香港の大規模民主化デモは完全終結

(香港)

香港事務所

2014年12月25日

9月22日に発生した香港の大規模な民主化デモは12月15日、香港警察によるデモ隊の強制排除というかたちで完全に終結し、全域で交通・経済活動が平常に戻った。この間、幹線道路の交通網は大きく混乱し、周囲の店舗の売り上げは減少した。しかし、デモ隊・香港警察双方が極めて抑制的に行動したことから、3ヵ月にわたる大規模デモにもかかわらず、死者・重傷者を1人も出すことなくデモは収束した。深刻な影響を受けた企業はほとんどないようだが、消費者マインドの落ち込みがみられることから、2014年第4四半期および通年の経済成長率への影響は避けられないもようだ。

<香港社会の成熟度の高さ示す>
2017年に実施予定の香港行政長官の選挙制度をめぐって9月22日に発生した香港の大規模な民主化デモは、香港政府本部や中国人民解放軍香港駐在部隊の所在するアドミラルティ(金鐘)に加え、コーズウェイベイ(銅鑼湾)、モンコック(旺角)などの主要なビジネス街・繁華街まで拡大し、デモ隊により周辺道路が占拠・封鎖されていた。

デモ開始2ヵ月後の11月25日にモンコックで警察によるデモ隊の強制排除が行われた。その後、12月11日に最大の占拠現場アドミラルティ、12月15日にコーズウェイベイで最後の強制撤去が行われ、約3ヵ月にわたった民主化デモは完全に終結した。

香港警察によると、一連のデモにより995人が逮捕され75人が自首したが、デモ隊・香港警察双方が極めて抑制的に行動したことにより(注)、3ヵ月にもわたる大規模デモにもかかわらず、略奪・暴動・放火などは1件も発生していないほか、死者・重傷者を1人も出すことなくデモが収束した。また、デモ期間を通じて香港全域で治安の悪化はみられず、香港社会の成熟度・民度の高さを示す結果となった。

12月15日にデモが終結し、占拠されていた道路交通の再開により、香港の交通網は全面的に回復した。また、占拠が行われていた道路沿いの店舗の営業も平常に戻っているほか、香港金融管理局によると、市内の銀行支店は全て通常どおりの営業に復帰するなど、12月16日現在、香港の市民生活は通常に戻っている。

<消費マインドは悪化>
デモ中には、占拠が行われた道路沿いの店舗や金融機関の支店が一部休業したほか、バスルートの変更が行われるなど公共交通網にも大きな影響が出た。しかし、金融市場や企業の資金決済には特段の影響は生じず、観光客数についても前年同期比で増加するなど、ビジネス環境への直接的な影響は限定的だった。

ジェトロ香港事務所のヒアリングによると、今回のデモにより、経営上の深刻な影響を受けた企業は、(日系であるか現地系であるか問わず)ほとんどないようだ。しかし、デモ地域周辺で営業を行っている外食や小売業などは、顧客が減少するなど何らかの影響を受けたとみられる。

例えば小売業に関して、香港政府統計処の発表(12月1日)によると、10月の小売売上高は前年同月比1.4%増と、デモの影響が出ていない前月(9月)の4.8%増と比べて成長率が鈍化した。品目別にみると、電子機器・撮影器材(前年同月比23.6%増)などは増加したものの、2014年4月から7月に2桁の落ち込みをみせていた宝飾・時計などの高級品は、9月にようやく2.7%増のプラス成長に転じたのが、10月に11.6%減と、再び減少に転じた。また、衣料品・履物は9月の7.6%増から10月に8.0%減のマイナス成長へ、自動車・バイクは9月の15.0%増から10月に1.9%増へ大幅に鈍化している。

香港政府は、これらの要因を大規模デモが消費者マインドに悪影響を与えたためとみており、短期的には今後の小売売上高にも悪影響が続くと見込んでいる。

<本土からの観光客は増加、他地域からの観光客は減少>
観光業に関しては、大規模デモ発生を受けて中国国家観光局が9月30日〜10月7日まで香港ツアーのビザ発行を停止した。それにもかかわらず、香港政府観光局によると、10月の中国本土からの観光客数は前年同月比18.3%増を記録し、観光客数全体としても12.6%増を記録した。一方、中国本土以外の地域からの観光客は、世界中でデモの様子が繰り返し放映された影響もあり、3.3%減と減少に転じた。

香港政府は、デモ中の3ヵ月間、金融や対外貿易など経済活動は通常どおり継続してきたものの、消費者マインドや投資意欲の低下で景気下振れリスクが高まり、2014年第4四半期の経済成長については楽観視できないとしている。こうした現状を踏まえ、香港政府は、現時点で2014年通年のGDP成長率見通しを2.2%としているものの、下方修正の可能性についても言及している。

また、香港政府の曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官は「香港の小売業、飲食業、ホテル業、運輸業、観光業が特にデモの影響を受けている。また、中小企業のビジネス環境の悪化に加え、本土以外の観光客数が減少に転じるなど、デモが香港経済に与えた影響に注意を払う必要がある」と述べるなど懸念を表明している。

<影響は限定的との見方が大勢>
デモの経済的影響についての各業界の声は以下のとおり。

○小売業管理協会の麥瑞●(王へんに京)主席:デモの影響を踏まえ、2014年の小売売上高は前年比で横ばいになり、2〜3%の成長を達成するのは難しい(「商報」12月2日)。

○香港餐飲聯業協会の黄家和会長:9月下旬から12月現在に至るまで、デモにより、飲食業界は30億香港ドル(約450億円、1香港ドル=約15円)の損失が生じた。10月と11月の飲食業の売上高は、この2ヵ月間で前年同期比17%以上の減少となった(「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙12月11日)。

○中国銀行(香港)の楊志威副総裁:抗議活動の影響により、占拠が行われていた地域(モンコック、セントラルなど)に限定していえば、クレジットカードの消費額が40〜50%減と大幅に減少した。しかし、こうした状況は持続しないとみられる。抗議活動が平和に収束した後、消費者マインドが改善し、消費も回復すると予測している(「商報」12月3日)。

○香港貿易発展局の方舜文総裁:デモ期間中に行われた7つの展示会で、デモを理由に欠席した出展企業は1社もなかった。デモは小売業や運輸業に影響を与えたものの、香港の貿易に支障を来さなかった(「商報」11月25日)。

(注)デモ隊は、占拠現場の清掃活動を自主的に行うなど占拠現場の秩序維持に配意していたほか、警察やデモ反対派との衝突で暴力が発生しそうになる都度、両手を上げて「冷静に!暴力は絶対だめだ!」と叫んでつかみ合う当事者の間に体を入れるなど、非暴力の姿勢を徹底していた。また、香港警察も、殺傷能力のある銃器などを使用せず、デモ発生当初は催涙弾を多数発射したものの、基本的には警棒や楯、人海戦術などによる抑制的な法執行に極力努めていた。

(和瀬幸太郎、メーガン・クォック)

(香港)

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