投資委員会が新投資促進戦略を発表、2015年1月1日から適用−奨励対象から外れる事業も−

(タイ)

バンコク事務所

2014年12月10日

タイ投資委員会(BOI)は12月4日、新投資促進戦略を詳細とともにウェブサイトにて発表した。新戦略は11月25日のBOIで採択され、12月3日にプラユット首相が署名した。2015年1月1日以降に投資申請書を受理した案件から適用されるが、全体的に現在の投資恩典制度より厳しくなっている。このため年末までの駆け込み申請と、2015年の投資恩典申請額の反動減が予想される。

<新戦略の実施期間は7年間に>
BOIは2013年1月に、2015年1月から5年間の新投資促進戦略の草案を国内外の投資家に広く提示し、パブリックヒアリングを行うなどして改定作業を進めてきた。その間、2014年5月に発生したクーデターの影響もあり、新戦略の発表が遅れていた。

新戦略の草案では、実施期間は2015年から2019年の5年間とされていたが、今回の発表では2015年から2021年の7年間となっている。これは新戦略の実施機関を国家経済社会開発庁(NESDB)の経済社会開発計画の次期5ヵ年計画に合わせたためだ。

<立地場所に関係なく事業ごとの恩典に>
新戦略の恩典制度では、従来のゾーン制が廃止され、立地場所に関係なく事業ごとに付与される恩典が定められた。各事業は法人税の免除を受けることができるグループA(A1〜A4)と、法人税の免税恩典がないグループB(B1、B2)に分けられる〔表1参照、詳細はBOIのウェブサイト(タイ語)を参照〕。さらに、法人税免税についてはメリットベースの恩典で最大3年間の法人税免税期間を追加(ただし、A1とA2は免税期間である8年間終了後、さらに5年間の法人税半減)することができる。

表1グループごとの恩典内容

メリットベース恩典とは、以下の(1)から(6)の活動のために要した費用または投資額の最初の3年間の収入(売上高)に対する比率または金額により、追加で法人税免除期間を付与するというもの(表2参照)。

(1)社内研究開発、タイ国内外の研究アウトソース
(2)技術・人材開発基金や教育・研究機関、政府機関への寄付
(3)タイで開発された技術を商品化するためのライセンス料
(4)社内での高度技術トレーニング
(5)タイ国内のローカルサプライヤー(タイ資本51%以上)のトレーニングおよび技術援助による開発
(6)製品およびパッケージデザイン(アウトソースも可)

表2メリットベース恩典の付与基準

<多分野にわたり奨励対象から除外>
新投資促進戦略では現行の奨励対象事業から多くの事業が外される。今回発表された奨励対象事業と現行の奨励事業を比較したところ、以下の事業が奨励から外されることが明らかになった。

(1)1類:農業および農産品からの製造業
○1.2水耕(Hydroponics)栽培
○1.3「植林」のうちユーカリ
○1.6家畜飼料あるいは飼料成分の製造
○1.11最新技術による食品製造・保存、加工(飲用水、アイスクリームを除く)の次の事業
・1.11.4「植物、野菜、果実からの飲料製造(アルコールを除く)」のうち、カフェインが入っている飲料(緑茶を含む)および炭酸飲料
・1.11.8「即席食品あるいは半即席食品の製造あるいは保存」のうち、ラーメン、鶏スープ、ツバメスープ、ベーカリー
・1.11.9キャンディー、チョコレート、ガムの製造
○1.12「植物および動物からの油脂の製造」のうち、大豆から製造する油
○1.13「植物からのでんぷん、デキストリン、加工でんぷんの製造」のうち、植物から作る一般的なでんぷん
○1.14「近代的技術による、野菜、果物、花の品質選別および包装、保管」のうち、一般的なコメの品質選別事業
○1.16「天然ゴムからの製品の製造」のうち、輪ゴム、風船、Oリング
○1.21農場マネジメントサービス
(2)2類:鉱山、セラミックス、基本金属
○2.2「鉱山および鉱山の選鉱(スズ鉱を除く)」のうち、カリウム以外
○2.3大理石あるいは花こう岩の採掘
○2.4精錬
○2.5「セラミックス製品の製造」の次の事業
・2.5.1「セラミックス製品の製造(土器を除く)」のうち、床材、壁材
・2.5.2「屋根瓦の製造」
○2.9公共施設プロジェクトのための高圧コンクリート製品の製造
(3)3類:軽工業品
○3.1「繊維製品あるいはその部品の製造」の次の事業
・3.1.9カーペットの製造
・3.1.10漁網の製造
○3.11文房具あるいはその部品の製造
○3.14人造物の製造(禁止木材からのものを除く)
○3.16サンドペーパーの製造
(4)4類:金属製品、機械、輸送機器
○4.1手工具および計測器の製造
○4.7電動式乗り物の製造〔タイ(仏歴2522年、西暦1979年)の自動車法に基づき登記できないものに限る〕
○4.9「航空機の製造、修理、改造(Aircraft Conversion)および航空機備品、部品あるいは航空機内用品の製造あるいは修理」のうち、消耗品(航空機の胴体の製造、重要部品、エンジン、プロペラ、電子部品、飛行機内の備品は引き続き奨励対象)
○4.16乗り物の部品、電気・電子設備の修理
○4.17産業用機械・備品の修理
○4.18コンテナーの製造およびメンテナンス
○4.20既製住宅(Completely Built Unit:CBU)またはノックダウン住宅(Completely Knocked Down:CKD)の組み立て
(5)6類:化学工業、紙およびプラスチック
○6.2「工業用化学品の製造」のうち、日用品の化学品、洗剤、セメント用の接着剤
○6.6化学肥料の製造
○6.7殺虫剤、雑草駆除薬の製造
○6.8染料および染色材の製造の次の事業
・6.8.3「ペンキおよびインキ」のうち、ペンキ
○6.9ボディケア製品の製造
○6.12「プラスチックおよびプラスチックコートによる製品」のうち、日用品のプラスチック製品
○6.13「パルプの製造」のうち、ハイジニックパルプおよびスペシャルティーパルプ以外
○6.14「紙の製造」のうち、ハイジニックペーパーおよびスペシャルティーペーパー以外
○6.15「パルプあるいは紙による製品の製造」のうち、ハイジニックペーパー、スペシャルティーペーパー、バイオプラスチックコーティングを施した紙から作る製品以外
(6)7類:サービス、公共事業
○7.1公共事業の次の事業
・7.1.3道路(Concession Road)
・7.1.7人工衛星通信
・7.1.8電話
・7.1.9天然ガス分離事業
○7.4観光支援のための産業の次の事業
・7.4.4高齢者のための福祉施設
・7.4.6ロングステイ支援のための事業
○7.5中低所得者住宅
○7.7病院
○7.8産業用地の開発事業の次の事業
・7.8.3自由貿易ゾーン(Free Trade Zone)およびフリーゾーンのための保税倉庫区
○7.9大量輸送および大型貨物輸送の次の事業
・7.9.6タグボート
○7.14国際貿易業
○7.18人材開発の次の事業
・7.18.2インターナショナルスクール
・7.18.3ホテル専門学校
・7.18.4海事訓練学校
○7.24デザイン・センター

<奨励事業に使用できる中古機械が5年以内に制限>
現在の制度では、製造日から輸入日までの期間が10年以内の中古機械は、第三者の検査機関の証明があれば輸入税の減免の恩典を受けることができる。また、10年を経過した中古機械であっても、関税および付加価値税を支払えば奨励事業に用いることができる。

しかし、新戦略では「5年以内の中古機械で、検査機関の証明があれば法人税免税対象額の一部となる投資額に含めることができる。しかし、輸入税の免税は受けられない」となっている。これは中古機械について輸入税の免税が受けられなくなっただけではなく、5年を経過した中古機械は関税や付加価値税を支払ったとしても、奨励事業に利用することができなくなることを意味する。さらに、検査機関の証明についてはこれまでの能力証明だけではなく「価格」も証明する必要があるとしている。

なお、中古プレス機械のみ特例として5年を経過していても10年までであれば、法人税免税対象金額の一部となる投資金額に加えることができる上、奨励事業での使用が認められている。

また、現在の制度では一般的に20%以上の付加価値を付ける事業であることが奨励の条件となっているが、電子製品および部品、農水産業および農水産加工品、電子事業、コイルセンターなどはこの条件の例外扱いとされている。ところが、新投資促進戦略ではこれらの事業についても「付加価値10%以上」を満たす必要があることが明記された。

<所得の低い20県への投資には特例措置>
1人当たり所得の低い20県(注)については、特例で恩典を追加する措置が設けられた。これらの県に立地する場合には次の恩典が追加される。

○法人税の免税期間を3年追加(ただし、他の恩典と合わせて8年以下。A1、A2に分類される恩典を得ている場合、8年経過後、5年間法人税を半減)
○初めて収益が生じた日から10年間、輸送費、電気代、水道費の2倍まで控除可能
○インフラ建設費、建設費の25%を初めて収益が生じた日から10年以内であれば減価償却に加えて控除可能

<現行制度と変わらない恩典の基準も>
上述のように一部の基準については変更になるが、以下の基準は現行制度から変わらない。

○最低投資額100万バーツ(土地代、運転資金を除く。一部事業では例外あり)
○借入金と自己資金の比率が3対1を超えてはいけない
○外国人事業法のリスト2、3で規制されている業種については他に特別な法令がある場合を除き、BOIの恩典を受ければ外国人過半数超の出資が認められる
○1,000万バーツを超える投資については、ISO9000またはISO14000または類似した国際基準を操業後2年以内に取得しなければならない。不可能な場合は法人税免税期間が1年間減となる
○タイ工業団地公社(IEAT)傘下の工業団地、またはBOIの奨励を受けた工業団地に立地する場合、さらに1年間の法人税免税の恩典が与えられる(ただし、合計8年の免税期間が上限)

<日系企業向けに説明会を開催>
BOIは関係機関などと連携して、バンコク市内のホテルで2014年12月22日に日系企業向けの説明会を開催する(ジェトロ・バンコク事務所共催)。全体説明のほか、BOIの部構成に従ったかたちで、(1)食品・軽工業・医療、(2)金属・自動車、(3)電気・電子、(4)化学・サービスの各分科会に分かれた説明がある予定だ。そのほかにも、タイ企業を主な対象(日本語通訳あり)とした説明会を12月15日に開催(受付は締め切られている)するほか、外国人商工会議所などを対象にしたセミナーを開催予定としている。

(注)カラシン、チャイヤプーム、ナコンパノム、ナーン、ブンガーン、ブリラム、プレー、マハーサーラカーム、ムクダハン、メーホンソン、ヤソートーン、ローイエット、シーサケート、サコンナコーン、サケーオ、スコータイ、スリン、ノーンブアランプー、ウボンラーチャターニー、アムナートジャルーン。

(長谷塲純一郎)

(タイ)

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