南部経済回廊のアランヤプラテート(タイ)・ポイペト(カンボジア)国境については、税関総局より、アランヤプラテート側でCCAの実施のためのハードインフラの整備が進んでいないとの報告があった。またCCAが実施される関係機関間の横断的な検査場(Inter−agency Control Station:ICS)の設置場所については、カンボジアとの間で覚書を結び、選定を進めているとのことだ。

<衛生植物検疫の近代化や物流の透明性向上に期待>
第5回GMSサミットでは、CBTAに関連する進捗として、前述したダンサワン・ラオバオ国境におけるCCAの実施に加え、(1)南部経済回廊沿いのカンボジア・ベトナム間、(2)北部経済回廊沿いの中国・ラオス間のそれぞれの越境交通権に関する覚書、および(3)ラオス・タイ・ベトナム3ヵ国間の越境交通権に関する覚書において、対象ルートをそれぞれの首都まで延長することについて実施に向けた努力が続けられるなど、実質的な進展があったことが認識された。また今後の取り組みとしては、中国・ラオス・タイの3ヵ国間で進められている、南北経済回廊におけるCBTAの実施覚書に関する交渉を加速すること、中国・ミャンマー間で越境交通および貿易促進覚書に関する交渉を行うことが促されている。

なお今回のサミットでは、今後10年間のGMS地域投資枠組み(RIF、全体は2012年採択)の当初5年間の実施計画(RIF−IP)が採択された。当該計画の中では、貿易円滑化について5つの投資計画・技術支援事業が盛り込まれている(表2参照)。

表2GMS地域投資枠組み行動計画(RIF−IP)における貿易円滑化関連事業

また今後の協力の方向性として、(1)(現在2ヵ国間・3ヵ国間で覚書を結ぶかたちで進むトラックの相互乗り入れなどの)交通権相互付与のさらなる拡大・整理、(2)参加国の税関手続きおよび運用の簡素化、標準化、調和推進による一貫性のある国境管理の促進、(3)(上記トラック相互乗り入れに関する覚書など)2ヵ国間越境貿易協定のドラフト作成および改正支援、(4)チェックポイントでのシングルウインドー、シングルストップ検査の実施促進、(5)衛生植物検疫機関の近代化を通じたGMS域内での貿易における衛生植物検疫制度の促進、(6)技術協力事業および産業界との連携を通じた貿易円滑化のための各国・地域における関連機関の機能強化、(7)経済回廊沿いの中小企業の物流能力強化を通じた効果的な地域貿易物流戦略の策定、(8)物流網全体の透明性向上を通じた法規制の実効性の確保、の8つが挙げられている。

(蒲田亮平)

(タイ)

東西経済回廊の国境でシングルストップ検査の第4フェーズ実施−越境交通協定の進捗(1)−

ビジネス短信 54b4b835b5658