非正規「インフォーマル経済」のGDP比率は24.8%−労働市場の正規化が急務−

(メキシコ)

中南米課

2015年01月09日

国立統計地理情報院(INEGI)によると、2013年のメキシコのGDPに占める「インフォーマル経済」(非正規部門の合計)の比率は24.8%だった。就業人口の約6割が税金も社会保険も負担しない、合法的な雇用契約のない非正規労働者で、非正規労働の労働生産性は低いため、国の経済への貢献度は低い。正規雇用を増やし、労働市場の正規化を図ることがメキシコ経済のさらなる成長に向けたカギとなる。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<依然として高い非正規労働比率>
INEGIは2014年12月16日、2003〜2013年のGDPと雇用におけるインフォーマル経済の規模に関する統計データを発表した。それによると、2013年のGDPに占めるインフォーマル経済の比率は24.8%、雇用に占める比率は59.0%だった(図1参照)。

図1GDPと雇用における非正規部門(注)の比率(2013年)

「インフォーマル経済」とは、ILOが2012年10月31日に公式に発表したマニュアルに準じるかたちで、INEGIが四半期ごとの全国就業雇用調査(ENOE)の中で発表している「非正規労働者」によって生み出される経済活動だ。「非正規労働者」は、事業所による分類と就業ステータスによる分類の2つの側面から集計されており、事業所による分類では、非合法な事業所で働く労働者(露天商、行商人、犯罪組織構成員など)を「インフォーマル部門」の労働者として計上する。他方、就業ステータスによる分類では、たとえ合法的な事業所に雇用されている労働者であっても、社会保険登録がされておらず、当該雇用が法的枠組みによる保護を受けていない場合、当該労働者を「その他非正規」部門の労働者と見なしている。社会保険登録をしていない企業内労働者、自給自足的な農家で働く労働者、家内労働者(家政婦など)が相当する。

最新の2014年第3四半期のENOEによると、就業人口に占める非正規労働者の比率は58.1%で、2013年平均より0.9ポイント下回っている(添付資料参照)。うち「インフォーマル部門」は27.2%と、2013年平均より1.1ポイント下がっている。また、「その他非正規」部門(30.9%)の内訳をみると、企業・政府・団体で働いていながら雇用契約がない労働者が13.6%、農牧業従事者が12.8%、家内労働者(家政婦など)が4.5%を占める。

インフォーマル経済の比率は、2003年の27.2%から2013年は24.8%へと2.4ポイント低下しているが、それでも依然として経済全体の約4分の1を占めている。非正規労働比率(インフォーマル部門とその他非正規部門の合計)は過去10年で大きな変化がなく、依然として6割近い就業者が社会保険などのセーフティーネットでカバーされていない非正規労働者だ(図2参照)。

図2GDPと雇用における非正規比率の推移

<景気悪化時の緩衝材として機能>
各部門の成長率(粗付加価値額の実質伸び率、図3参照)をみると、「インフォーマル部門」はリーマン・ショック直後の2009年でもプラスを維持している。事業所自体が非合法であるため、さまざまな外的要因の影響を受けにくいとみられる。また、合法的な事業所の収益が悪化する際に、インフォーマル部門に労働力が流れることも影響していると考えられる。

他方、「その他非正規」部門の成長率は、景気の浮き沈みの影響を強く受けている。リーマン・ショック直後の2009年にはマイナス11.7%と大幅に落ち込んだが、翌2010年にはプラス6.4%と正規部門を上回る回復をみせている。「その他非正規」部門の成長率には、合法的な雇用契約なしで雇用されている労働者が生み出す経済活動が大きく影響し、雇用契約がないため景気悪化時には正規労働者に比べると簡単に解雇される側面があるほか、景気の回復が本調子でない時には、正規雇用をするよりも解雇しやすい「非正規労働」を雇用主が選択するインセンティブが働いていると考えられる。

図3各部門の実質成長率(総付加価値伸び率)推移

<商業で高いインフォーマル部門比率>
インフォーマル経済の産業別構成比をみると、商業が最も大きく33.2%、製造業(14.9%)、農牧業(12.3%)、運輸・倉庫(8.5%)、人的サービス・修理・メンテナンス(6.7%)、建設(5.8%)と続く(図4参照)。「インフォーマル部門」と「その他非正規」部門で構成比が大きく異なり、「インフォーマル部門」では商業の比率が5割以上を占めるのに対し、「その他非正規」部門では業種の偏りが少なくなり、農牧業や人的サービスなどの比率が比較的高くなっている。

図4インフォーマル部門とその他非正規部門の産業別構成比(2013年)

メキシコの1人当たりGDPは2011年以降、1万ドルを超えているが、首都メキシコ市の交差点などではいまだに行商人を多く見掛け、違法なルートで仕入れたたばこや菓子、玩具や雑貨などを通常の小売価格よりも安く販売している。露天商もいたるところにおり、中には海賊版のCD・DVDや有名ブランドの模倣品など知的財産権侵害品を販売する店もある。これらの商人・商店が「インフォーマル部門」の代表例だ。

他方、「その他非正規」部門は、合法的な事業所で働きながらも雇用契約や社会保険登録のない労働者が主体であるため、業種は多岐にわたる。また、自給自足的な農村労働者や富裕層の家庭で働く雇用契約のない家政婦なども同部門に入るため、農牧業や人的サービスの比率が高くなっている。

合法的な事業所で働いている非正規労働者の中には、違法な人材派遣会社が派遣している派遣労働者が含まれている。政府当局はこのような違法な人材派遣ビジネスを取り締まるため、派遣会社が社会保険負担義務を怠った場合には派遣先にも連帯責任を負わせる社会保険法の改正(2009年7月10日記事参照)や、人材派遣サービスの定義を厳格にして違法ビジネスをやりにくくする労働法の改正(2012年12月7日記事参照)などの対策を実施しているが、2014年第3四半期においても企業・政府・団体で働く雇用契約・社会保険なしの労働者が約678万人存在する。

<インフォーマル経済の労働生産性は正規経済の3分の1以下>
正規経済とインフォーマル経済の労働生産性(注1)のデータをみると、正規経済が2003〜2013年に年平均38万8,154ペソ(2008年価格、同年の期中平均対円レートでは約364万8,648円、1ペソ=約9.4円)であるのに対し、インフォーマル経済では同11万8,857ペソにとどまり、その差は3倍以上に達する。インフォーマル経済をさらに「インフォーマル部門」と「その他非正規」部門に分けると、「インフォーマル部門」は11万2,460ペソ、「その他非正規」部門は12万3,559ペソで、「インフォーマル部門」の労働生産性が非常に低いのが分かる。

もしインフォーマル経済が全く存在せず、正規経済部門と同様の労働生産性を全就業者で発揮していたと仮定した場合の理想の粗付加価値総額を計算すると、メキシコ国内の粗付加価値総額は実際の額の約1.6倍の規模となり、2013年には21兆3,200億ペソ(2008年価格)に達していたことになる(図5参照)。

図5国内総付加価値額の実際値と理想値

上述の2013年の理想の粗付加価値総額に「輸入税・間接税−補助金」の推定値(注2)を加えてGDP総額を算出し、2008年の対ドル為替レート(1ドル=11.1297ペソ)でドル換算すると、2013年の理想のドル建てGDP総額は1兆9,156億ドルとなる。IMFのデータ(2014年10月発表値)によると、名目ドル建てGDP総額の国際比較において2013年にメキシコは世界15位(1兆2,609億ドル)だが、インフォーマル経済がなかったと仮定した場合の理想値を当てはめるとインドを上回る世界10位になる。

インフォーマル経済対策はメキシコの経済成長を加速させるためのカギといえるが、非正規部門の雇用が国の雇用の大部分を支えているという社会的特性から、インフォーマル経済の抜本的な取り締まりは困難だ。政府や議会は労働法の改正による労働市場の柔軟化を進め、合法的な事業所における非合法な就労を減らそうとしているが、定年制がなく、期限付き採用が難しいなど現行労働法も正規労働者を過度に保護する内容となっており、雇用主が正規雇用を敬遠する要因にもなっている。

また、国税庁(SAT)は納税手続きやそれに用いる必要書類の電子化を通じて、合法的な事業所の非合法な事業所からの仕入れを困難にするような対策を講じているが、非合法な事業所の全てを合法化させるためには、まだ多くの時間を要するという見方が一般的だ。経済成長を加速し、正規部門の雇用を増やしていくという対策だけでなく、インフォーマルからフォーマルへの転換を促すような政策のさらなる強化が求められている。

(注1)当該部門の粗付加価値額(2008年のペソ価格)を同部門の就業者数で除したもの。
(注2)経済活動別に配分することが困難な輸入品に課される税・関税などの租税や補助金(控除)は毎年、国内粗付加価値総額の2.64〜2.65%(過去10年の平均は2.64%)に相当するため、この数字を基に2013年の租税(マイナス補助金)を計算すると5,633億ペソ(2008年価格)、GDP総額は21兆8,829億ペソとなる。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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